十二縁起 Ultimeit + integrated
「12」美しい数字だ。
人間の苦とそれを解決に導く思想で「無明、行、識、名色、六処、触、受、愛、取、有、生、老死」は12。
干支も12、正座も12星座というものがある。ギリシャ神話の12神、ビールケースは12本、そして一番身近な時間も1年は12ヶ月、1日は24時間(=12時間×2)で午前、午後それぞれ12時間、1時間は60分(12×5)1分は60秒(12×5)以上のように12がベースになって定められている。
馴染みのある「12」そして天下の台所、大阪は堺に拠を構える世界的大企業SHIMANOが送り出すNew ULTEGRAも12速を纏った。もはやギアの枚数だけではフェラーリやランボルギーニよりも遥かに枚数が多い12速だ。
視覚、体感に合わせて小気味良く脚に力を入れペダルを回す。
少しずつ意識と脚力の拮抗が崩れ始めた頃に無意識に自身は変速を要求し、自然に内側へ少しベントしたSTIブラケットから指を伸ばしスイッチを麻雀の盲牌如く探し当てる。
その非常に小さいスイッチはまるで指に吸い付くかのようにフィットしマウスのクリックのようなタッチ感を指に覚えさせる。
押し込まれた目には見えない電気信号は変速機へニュータイプじみた信号を飛ばし、非常にスムーズにそして軽やかにその言葉通り「脱線」し変速が完了する。まさに刹那という表現が似合う爆速変速の瞬間である。
機械仕掛けが良いって?それはオレンジだけで十分だ。私はもう戻れない。
その昔ローギアに掛かったチェーンを目視で確認したにも関わらず、微かな希望を求め変速スイッチを押す。もちろんそれ以上のローギアはそこに存在していない。が、我は12sを手にいれた。心のギアではない、物理ギアがそこに存在し有りもしない微かな希望は紛れもなく手中にあるのだ。アルテグラグユーザーにもたらされた福音であるに違いない。
ステルスの如く引き締まった足元にもアルテグラだ。
炭素素材を凝縮したその漆黒の表面に刻まれた、ステルスカラーで誇らしく描かれたULTEGRAの文字はとてもセカンドグレードのそれには見えない。グレード至上主義、それも悪くない。最高を知らなければ違いも解らないものだろう。
しかしながら最上がいつも自身にとって最高とは限らない。
選ぶ自由、選択する自由を無駄にするべきではない。与えられた選択肢の中から合致するものを選ぶ手順も楽しみの一つだ。
私にとっては現時点でULTEGRAが最良に一番近いと感じている。コストと性能、フォルムと雰囲気。人は言う「仕上げがな…」そう思うのであればDura-Aceが待っている、あれは最高だ。
今の自分に合うものを選び出会い、使う。
坩堝と化す体験はいつでも身近にある物だ。