くも膜下出血時のCTAについて
くも膜下出血の診断が下された後に、高率でCTAを撮影していると思います。
では、どんなタイミングで、どんな撮影条件で、どんな造影剤量で行っていますか?予約検査と同じ?この辺りを文献的考察を交えてお話したいと思います。
なぜ今更の頭部CTA?
脳外科医はどの施設でも医局ローテーションがあると思います。近年では若手医師が血管内治療(血栓回収療法、コイリングなど)に積極的であるように感じています。当院では手術治療中心→血管内治療中心になりつつあり、医師の求める画像も変わってきました。
CTA、たまに失敗しませんか?
予約検査ではCT値の差があれど、ルーチンな検査はこなせているでしょう(一般に300HU以上必要とされる)。しかし、くも膜下出血を発症すると造影効果が薄い例を経験したことがあるはずです。場合によってはpoor studyで診断できずということも。なぜでしょうか?
くも膜下出血が起こると
単純CT検査は発症後12~24時間の間での感度はほぼ100%、特異度は98%程度との報告もありますが、時間の経過とともに感度は低下するとされます。MRI検査ではFLAIR、gradient T2*画像などが診断に有用ですね。
CTAの場合は、頭蓋内圧亢進を伴う重症の場合、造影剤が頭蓋内に入りにくくなるとされています。また、心・肺を含めた全身臓器に影響があります。入院時胸部Xpで神経原性肺水腫をよくみますよね!
以前の当院の場合
撮影範囲:頭蓋内
撮影条件:120kV PF0.6 (64列)
造影条件:全例370mgI/50cc 3.5-4.0ml/sec
BTモニタリング位置:総頸動脈
スキャンスタート:目視
基本的に右手からのルート確保
当時の脳外科医は、CTAで全て診断しない、Angioに行ける造影剤量の確保のため、50ccで実施して欲しいという要望だった。
医師が変わって
撮影範囲:頸部から頭蓋内
撮影条件:120kV PF0.6 (64列)
造影条件:全例370mgI/50cc 3.5-4.0ml/sec
BTモニタリング位置:総頸動脈
スキャンスタート:目視
基本的に右手からのルート確保
新しい脳外科医は、CTAを失敗しないで欲しいことが前提。コイリングも考慮するので頸部からの画像が欲しい。
ツッコミどころ
まず撮影範囲、2倍近いです。つまり撮影時間も2倍!撮影時間を短く、ボーラスを長くする必要があります。そしてイマドキ固定量の造影プロトコル。。。
Twitterでのアンケート結果
皆さん、ご協力ありがとうございました。
スルッと答えてもえるようシンプルにしましたが撮影範囲が施設によって違うかもしれませんね。
結果、80ccというのが多かったです。
第15回 日本臨床救急医学会総会 学術集会
日本救急撮影技師認定機構による脳血管障害を考慮した
脳CT撮影条件アンケート結果
造影方法って結構ばらけてるんですよね。。。
造影剤量とモニタリング位置
ここからは文献交えて。
救急撮影ガイドライン(日本救急撮影技師認定機構)
ボーラストラッキング法のモニタリング位置として多く設定される総頸動脈では,頭蓋内圧亢進症を伴う重度の SAH において,脳動脈血管描出には不十分なことがあるとされ,頭蓋内でのモニタリングが推奨されている。
水井雅人(2015)くも膜下出血発症時の脳血管 CT-angiography における bolus tracking法のモニタ位置が CT値に及ぼす影響 pp.58-62. 日放技誌
H & K 分類で最も重症と判定された(グレード V)症例のみを抽出して比較した場合, 総頸動脈モニタリング法を用いて撮像された 6 症例の平均 CT 値は 362.0±65.3 HU,中大脳動脈モニタリング法を用いて撮像された 5 症例の平均 CT 値は 385.3±75.0 HU。
有意差はないものの、MCAでモニタリングすると厳しい状況でもCT値担保できてますね。
なんだかんだ言ってもルート確保が大事です。
これは造影剤を用いる全ての人が知るべきこと。当院救急科でも周知しまして、頭痛があるなどくも膜下出血を疑う際はできるだけ右にルートキープしててくれます。おかげですぐCTAできます。
すぐやるべきかも議論の余地あります。一度戻って血圧安定させるべきか、なるべく動かさないためにCTAもすぐやるべきか、何れにしても光刺激も良く無いので照明を落としたり、目をタオルで覆ったりはします。この辺りはケースバイケースだから医師によるかねぇ。夜間にコンサルされる脳外科医にとっては先に検査しておいて欲しいだろうし。CTAで再破裂リスクもあるっちゃあるし。
痛みで動いちゃうなど指示が入らない際は相談してます、私は。動いちゃうとできないので。この辺りも若手技師だと進言しにくく意見も通りにくいかもしれないので、施設ごとの取り決めがあると良いですね。
というわけで当院のSAH発症時、新プロトコルは
撮影範囲:頸部から頭蓋内
撮影条件:120kV PF0.8 (64列)
造影条件:25mgI/kg/s 20秒ボーラス(GuLACTICも参考に)
BTモニタリング位置:中大脳動脈
スキャンスタート:目視
基本的に右手からのルート確保
これでやってみようと思います。
しかし色んなこと考えると
もっと高度に検査するには予想も大事です。出血量からICPC付近なら海面静脈洞が描出されないよう早めのスキャンスタート(新条件ならディレイ考えると頭尾撮影)が良いかも。
腎機能低下時は造影剤減量し頭蓋内のみA相スキャンし、頸部は2相目で実施。首はアクセスルートチェックに過ぎないしね!
頸部も見たいなら生食後押し(頭尾撮影なら鎖骨下静脈を生食で流した後撮影できるかも)
何より、CTAだけで全て診断できるわけではありません。最終的にはおよそ10%で出血源が不明と言われています。下記のような動脈瘤にも遭遇したことがあります。CTAとAngioの差が縮まっている昨今でも、やはり画像診断の最終兵器はAngioですから、その余力を残しつつ失敗しない方法を模索していきたいですね!