ブラッドオレンジジュース
その店に行くのはひさしぶりだった。最後に来たのはコロナ禍の前だ。奥の席に座りメニューを開いた。注文はもう決まっていた。
ブラッドオレンジジュースだ。
この店ではいつも頼むようにしていた。血のように赤く、血そのものではない。赤く、それでいてオレンジジュース。そんな飲み物。
ブラッドオレンジジュースだ。
だが、メニューに見当たらなかった。全ページを探す。無い。そんなはずは無い。おれはいつも頼んでいたはずだ。
ブラッドオレンジジュースを。
店員は、最後にその店を訪れた日もいた髪の赤い店員だった。ずいぶん昔に思える。あの日おれはなにを頼んだだろう。思い出すまでもない。
ブラッドオレンジジュースだ。
ふつうのオレンジジュースを頼み、飲み干して店を出た。それが無くなった理由は訊かなかった。次に訪れたときはなにを頼もう。
ブラッドオレンジジュースだ。
(ブラッドオレンジジュース/BOJ)