
※2年前に書いたものを元に書きなおしました。
つい数日前、3人で打ち合わせをした。
Aさんとは以前からの知り合いで、Bさんとは初めてだ。AさんとBさんとわたしはそれぞれ異なる分野に生きているが、3人とも新型のあれの煽りを大きく受けていた。Aさんのしんどさを聞き、Bさんのしんどさを聞く。当然、わたしの番がきた。
「結構しんどいですよ、演劇も」
苦渋に満ちた表情こそ作ってみせたが、背中には大量の冷や汗が流れていた。たしかにわたしは小さな劇団で演劇をやっているが、かなりめちゃくちゃな演劇だ。このまま演劇人代表のような顔をしていていいんだろうか。
たとえば、かつてわたしは自作のクライマックスで『踊る! IMALU御殿』の忠実な再現をやったことがある。存在しない番組の忠実な再現。はたしてそれは演劇人代表の作る演劇だろうか。
またべつの作品では「部屋の模様替えのため、とても重い植木を出演者全員でとてもゆっくり2メートル動かす」というシーンをクライマックスに持ってきた。それは演劇人代表の作る演劇だろうか。
わたしは叫びそうになっていた。
「わたしは演劇人代表じゃないんです!」
喉が詰まり、声は出なかった。その場で演劇をやっているのはわたしだけで、わたしの発言がどうしても演劇界全体の発言に聞こえる。しかもAさんもBさんもこれまでわたしが作ったものを楽しんでくれているらしかった。なら仕方ない。すべて受け入れようと思った。
わたしが演劇人代表です。
さっそく最近Twitterで見かけたすばらしい発言を思い出し、その発言者の名前を口にした。
「平田オリザがですね……」
平田オリザが?どうしました?とAさんが反応する。さすが有名人だ。それは小劇場でがんばるアーティストを支援する旨のツイートだった。わたしは黙り込んだ。舞台芸術が立たされた苦境を伝える平田オリザの言葉。それを演劇畑の外にいる人に的確に伝えるにはどう言えばいいだろう。焦れば焦るほど沈黙は延びる。まずい。このままだとわたしが平田オリザだと勘違いされるかもしれない。わたしの家がこまばアゴラ劇場だと思われるかもしれない。
やっとのことで口を開いた。
「平田オリザのツイートを見てください、けっこういい内容なんですよ」
なにさまなんだ。わたしは平田オリザのバイト先の先輩かなにかだろうか。あるいはチェーホフか誰かの魂が乗り移ったイタコかなにかだろうか。てっきりチェーホフは岩松了に乗り移ったと思っていたが、わたしに乗り移っていたのか。
いや、わたしはわたしだった
その場限りとはいえ、演劇人代表のわたしだ。
(演劇人代表/quiet drama)