【2023年冬アニメ】今田はこれを観ていたとのこと
どうも、ラジオポトフの今田です。2023年の冬アニメ、みなさんはなにを観ていましたか? わたしはこんなのを観ていましたよ、という記録です。こういうのは無理してでも書いておいたほうがいいですからね。近々収録するラジオポトフの2023冬アニメふりかえり回の進行台本代わりにも使おうとも思っています。
(▼2023/04/17 追記)
この記事をもとに収録したラジオポトフです。
1.『お兄ちゃんはおしまい!』
絵柄は華やかで演出も冴えまくり。要は「画面」を動機に観はじめたのだが、そのまま最終話までずっと前のめりに観ることができたのは、てらまっとさんのツイートやツイキャスでの物語(を通じての社会)批評がおもしろかったから。とくに放送開始序盤に言及されていたOP映像の解釈(ウーパールーパー)が印象的で、「あっ、そもそもアニメのOPとかEDとか歌詞とかって作品のねらいが端的にあらわれがちなところ!?」と当たり前すぎる気づきを得たりもした。作品そのものはむろん、それを起点に考えを広げていくこともアニメ鑑賞のおもしろさなんだな~、と知った作品。いやまあ、アニメに限らずすべての「鑑賞」がそうですが。
おにまい、おもしろかったです。
で、今季は『おにまい』『あやトラ』と、いわゆる「TS(trans sexual)もの」の作品が並んだ。『うる星やつら』の竜之介はらんまの原型とも聞く。いいかげんにまとめれば「男らしさ」「女らしさ」という旧来の価値観にようやく光があてられ、乱反射が始まった時代である。いいかげんすぎる。
「旧来の価値観」といえば……
2.『トモちゃんは女の子!』
トモちゃんは自分が「女らしくない」ことに悩んでいる。親友のみすずはそれを(ニヤニヤと)見守りつつ、「女らしく好かれるため」のアドバイスを送る。それが物語内の「出来事」だが、んー、これは古くさいな〜、と思った。しかし、物語とはたんなる「出来事の羅列」ではない。たとえば、みすずがトモちゃんにアドバイスを送るとき、「それをするみすずの本心は」にまで踏み込んで考えると、作品世界は一気に深くなる。ちなみにこの作品でみすずの本心がつまびらかにされることはない。なんせみすず本人にもわからないのだ。凝り固まった古い価値観はときにその持ち主の視野をぶち壊すための武器にもなる。つまり、その振り回し方で作品はいくらでもおもしろくできる、と知った作品。
で、物語も画面も演技も、わりとなにからなにまでおもしろかったが、群堂みすずの魅力はちょっとどうかしていた。今季全体を見渡して言うと、『ストーンオーシャン』のアナスイと双璧だ。作品的には『宇崎ちゃん』のバイト先の娘・亜美をさらに物語の核に組み込んだような作品だったと思う。ふたたびてらまっとさんの「ラブコメ・ヌーヴェルヴァーグ試論」にむりやり当てはめて考えるのもおもしろう気がする。なんというか、ラブコメの2億年後の進化系、みたいに見えていた。
トモちゃん、おもしろかったです。
「ラブコメ」といえば……
3.『イジらないで、長瀞さん 2nd Attack』
制作体制が一新された2期。1期と同じキャラ・声優なのに演出がぜんぜんちがっていて、まず違和感がおもしろい。しかもラブコメど直球。では、様式美としてのラブコメを楽しむべきなのか。いや、たとえば「教育する」長瀞さんと「される」センパイを「ひっくるめて再教育する」フレンズたちから物語の構造について考えたり、あるいは映画的に象徴を読んでみるのも楽しそう。最終回で長瀞さんとセンパイが乗っている電車に、フレンズたちは「隠れて同乗」し、部長と須ノ宮は「サイドカーで並走して追う」のだ。これはいいな~。と、リラックスして楽しく観ていると、ふと、「ん? おれが観てるこれって『長瀞さん』の2期だよな?」と我に返る瞬間がある。いったいなにがどうなってるんだ。ともかく「比較」って重要だしわかりやすくおもしろい手法だよね、と実感した作品。
長瀞さん2期、おもしろかったです。
「比較」といえば……
4.『うる星やつら』
全4クールの2クール目で、1、2クールを合わせて「1期」、2024年から始まるものを「2期」と呼ぶらしい。1クール目を観た限り、昭和のアイテムがまんま出てたり、声優の演技も昭和版の完コピ路線だったりで、てっきり昭和版の「リメイク」なんだと思っていたが、上記引用部をよく読むと、「原作からのテレビアニメ化」らしい。ん? ねらいがよくわからない。それで楽しみ方もよくわかっていなかったが、2クール目でやっとわかった。これは昭和版といちいち見比べると楽しいやつだ。自分は昭和版も原作も把握していない。が、それがどうした。予告で知った次回のタイトルをもとに猛検索して、同一原作エピソードの昭和版を探り当てたらいったんそれを観て(ありがとうU-NEXT)、そしてようやく令和版を観る。時間のかかる鑑賞。でもやってよかった。やはり科学において重要なのは「比較」なのだ、と知った作品。科学ではないが。
で、いざ観た昭和版がそもそも興味深く、それに触れるきっかけになったのはありがたかった。「キャラクター博覧会」的なおもむきは昭和版にも令和版にもあって(なんせ「やつら」である)、それはつまり「演技博覧会」化しているということだ。声優の演技に感じ入ることはままあるが、本作ではそれが量をもって襲ってくる。神谷浩史、上坂すみれ、花澤香菜、宮野真守、内田真礼。みんなそれぞれにそれぞれの工夫や特徴がある。おもろ。
「声優の演技」といえば……
5.『デジモンゴーストゲーム』
1年半におよぶ放送期間のうち、後半の2クールを観た。だって主人公・宙(ひろ)役の田村睦心の演技が観たかったから。『デジモン』シリーズを観るのは初体験。物珍しさも手伝って、ためしにできるかぎりリアルタイム(日曜朝9時)で視聴してみたら、生活の一部にアニメが入ってくる感覚が新鮮だった。これ『鬼太郎』をやってた枠かも。それに関係してか、毎週必ず「怪奇的な描写」≒「生理的な嫌悪感」を描いていたのがよかった。「絡みつく触手」とか「腕や足の皮膚から直接あらわれる眼」とか。そして田村睦心はやっぱりすごいなあ、と知った作品。ほんとにうまい。
「田村睦心」といえば……
6.『テクノロイドオーバーマインド』
エソラ役は田村睦心。つまり『デジモンゴーストゲーム』と本作と、同一クールで2人の少年を演じていた(いや、自分が知らないだけでもっとあるのかも)ことになり、その2人の演じ分けがすばらしかった。「少年」の解像度の高さというかなんというか。声優ってすごいなあ、と、改めて知った作品。
で、アンドロイド4人組は『バベル』でアイドルグループを結成し、歌って踊ることになる。物語としては「ロボットに心はあるのか」問題を扱う近未来ものでもあり、たとえば「攻殻機動隊」を彷彿とすることもあったが、結局そちらの切り口からはあまり深入りはせず、これも同じく重要な切り口であった「音楽」や「ライブ演出」のエモーションを観るべきだと思う。スマホゲームを含むメディアミックス作品なので、プレイへの誘導や、作品世界のムードを醸成することで没頭を促す意味もあるんだろうなと思う。あと当たり前だけど「ロボットに心はあるのか」問題は「人間には心がある」という宣言につながる。
テクマイ、おもしろかったです。
ところで、「ゲーム」といえば……
7.『ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん』
現実世界を「0」として、そこから異世界(フィクションの世界)までの距離感を「1」とすれば、ゲーム実況って「0.7」くらいのかんじ? と、よく知らない文化がベースの作品を、ソファに寝転がって漠然とした把握で観始めたかんじ。どちらかといえば門外漢。肌感覚で理解していない「乙女ゲーム」や「悪役令嬢」は想像力や付け焼き刃の知識で補いつつ観た。個人的な見どころは「一見クセのない演技をする」中村悠一や杉田智和である。シンプルに「こなしている」ように見えて、とんでもなく上手い。第3話でリーゼロッテの妹に「結婚してあげてもいい」的なことを言われたあとの杉田智和の演技は、ざっくりいえばナンセンスギャグ。コミカル方向ではないギャグに対する理解度と、表現の精度。びっくりした。すげえ。
ツンリゼ、おもしろかったです。
で、あくまで勘ですが、これはいわゆる「異世界もの」ではない。では、今季においてはっきり「異世界もの」と言える作品といえば……
8.『とんでもスキルで異世界放浪メシ』
主人公自身の「とんでもスキル」というよりは、そのスキルによって得た従魔・フェンリルの戦闘力で物語を動かすことが多かった。そのうえで、それなりに異世界要素(ギルド・魔法・加護とか)を描きつつも、徹底して「大きな物語」にならないようにしていたのが特徴? いや、つまりそれが「異世界もの」の特徴? だめだ、よくわかってない。野外メシ・事件の無さ・劇伴の方向性などから、異世界で『ゆるキャン△』をやろうとしてるのかな?とも思ったが、いや、そもそも「異世界もの」が日常系の亜種なのか……? だめだ、いよいよ知識不足が露呈してきた。おもしろく観たのはまちがいない。
あ、ちなみに2022年秋クールの『チェンソーマン』(本作と同じMAPPA制作)に続き、「くまうさ」のCMが毎週流れていた。これで半年間観たことになるが、結局のところなんだったんだ、くまうさ。
「異世界もの」はもう1本あって……
9.『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』
前述の『異世界放浪メシ』と比較してはっきり言えるのは、演出が地味であること。あっさりした絵柄のせいもあるが、それにしても地味。おもしろくないのではなく、地味。よくよく思えば、交通事故で家族と生き別れるという過酷な冒頭からの「将来設計のための蓄財」という展開なので、ある程度地味にならざるを得ないところだろうが、それはそれとして地味。むしろこの地味さ自体がなにかしらのスタンスの表明だったのだろうか。「なんでこんなに地味なんだ?」と考えるうち、いつしかその地味さがどこかクセになってきた。おもしろくないのではく、地味。その地味さゆえに忘れがたいものになった作品。
ろうきん、おもしろかったです。
で、ぜんぜん知りもしないくせに勝手に「異世界もの」のうまみがよく出ているな~、と思ったところがあって、それば現実世界と異世界を「自由に」行き来することができ、人や物質の転送も「自由」自在に可能で、そのうえ生き別れた兄も「イマジナリーお兄ちゃん」としてやはり「自由」なタイミングで物語内に出し入れ可能で、しかも物語を進めるキーとなるセリフを言わせたりもできること。「異世界もの(系)」とか「なろう系」は、ざっくり言って「登場人物がチートなスキルをもっている」という印象だったけど、物語のつくりとか語り自体にチート感があっておもしろかったというかんじ。
「地味」を考えるには、「派手」も考えるべきで……
10.『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』
原作を「すべてを熱量あるセリフで説明する《説明のエンターテインメント》」と仮定すれば、そこに動きと音声が加わったアニメ版ジョジョには「スーパー紙芝居」とでも言うべき味わいがある。現実に即したナチュラルさを追うのではなく、あくまで原作に輪をかけていくのだ。本作はジョジョ全体の節目の位置にある6部のアニメ化で、もしアニメ化をやめるならこのタイミングがベストだと思うが、当然7部以降も観たい。おもしろキャラの極み・アナスイや、動きありの演出で見たかったスタンド「ジェイル・ハウス・ロック」や「メイド・イン・ヘブン」、そしてあの壮大なラスト。それらを原作に輪をかけた迫力で「説明」するのはやっぱりすごかった。「比較」がむずかしい独自のジャンルもあるなあ、ジョジョとか、と実感した作品。
で、当然ながらエルメェスを演じる田村睦心の火力のすさまじさも見逃せない。物語的には『オズの魔法使い』とか『桃太郎』的なシンプルな構造で、いま現在、原作第9部『ザ・ジョジョランズ』が連載中。傑作であることは約束されている。自分が掲載誌をリアルタイムで追えているのは初めてで、傑作が生まれるのと同時代にいることに感謝してます。
「同時代」ってけっこう大事な要素で……
11.『新世紀エヴァンゲリオン』
TOKYO MXでの再放送を録画&リアルタイムで、毎週きっちり1話ずつ、つまりテレビ放送時と同じようなペースで観た。全26話。自分はエヴァの熱心なファンではない、と思っていたが、そういえば放送時も旧劇も新劇も観てきた。ぼんやりと、しかしリアルタイムで。そもそもそんな触れ方ができたこと自体が「エヴァ世代」であることの証明なのかもしれない。テレビアニメをちゃんと観るようになって、アニメのなんたるかがおぼろげながらわかってきたいま(ぜんぜんわかっていませんが)、改めて観るテレビ放送版『エヴァ』はとてつもなくおもしろかった。要するにそれは、あのころぼんやり観ていた『エヴァ』と、いまの知識で観る『エヴァ』が「比較」できるようになったことを意味する。いろんなことに気づいた。画面も脚本もスタッフによって毎週ちがうし、カヲルくんの「歌はいいねえ」は意外とあっさりした言い方だった。
12.『ブルーロック』
ふと気づくと、今田の2023年冬アニメランキング第1位はこれを選ぶしかなかった。そう、キーワードは「ふと気づくと」だ。「史上最もイカれたサッカー漫画」のふれこみ通り、本作はおよそサッカーとは呼べないデスゲームから始まる。やっていることは「ボールぶつけ合いバトル」にすぎないが、その結果が選手生命を左右するのだから立派なデスゲームだ。その後も「3on3バトル」や「花いちもんめバトル」など、サッカーとは呼べないシーンが続く。が、ふと気づくと、彼らはいつのまにかサッカーっぽいことをしている。まわり道をして「サッカーの核」にたどり着いているのだ。なるほど。この作品はおそらく、ミステリーの語り方、それも「新本格」的な、叙述トリックを含んだ語り方をするつもりなのではないか。なんせ、サッカーではなかったのに、ふと気づくとサッカーになっている物語である。もう油断は許されない。ボールの重量感をたしかに描いた画面の魅力や、「これってもはや音楽ライブでは?」と思うほどの、音楽・リズムから来るエモーションを最大限活用した演出の魅力も、結局は「ふと気づくと」の効果を最大化するための仕掛けの一部でしかないのかもしれない。とりあえずわたしはいま、本作が「ふと気づくと」野球漫画になっている未来を夢想している。
以上です。長い。おいおい加筆修正します。
ひとまずこんな感じで!
(2023/04/12 21:56)
(2023/04/13 8:29 加筆修正済)