はなびらのひとつひとつが救急車/栫伸太郎
シリーズ・現代川柳と短文NEO/285
処置室を飛び出すとちょうど救急車が入ってきた。ハンドルを握る内田くんと一瞬目が合う。ううん、合ったような気がする。内田くんにこりと微笑んだ。ううん、微笑んだような気がする。気が、するだけ。わたしたちふたりは仕事にプライベートを持ちこまない。さて仕事だ。白衣を脱ぎ捨てると同時に救急車のバックドアが開いてストレッチャーがすべり出てきた。そこには患者さんではなく、おとなふたりぶんくらいの、真っ白な花びらが乗っていた。
【きょうの現代川柳】
はなびらのひとつひとつが救急車
/栫伸太郎
▼出典