輪唱のように寝るのが遅くなる⑨/栫伸太郎
シリーズ・現代川柳と短文NEO/199
と、さんざんそれについて書いてきたが、わたし自身が最後に輪唱に参加したのはいつだったのか。記憶が明瞭な像をむすぶことはないが、高校生のころだろうか。むろん音楽の授業で「森のくまさん」は考えにくいが、ひまを持てあました高校生たちがなんとなく輪唱を試みるくらいはしてもおかしくはない。そしてそれなら覚えていなくともおかしくはない。確認すべきだろうか。高校時代の友人に。「高校のとき、輪唱ってしたことあったっけ?」と。返事が返ってこなかったときのことを思うと、つい二の足を踏んでしまう。返ってこないことにダメージを受けるのが怖いのではなく、「輪唱したことあったっけ?」という問いがどこにも着地せず浮遊しつづけるのが怖い。
【きょうの現代川柳】
輪唱のように寝るのが遅くなる
/栫伸太郎
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