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【ひとつでは無い正義感】 #526


老夫婦には子宝には恵まれなかった
その為
60歳の定年後に
施設から養子を迎える事を選択した
どうしても子供が欲しかった夫婦の念願であった


養子になったのは男の子
名前はヤスシ
老夫婦の元に来たのは3歳の頃であった


ヤスシはとても心の優しい子であった
本当のお母さんはシングルマザーで
ヤスシを育てるために一生懸命に働いた


しかし神様は残酷なもので
お母さんを交通事故という惨事で奪われた
ヤスシのお母さんはひとりっ子で
しかもお母さんの両親も既に他界しており
ヤスシは施設に引き取られた


そんなヤスシをいたわるように
優しく優しく育てた
毎年お母さんの命日にはお墓参りもした


ヤスシは老夫婦をお父さんお母さんとは呼ばず
ジィジとバァバと呼んでいる
これもヤスシのお母さんへの配慮と学校でイジメを受けないようにという優しさからだった


老夫婦に育てられたヤスシはスクスクと育ち
老夫婦を喜ばせた


高校2年生の時
ヤスシは老夫婦に進路について話した



「ジィジとバァバ
話を聞いてほしいことがあるんだ」



「なんだいあらたまって」



「うん実は進路の事についてなんだ」



「大学か?専門学校か?」



「いや違うんだ」



「じゃあ働くのか?
お金の心配だったら大丈夫だぞ」



「そういう理由じゃないんだ」



「そうか
じゃあ一体何をするんだ?」



老夫婦はヤスシに対して
完全なる信頼を持っていた



「うん実は…
ちょっと言いにくいなぁ」



「なんだ?
ジィジとバァバが想像もできないような変な事でもするのか?」



「まぁ
変と言えば変だけど

実はさぁ
僕フランスに行こうと思っているんだ」



「おやっ
留学か
それは想像してなかったなぁ
しかしどうしてフランスに行きたいんだ?
画家にでもなるのか?」



「違うよぉ
僕絵はヘタだもん

まぁ最初は留学になるけど
英語とフランス語を習得して
その後
フランス外国人部隊に入隊したいんだ」



「おいおい
軍人になりたいのか?
ヤスシは戦争が大嫌いって言ってたじゃないか」



「今でもそうだよ
戦争なんてこの世の中から無くなってしまえば良い
そう思っているよ
だからフランス外国人部隊に入隊するんだ
そして国連軍に配属を希望したいんだ」



「国連軍?
またどうして?」



「紛争地域へ行って
苦しむ人々の手助けをしたいんだ」



「なるほどぉ
しかしあれだなぁ
ビックリしたよ
ビックリしたけど
自衛隊ではダメなのか?」



「うん
自衛隊ではダメなんだ」



「どうしてなんだ?」



「具体的な理由は無いんだけど
何となく僕の肌には合わないかなぁと」



「まぁ
嫌ならしょうがないわなぁ
しかしフランスかぁ
寂しくなるなぁ
なぁバァバ」



静かに頷いたバァバの目尻には涙が



「バァバ泣かないでよ
2度と会えなくなる訳じゃ無いんだからさぁ」



「分かるけど
ヤッちゃんがそんな急にこの家から居なくなるなんて

そりゃ大学とかで一人暮らしとかは想像してたけど
フランスでしかも軍人だなんて
頭の隅にも無かったわよ

でもね
良いの
ヤッちゃんがそうしたいなら
バァバは反対しないわ
ジィジもそうでしょ?」



「もちろんジィジも反対はせんよ」



「ありがとう」



ヤスシは2年後フランスに留学し
一生懸命に勉強し
その後本当に外国人部隊に入隊した
過酷な訓練にも耐え
仲間にも恵まれ
数年後には念願の国連軍に配属された


ヤスシは色んな国の紛争地域に出向き
一生懸命に支援活動を行った
しかしこの国連軍というのも
国によって空気が違う
融和的な国があれば
ピリピリした関係の国もあった


それ自体はしょうがないかなと
ヤスシも理解はしていたが
理解できない部分もある


あくまでも平和維持活動による救済であって
双方の紛争の核には立ち入れない
言い換えると
紛争そのものの根っこには関わらず
表層的な支援でしかない


こう書いてしまうと
語弊があるが
ヤスシにはそう思えたと理解してほしい


ヤスシはアフリカのある国で
それを強く感じた


一旦フランスに戻った時に除隊した


ヤスシは日本には帰らず
日本大使館と連絡を取り
アフリカの日本人が運営する
NPO団体に所属する事になった


ヤスシは現地の人の為に
一生懸命に活動した


国連軍とは違い彼らの生活と密接に繋がり支援する事ができたので
ヤスシは喜びと充実を感じた


それと共に紛争についての認識を深めていった


日本人には到底理解できない
ギラギラしている
宗教や種族が一直線にぶつかり合う


ヤスシたちの団体はどちらにも支援を行うがやはり根っこには深入りはしてはいけない
思想とは無縁な立場にいなければならない


しかしヤスシの正義感は独り歩きし始め
介入してはならない領域に足を突っ込み始めた


遂には
NPO団体から離脱し
表向きは商店の経営者としての独立だが
裏側では弱者側のグループの手助けを始めた


NPO団体の元同僚は危険なので
止めるよう助言したが
ヤスシの耳には入らなかった



更に数年後
ヤスシは武器を取り
平和を願い人殺しに手を染めた


もう
ジィジとバァバの知っているヤスシでは無い



ヤスシは日本には戻る事は無かった
ジィジもバァバも他界した
もう日本には帰る家も無い


ヤスシが老人になった頃
紛争は終結しており
平和が訪れていた


ヤスシは普通の商店のオヤジになっていた
現地の人からは「ヤス」と呼ばれ親しまれている



彼はもう日本人では無い



桃太郎のようには行かない






ほな!

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