台風がまた皺々に隠れてる/栫伸太郎
シリーズ・現代川柳と短文NEO/267
当時、わたしたちきょうだいは天気図に張りめぐらされた等圧線のことを「しわしわ」と呼んでいた。ひとつめのしわを姉が、ふたつめのしわを妹であるわたしが発音する。しわとしわのあいだに間を置かず、まるでひとりの話者が言うようになめらかに、しわしわ、と口にする。姉が歌舞伎役者の家に養子として出されてからはそれをわたしがひとりでやるようになった。わたしたちは相手と自分とを同じ人間だと思っていた気がする。
【きょうの現代川柳】
台風がまた皺々に隠れてる
/栫伸太郎
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