汗ばむ夏の放送室
2年前の日記から。
住んでいる地域では毎日夕方5時に防災無線が流れる。「緊急事態宣言が、発令されています」と女性Aの声。続けざま、男性Bの声が「緊急事態宣言が、発令されています」と繰り返す。いま聴いたばっかだよ、といつも思う。でもありがとう。
単純に事実として、女性の高い声が聞き取りやすい人もいれば、男性の低い声が聞き取りやすい人もいると思う。だからその2声で繰り返すのもいいと思うし、うるさくは感じないが、なんかイチャイチャしてるように聞こえる点は指摘しておきたい。
2人は同じ放送室にいる。むろん妄想だ。しかし狭い部屋だ。隣り合って座る互いの体はどうしても触れ合う。部屋に冷房は無く、相手も汗ばんでいることがわかった。
「緊急事態宣言が、発令されています」
「緊急事態宣言が、発令されています」
相手の言った内容をそっくり繰り返す。この構成が2人の距離を近づけた。
池田「いま噛んだよね」
たかお「か、噛んでないよ」
池田「ぜったい噛んだ~」
たかお「か、噛んでないって」
池田「リピートアフターミー? 緊急」
たかお「き、緊きゅ、う」
池田「事態宣言」
たかお「じたい、せん、げん……」
池田「出てる? 緊急事態宣言」
たかお「……出会ったときから、ずっと」
AとBで書き始めたふたりに突然名前が与えられたのはなんなんだ。自分でも覚えていないが、もう2年も経ったんだなあ。
(汗ばむ夏の放送室/state of emergency)