吊革の揺れに合わせて森になる/栫伸太郎

シリーズ・現代川柳と短文NEO/109

 わたしの家のキッチンには吊革がある。玄関の真上の天井から吊り下がっている。だれもつかまるわけがないのに。というか届かないし。吊革は私が生まれる前からそこにある。ときどき夜中におばあちゃんがそれに手をあわせている。おばあちゃんはもごもごなにか言っているが聞きとれない。吊革はたまにすこしだけ揺れる。すこしね。

【きょうの現代川柳】
吊革の揺れに合わせて森になる
/栫伸太郎

▼出典



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