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【文字で味わう】またうばいあえ!現代川柳
要は、▼の文字バージョンです
現代川柳の「読み」の訓練・第二弾を行いましたので、文字でアーカイブします。同じく第一弾もアーカイブがあります。音声と文字どちらもあるのがすてきですね。好きなほうでお楽しみください!
ルール
「これは家に持ち帰りたいな~」と思った句をそれぞれ7句ずつピックアップし、「持ち帰りたさ」や「自分が持ち帰るべき理由」を口げんかスタイルでアピール。《おもしろい読み方をできたほうがその句を持ち帰れる荒廃した近未来》としました。
そもそも「読む」って?
ざっくり「句を解釈する」とか「句を味わう」ていどの意味で使っています。「句に込められた作者の思いを読み解く」とか「句の答えを探る」的な黒魔術は使っていません。句を題材にとったイメージふくらませ大会と言ったほうが近いです。
前半戦「7句がやってくる」
むこうから白線引きがやってくる
――樋口由紀子
今田:まずはぼくが選んだ句です。映画のオープニングですね。地平線のむこう。西部劇かな
高澤:蜃気楼?がじりじりしてるかんじ
今田:カウボーイハットをかぶったクリント・イーストウッドが来ますね。いつもは馬に乗ってるんだけど、今回は白線を引いてくると。で、この白線はたぶん西と東を分ける白線です
高澤:「白線引き」はモノの名称ですか?
今田:かな。検索はしてないんだけど、たぶんあれのことだなとわかりますよね。じゃあこれはぼくがいただきます。次もぼくの選んだ句です
忙しいのに笑わせに来てくれる
――筒井祥文
高澤:ありがとね……なんか応答したくなります
今田:不要不急と思われがちだけど、「笑い」ってやっぱ、忙しい人が無理に来てやってくれるくらい重要なことなんですよね。人は誰かが笑わせないといけない。ちなみにこの笑わせにきてくれる人、さっき白線引いてた人と同じ人です
高澤:www
今田:重要な仕事をやる人なんです
高澤:わざわざ感が貴重さを際立たせてますね
今田:あ、現代川柳ってそうらしいですよ。わざわざ感。樋口由紀子さんは『金曜日の川柳』で「どうしてこんなことわざわざ書くんだろう」と
高澤:「わざわざ」ってネガティブにも聴こえるけど、わざわざが見え隠れすると価値を感じます。この句ちょっとほしいな……
今田:ほしいですか?
高澤:はい。う~ん、でもな……ゆずります
今田:次は高澤さんが選んだ句です
嬉しいなら窓際から離れてください
――湊圭伍
今田:これも映画で考えると、部屋の外から銃撃されるシーンかなと。ヘリからマシンガンで銃撃されて、それでガラスが粉々に割れると
高澤:ありますねそういうシーン
今田:「危ないから窓際から離れてください」ならそれだと思う。でも「嬉しいなら」なんですよね
高澤:窓の外のことで嬉しいのか、中のことか
今田:外でしょうね。合格発表の番号があったとか
高澤:あるいは、窓際どうこうではなく、「浮かれすぎはよくない」みたいな警告か、自戒ですかね
今田:油断するなよと
高澤:いつヘリが来るかわかんないぞって
今田:窓際ってことは境界ですよね。そこから一歩踏み出すとき、たいてい人は希望に満ちているんだけど、ほんとうにそれでいいんですか?と警鐘を鳴らす。そう考えるとよくできた句なのか。警鐘だけど、押し付けがましくないし
高澤:「嬉しいなら」って言い方がいいですよ。怒られてるかんじがしない
今田:これ……やっぱり持って帰ろうかな
高澤:いやー、わたしほしいです。けっこうまっさきに選びましたし
今田:でも、いまちょうど家にこのたぐいの川柳が無かったところなんです。出窓に飾ろうかと
高澤:わたしのうちの窓に貼ります。次はわたしの選んだ句です
疑問符はサラダで食べるのがベスト
――Sin
今田:……そうなの?
高澤:初めて知りました
今田:ソテーじゃないんだ
高澤:ボイルとか
今田:ほぼ生なんだ
高澤:混ぜて食べちゃえみたいなことですかね
今田:食べやすくするなら煮込んだほうがいいよ
高澤:フレッシュなほうがいいってことかな。「わかんないことはその場で質問しましょう」みたいな
今田:あ~、それのおしゃれな言い方か、ニューヨークの言い方
高澤:ニューヨークスタイル。さっぱりしてていいですよね
今田:サラダのさっぱりですか?
高澤:や、「ベスト」って言い方がさっぱりしてる
今田:たしかに、川柳は断言するらしいです。つまり「◯◯がベスト」は「型」とも言える。はっきり言い切ってるから。ただ、その「言い切り」じたいを取り出そうとするときサラダが必要になる。「生野菜がベスト」よりも「サラダがベスト」のほうがすごく言い切ってますよね。音とか、文字のビジュアルもふくめて
高澤:耳なじみのない内容なのになんかすっと入ってきます。よく見るとストレートのボールじゃないんだけど、まるでストレートのボールみたいな
今田:(ストレートのボール……?)
高澤:じゃあこれはわたしが、ウイニングボールとしていただきます……ん? ウイニング? じゃなくて、ラッキー? ボール?
今田:いやウイニングボールでいいんですよ。野球を知りもしないくせになぜむりに野球でたとえようとするんですか。次も高澤さんが選んだ句です
おれの ひつぎは おれがくぎうつ
――河野春三
高澤:ひらがなとスペースが奇妙だなと
今田:河野春三さんは『はじめまして現代川柳』の紹介を読むかぎり、パワフルな方という印象を受けました。それこそ、クリント・イーストウッドみたいだなと
高澤:たしかにイメージつながりますね
今田:イーストウッドはなんでも自分でやっちゃう人です。監督もやるし、主演もやるし
高澤:生命力が強いですよね
今田:何回も離婚して何回も結婚してますし。自分の監督作で主演をやる。そのうえ演じる役はたいてい「世界でいちばん強い男」です
高澤:あれですよね。『グラン・トリノ』?
今田:まさにそう。あれはイーストウッドが自分の死を自分で決める映画です。撃たれて死ぬんじゃなくて「撃たせて」死ぬ。
高澤:死を自分なりに受け入れている
今田:いや、もはや「受け入れ」でもない。死はむこうからやってくるものですらない。自分で「この日に死にます」「ひつぎのくぎもおれが打ちます」と決めてるんです
高澤:ぜんぶひらがなですよね
今田:そう。そのひらがなが、かわいらしさや幼さではなく力強さにつながっている。二箇所のスペースも、ここでくぎを「ガン! ガン!」と、打っているかんじがある
高澤:マッチョなじじい……
今田:これ完全にぼくのものですね
高澤:ひったくられた、かっさらわれたかんじです
今田:じゃあ次は高澤さんの選んだ句
パチンコ屋 オヤ 貴方にも影がない
――中村富二
今田:高澤さんは昔パチンコ屋で働いてたよね
高澤:アルバイトですね
今田:お客さんはけっこう影が無いんですか?
高澤:中にはそういう方も……
今田:「パチンコ屋 にて」でも意味は通じるし音数も合うんだけど、やっぱり「オヤ」がすごく効いてる。技術がすごいなあ
高澤:不穏ですよね
今田:影がないのもそうだし、空白もそうだね
高澤:パチンコ台、座席、お客さんだったらしきもの、ぜんぶが一体化して溶け合っているかのように見えます。「あっ、この人も取り込まれてしまったんだ」と……
今田:そこまで!? 「影がない」だけでそこまでイメージが広がるとは。パチンコをよく知らないからわかんないな
高澤:玉があるかぎりルーレットは回り続ける。そういう奇妙さですね
今田:高澤さんの中の奇妙なデータを引き出す句
高澤:そうです
今田:じゃあ次はぼくが選んだ句を
妖精は酢豚に似ている絶対似ている
――石田柊馬
高澤:あれ? これわたしが選んだやつ……
今田:そうです。いま高澤さんのリストを見ながら読み上げました
高澤:カンニングじゃないですか! や、でもこれよくないですか? 確信がすごい
今田:うーん、自分に言い聞かせてるような気もするな。ほんとうは似てないんだけど、言い出した手前、あとに引けなくなってる
高澤:自分でも気づいてるのかな
今田:まったく似てないとは思わないんですよ。酢豚のテカりと、妖精のキラキラしたかんじは共通点とも言える。でもやっぱり酢豚と妖精は似てないですよ。なんでこんなこと言い出したんだろう
高澤:ほんとうに美味しい酢豚に出会ったことがないとか、ずっと昔に食べたあの酢豚の味が忘れられないけどお店の場所がわからない、みたいなレア感を妖精にたとえてるのかな。あのとき食べたあの酢豚を探して、みたいな
今田:それだと「酢豚は妖精に似ている」じゃないですか?
高澤:……ほんとうだ
今田:あと「ほんとうに美味しい酢豚を食べたことがないのかも」っていうのも、うがちすぎにかんじます。そういうケースもあると思いますけど、ふつう、酢豚は町で見かけるものですよ。だから、もしそのたとえを活かして読むなら「妖精は酢豚のようにどこでも見かける」という意味になる。そう言いたいんでしたっけ?
高澤:いや、「あの酢豚はつまり妖精(のようにレアな存在)だったんだ……」って
今田:うん、それを言うなら「酢豚は妖精に似ている」なんですよ。語順が逆。この句は「妖精は酢豚に似ている」なんです……ちなみに黒酢ですか?
高澤:オレンジ色の、パイナップルが入ってるやつだと思います
今田:インスタ映えするような。いかにもっていうかんじの。『千と千尋の神隠し』の冒頭でブタが食べてたような
高澤:ブタっていうかご両親が。食べてたかな?
今田:食べてた気がするな
高澤:…………あ、そういうことか
今田:?
高澤:神様にささげるもの…………いや…………
今田:?
高澤:どうだろうな…………
今田:…………まあ、とにかくいま、この句の解釈で座が賑わってますよね。そういう句なんじゃないかな。たしか人気の句ですよ
高澤:もう一個いいですか
今田:どうぞ
高澤:わたしは、「絶対に似ている」と言われた以上、どうにかして似ている部分を探したくなるんです。なぜなら「似てなくない?」という気持ちがわたしにあるから。だからこそ、「ほんとうに似ているとしたら、それはどういうことなんだろう」というほうに気持ちがいく
今田:なるほど。自分や他者の認知を考えるきっかけというか。なんにせよ、高澤さんの脳を開いてくれる句だと思います。お持ち帰りください
高澤:はい。開いたところに入れて持って帰ります
今田:(急に怖い表現してきた……)次はぼくが選んだ句です
後半戦「7句だと思っている」
残酷は願うものなり伝言ゲーム
――榊陽子
高澤:デスゲーム感ありますね
今田:そこまで行く? ぼくのイメージだと女子校が舞台のホラー映画かな。ちょっとゴシックな。あるよね、そういう系。タイトルぱっと出ないけど
高澤:「伝言ゲーム」って言葉にグループで過ごす時間のイメージがあるのかな
今田:たぶん「伝言&残酷」で女子校の噂話のイメージなのかもしれない。「あの子援助交際やってるらしいよ」みたいな
高澤:ちょっとした話に尾ひれがつくかんじ
今田:うん。あと前から思ってるんですけど、「伝言ゲーム」のゲームってなんですか
高澤:たしかに「伝言ゲーム的に広がっていく」って言いますね
今田:世の中にある伝言って、ゲームじゃないもののほうが多いはずですよね。なんで「伝言」って言うと「ゲーム」がつくんだろう
高澤:複数人が参加することで尾ひれがついていくのがゲームっぽいんですかね
今田:それを「ゲーム」と認識できるのは第三者だよね。参加者にはわからない
高澤:たしかに
今田:なんかいろんなイメージがコンパクトにぎゅっと入ってる気がして、おもしろいです
高澤:うん、たくさん入ってますね
今田:ぼく家で現代川柳ちょっと考えたりもするんですけど、この、「なり」とかの使い方がぜんぜんわかんないんですよね
高澤:コロ助?
今田:『キテレツ大百科』のアニメはF先生自身もお気に入りだったらしいですよ
(まさかの藤子・F・不二雄トーク 中略)
今田:だから『エスパー魔美』ですよ、ぼくは
高澤:へ~。次はわたしが選んだ句です
いつも硝子は割れようと思っている
――筒井祥文
高澤:現代川柳を読んでいて、助詞とか語尾の組み合わせで新しいイメージが生まれるのが楽しいと思ってたんですけど、これは「あ、そうだよな」って腑に落ちるのが逆に新鮮でした
今田:あたりまえなことを捉え方、言い方でおもしろくするパターンかな。「割れる」を「割れようと思っている」と
高澤:わざわざ文字にするおもしろさもあります
今田:いいんじゃないでしょうか。どうぞ
高澤:いただきます。次は今田さんが選んだ句です
野菜売り場にたちこめている霧
――畑美樹
高澤:これは『ミスト』ですか?
今田:ちょっとちがうね。「たちこめている」まではよくあるふつうの風景なのに、ラスト一文字で世界が一変するのがいい
高澤:たしかに
今田:ある本(※)で、映画監督の古澤健(たけし)さんが、黒沢清監督の『回路』の助監督をやってたときのエピソードを読んだことがある。車内から外を撮るシーンで、フロントガラスにヒビを入れて撮ったと。たったそれだけのことなんだけど、そのヒビごしに撮影するだけで、映る世界がまったくちがって見える。そのエピソードを思い出しました
高澤:へー
今田:この句も、とくに特殊なことをしてるわけではない。ただ一言「霧」と言うだけで、世界ががらっと変わる。それこそ『ミスト』のように
高澤:たしかに、変わった言葉も使ってないのに
※2014年のムック本『Jホラー、怖さの秘密』のこと。ただ、フロントガラスうんぬんは黒沢清が『SFボディ・スナッチャー』について語ったもの。古澤さんはこう言っている。「黒沢さんの演出のポイントというのは、派手なことをいっぱい詰め込んでやるんじゃなくて、一つの技で、すべてを表現する、基本的に最小の技で最大の効果を上げるってことなんですよ」
今田:では、この句はぼくがいただきます
高澤:次はわたしの選んだ句です
逆さですあふれそうです鶴見えます
――きゅういち
高澤:急いてるかんじがいいなって。あわてて早口になってる
今田:まず「あふれそうです」で意味的にも急いてる。あと「~です」っていう報告?が連続するのも焦ってるようにかんじる。どれもクリティカルではないんだけど、積み重ねでヤバくなってる
高澤:鶴ww
今田:「逆さ」と「あふれそう」はまずい気がするんだけど、鶴だよ問題は。もし報告を受ける側だったら「鶴? 鶴はいいんじゃない? 見えて」と言ってしまうかもしれないです
高澤:リアクション待ちかな
今田:ほんとにヤバいかどうかはさておき、自分がヤバいと言いたいだけなのかも。身の回りのものでなにかピンチっぽく聴こえそうなものを手当たり次第に言ってる
高澤:あー
今田:「これ、そういえば逆さじゃん!」「これもうあふれそうじゃん!」で、「つ、鶴が見えそうじゃん!」と
高澤:どうにかして切迫感を伝えたいんですね
今田:たんに鶴が見えそうなだけなのにピンチっぽく言ってしまう。人間の認知なんてそんなものですよ。ピンチだと思えばそう見えてくる
高澤:「火事だー!」とかね
今田:いや、火事はほんとうにピンチですよ
高澤:これはぜひ持って帰りたいです
今田:いいと思います。次はぼくの選んだ句です
ライオンの口に投げ込むオムライス
――久保田紺
今田:今回候補に挙げた一京句のなかで、いちばんかわいいですね。ダントツです
高澤:どっちですかね。上手投げ? 下手投げ?
今田:それはどうでもいいです。ライオンとオムライスしかぼくの目には映ってないんで。誰が投げたとか、どう投げたとかはどうでもいい
高澤:なんか、スローモーションで見えます
今田:それもどうでもいいです。見た側の話なんで
高澤:ww
今田:ライオンの口にオムライスが入っていく。これだけでいい。「投げ込む」で他者が出てきてるけど、ほんとうはこれも要らない。ライオンの開いた口にオムライスが入っていく。この画だけでいいと思います。ただ、ライオンの口にオムライスが入るだけでは川柳にならないんですよね。だから、最低限、投げ込むだけはさせていただきましたと
高澤:次も今田さんの選んだ句です
指人形のオオカミも真剣だ
――金築雨学
高澤:タカくくっちゃだめだよってことかな
今田:どういうこと?
高澤:指人形だからってなめんなよって
今田:どういうこと?
高澤:オオカミ側から言えば、なめんなよって
今田:オオカミ側? じっさいのオオカミ?
高澤:いや、指人形のオオカミ
今田:に、人格があるみたいなこと? だからってなに?ってならないかな。だって指人形でしょ?
高澤:指人形のオオカミが、自分もオオカミだぞと言っているように聞こえます
今田:言ったからなに?ってならない? あれ、もしかしてぼく指人形に厳しいですか? だって指人形は指人形じゃん
高澤:なんか、モノにも人格があるのかもな~、みたいな……
今田:……あ、そういうことか。ぼく、指人形をモノだと思ってないです
高澤:なんだと思ってますか
今田:人体の延長だから、人かな。だから「指人形にも人格がある」って言い方に違和感がある
高澤:ふ~ん
今田:なんでそう思うのかな。人体の延長でも、たとえば「耳」が主体の句は違和感なく読めると思うんだけど、でも指人形が主体だとむりだな
高澤:わたしのイメージでは、指人形は指に刺さってなかったです。ソフビの人形みたいな
今田:ん? でもさ、机にポンと指人形が置かれてるの見て「指人形だ!」って思う? たんに「人形だ!」とか「なにかのパーツだ!」じゃない?
高澤:あっ、そうか!
今田:指人形を指人形だと思うのは、指に刺さってるときだけだよね。置いてあるだけではただの人形
高澤:そうですね
今田:だから、この句も、「指人形」と言うかぎりは指に刺さってると思うんです。で、指は人体の延長だからそこに人格は無い。なぜなら、もっとそばに人間本体の本物の人格があるから。ゆえに、その近くにある指にべつの人格がある気はしない、と
高澤:うんうん
今田:ぼくこの句に疑問を呈してましたよね。なにか違和感があったんです。で、なんだろうこの違和感は?と思ってここに持ってきた。違和感の理由はこういうことだったんだな
高澤:へ~
今田:でも「なんだろう?」と思う気持ち、姿勢を忘れずにいたいので、家に持って帰りますね。「臥薪嘗胆」のブツ(薪や肝)みたいなかんじで
高澤:がしんしょうたん?
今田:そっか。高澤さん四字熟語を一字も知らないんですよね
高澤:焼肉定食くらいですね
今田:最悪ですね。その、四字熟語のたとえに焼肉定食を持ってきてもいいと思ってるおじさんのセンス。「ガハハ」みたいな。大嫌いです
高澤:すいません
今田:次はぼくの選んだ句
たまごやきとウインナソーセージの皆さん
――石田柊馬
高澤:これほしいです!
今田:じゃあほしさをアピールしてください。話だけでも聴きましょう
高澤:呼びかけ先がこのふたつなのがいいんですよね。たまごやきとウインナーっていう……
今田:もしかして、お肉とかお魚とか、いろんな食べ物があるなかで、わざわざこのふたつを選んだと思ってます?
高澤:はい
今田:ちがいますよ。選択肢なんかほとんど無いんです。なぜなら……
高澤:?
今田:これ、お弁当箱なんです
高澤:…………うわー! 本当だ!
今田:たまごやきとウインナーに呼びかけることができる場ってどこでしょう。ビジネスホテルの朝のビュッフェ? あれはスクランブルエッグ
高澤:お弁当箱だ……
今田:サラリーマンのお昼のお弁当なのかな。なんか街頭演説っぽくもあるね。あえて意味を持たせるなら、こんな狭いお弁当箱のなかでなにを偉そうにしてるんだと。しょせんは弁当箱サイズの人生でしかないだろ、と
高澤:そんなに厳しいんですか
今田:厳しいんですよ。えーっと、選んだぶんはこの句でおわりだったんですけど、せっかくこんなにたくさん(一京句)候補を選んだんで、なにか気になるものがあれば追加で2句ほどどうでしょう
高澤:ほしいのあります
延長戦「銀河からの2句」
銀河から戻る廊下が濡れている
――加藤久子
今田:これはいいですよね。もし高澤さんが挙げなかったら、黙って持って帰ろうと思ってました
高澤:挙げてよかった~
今田:すっごいきっちり575。これポイントです
高澤:なんか美しいんですよね
今田:品があるよね。ぼくはかわいいか、品があるものが好きです。ちがうか。下品なのがいやですね
高澤:銀河から戻る途中
今田:リビングと銀河のあいだにある廊下ってことかな。ほぼ景色だけで、ドラマは書かれてない。だからこそなんでも入れられる
高澤:銀河でなにか経験をして、それで見方が変わる。いい映画を観たあとに、世界の見え方も変わるみたいな
今田:ブルース・リーの映画を観た後はみんなブルース・リーになるとか言いますね
高澤:銀河に行く途中はたいして気にも留めなかったのに。濡れていることに対しての見方も一新してるんです
今田:銀河に行ったからこそ見えてくる風景
高澤:感受性が上がってる状態
今田:たしかに、宇宙飛行士は神様を見るとか言うもんね。神秘体験をするって
高澤:うん
今田:これ、もし公園からの帰り道だったら「公園から戻る」で句が終わっちゃってたね。銀河からの帰り道でよかった
高澤:この句はどっちのものですか?
今田:じゃあ、ぼくもほしい句あるんで、それ聴いて判断してください
高澤:はい
蝶沈む 葱畠には私小説
――墨作二郎
高澤:すてき……
今田:リリカル?
高澤:詩的……
今田:「蝶沈む」だけかな。リリカルは
高澤:「葱畠には私小説」もリリカルですよ
今田:「葱畠」単品はどうですか
高澤:リリカルではないです
今田:つまり、リリカルではない言葉も、べつのリリカルではない言葉と組み合わせることで、リリカルになる場合があると。なるほど。これは気づきですね。収穫です
高澤:よかったです
今田:なんか「二物衝撃」? でしたっけ。ありますよね。ふたつの相容れなさそうなものをぶつけて爆発させるみたいな
高澤:へ~、初めて聞きました
今田:あれは聞いたことありますか。「手術台の上のこうもり傘とミシンの出会いのように美しい」
高澤:なんか、一回くらいは、なんとなく……
今田:聴いた回数覚えてんの
高澤:むかし、どこかで……
今田:あれはシュールレアリズムかなにかの説明ですよね。なんか似てる気がしました
高澤:「蝶沈む」のあとのスペース。ここで突き放されてるような気がしていいんですよ
今田:高澤さん、前回もそうでしたけど、けっこうスペースに思いを入れこみますよね。なんか、えらい自由に……
高澤:なんですか
今田:や、好き勝手やってんなあと
高澤:読みは自由ですから
今田:そうなんですけど、なんかこう、そういうやり方、ネガもあればポジもある気がします
高澤:そうですか
今田:そういえば、これ「墨作二郎」さんの句なんですけど、ぼく最初「墨作・二郎」だと思ってたんです。『はじめまして現代川柳』のなかで「作二郎は……」って書いてあってびっくりしましたよ
高澤:すみ、さくじろう
今田:ちょうどいま、スペースがどうとか、どこで意味を切るかみたいな話になりましたけど、「墨作二郎」はすでに名前のなかでそれをやっていたとも言えるのかなと。言えませんけどね
高澤:そうですね
今田:…………
高澤:…………
今田:…………
高澤:…………
今田:…………へとへとですね
おわりです
取り上げた句、作者に敬意を表します。
厳密な書き起こしではなく、足りない言葉を補ったり、もったりをばっさりやったりもしてます。ぜひ音で聴くバージョンのつたないグルーヴ感も聴いてみてください!