D4のスニーカーを考える
※この記事はこちらのポッドキャストを元に加筆修正を行ったものです。
音声版もよろしくお願い致します。
舞台ヒプノシスマイク(通称:ヒプステ)には、原作キャラクターに勝るとも劣らない個性的なオリジナルキャラクターたちが登場する。
4回目となる今回も彼らが身につけているスニーカーに焦点を当てて考察していきたい。
この特集のラストを飾るのはD4。
最後に登場したヒプステのオリジナルキャラ(Mix Tape 1の幻のオリジナルキャラ正親町直里を除く)ということもあり、これまでのノウハウを詰め込んだ集大成のようなデザインである彼ら。足元を飾るスニーカーへの中原氏のこだわりも尋常ではないだろう。
そんな彼らの愛用するモデルを紹介していこう。
アクロバットが代名詞となりつつある谷ケ崎だが、彼もまた狐久里と同じく時期によって履くモデルが変わる。ヒプステTrack.5のキャラクタービジュアル解禁時と初期のブロマイド(同じタイミングで撮影されたと思われる)では、全体のホワイトとエアー部分が印象的なジョーダンポイントレーンを履いているが、本公演がスタートして以降は一貫してシルバーと曲線的なデザインが映えるエアフォームポジットワンを愛用している。どちらのモデルも元々はバスケシューズなので彼の十八番であるアクロバットを大いにサポートしてくれる。
公演前に履いているジョーダンポイントレーンは、屈指の名作スニーカーであるエアジョーダンシリーズの3・6・11の3つの型の要素を合体させて作られたハイブリッドモデル。エアジョーダンのインスパイア元であるマイケル・ジョーダンの不屈の精神をイメージして作られているという。このモデルを履いている谷ケ崎を本公演で見ることは惜しくも叶わなかったが、不屈の精神が宿るこの一足はどん底から這い上がる彼の生き様にぴったりのチョイスではないだろうか。
また、ジョーダンポイントレーンはエアジョーダンが元になったモデルであると書いたが、H歴にはエアジョーダンにそっくりな赤い靴を愛用する青年がいる。そう、山田一郎である。ここも一郎の対のキャラとして意識されているのだろうか。こうなるとジョーダンポイントレーンを履いてパフォーマンスする谷ケ崎も見たくなってしまうのがファン心。
本公演で彼が履くエアフォームポジットワンは、我々にも馴染み深いモデル。甲殻のようなシルバー部分が目を引く独特な外見だが、見た目ほど固いわけでもなく、元々はスニーカーというよりはバッシュに近いデザインのためソールも厚めのものが採用されており意外にも履きやすい逸品。根強いファンも多く、新作がアナウンスされると即完売を叩き出すほど。どこで手に入れたんですか伊吹。
Track.5公演時点だとこのモデルの生産はしばらくストップしていて、知る人ぞ知る幻のスニーカーとなっていたが、2024年現在再び新しいモデルが発表されるようになった。彼の心が過去で止まっていることを表していたのかもしれない。
謎多き男・有馬の履くブレーザーはNIKEの製品の中でもかなりの初期からあるモデル。生まれた歴史で言うと、誰も知るエアで始まるNIKEの名作たちよりもさらに前から売れ続けている永遠の定番。今でも手軽に手に入れることができる。有馬は全体的にスタイリングがビンテージ寄りなので、古くからのモデルが好きなのかも知れない。靴としてのブレーザーはというと、適度なクッション性で履きやすく、他のスニーカーと比べると丈夫でソールのグリップが効いているので滑りにくい上に、比較的金額も安価で完売になることもあまりないという至れり尽くせりっぷり。有馬は道具には実用性を求めるタイプなのかも。
モデルの名前である「ブレーザー」を調べてみると、天文学用語に行き着く。そう言われると、有馬の衣装はところどころに星が散りばめられていることに気がつく。偶然なのか何か意味があるのか。
余談だが、彼の衣装でよく話題に上がるのが背中の大きなQueenの文字だが、これは当時のH歴のキング(T.D.D)に対するクイーンだと筆者は考えている。
燐ちゃんこと阿久根燐童が愛用するモデルがANTA クレイ・トンプソンのブラック。ブラックと言いつつも全体を彩るレッドとブルーが目を引く一足。このチョイスには中原氏の並々ならぬこだわりを特に感じるのである。
まず、このモデルのブランドロゴが漢字の「人」のような形をしているのだが、これがギリシャ文字のλ(ラムダ)の反転に見える。燐童の歩んできた道は乱数の反転であるという意味なのか。乱数を感じる部分でいうと、ソールも気になってくる。一見赤と青のカラーリングなのだが、よく見るとピンクからブルーへのグラデーションとなっているため飴村乱数の髪色と全く同じなのだ。これほどぴったりなスニーカーのチョイスが他にあるだろうか。
またグラデーションといえば、彼の着ているオーバーサイズのタイダイ柄のスウェットにも意味があると思っている。タイダイ柄は元々は反政府や反平等などのカウンターカルチャーとしての由来があったと言われているそう。H歴の中王区に対するカウンターが阿久根燐童であり、D4なのかもしれない。また、タイダイには「縛り染め」という意味もあり、燐童が何かに縛られているという表現でもあるのだろうか。
アドリブ糖分絶対卒業したくない男の時空院の足元を飾るエアモアアップテンポは、通称モアテンと呼ばれるこれまた根強いファンがいる人気シリーズ。時空院のイメージとはかけ離れるが、現実ではオラオラした皆様がよく履かれているタイプの一足である。時空院のスタイリングは足首から上までがシックに、かつ上品にまとめられているため、ゴツめのスニーカーがハズしのアイテムとして大いに機能する。
このモデルはソールが蓄光仕様になっており、暗闇でぼんやりと光ることで時空院のシリアルキラーな部分の恐ろしさを際立たせている。夜道で足元を光らせながらニヤニヤした長身の男がナイフを持って近づいてくるのはあまりにも恐怖。そりゃ捕まるわ。
注目したいのは、このモアテンが歌川国芳モデルである点。外見はもちろん、インソール部分にも国芳の作品である「古内裏(ふるだいり)」が使用されている。側面にもドクロ。インソールにもドクロ。彼は常にドクロを踏みしめて歩いているのだ。人を救いつつ進む寂雷とは相容れないはずである。
余談だが、筆者はヒプステの全キャラクターのスタイリングの中で時空院のものが一番好きである。モードとストリートの融合の極地。バランスの妙技。これぞ天才スタイリング。ありがとうございます。
D4はアメリカのブランドであるNIKEの名作モデルを愛用するメンバーが多い中、燐童だけがANTAという中国のブランドを使用している。これはTrack.5の時期での彼らの心の距離を表しているのだろうか。今はすっかり結束しつつあるD4。いつに日かNIKEを履く燐童が見れる日も来るかもしれない。
ヒプステのスニーカー考察は以上となる。
改めてヒプステのオリジナルキャラはデザインの各所に深い意味が込められていると感じ、またその部分を考察させてくれるだけの余白を適度に残してくれているのが見事である。この余白がある程度存在するからこそ、彼らに興味が湧くし、彼らのことを知りたくなるのである。それを再確認することができた企画だった。
ヒプステ公式様、中原幸子様、素晴らしいキャラクターを生み出していただき、本当にありがとうございました。