政治家レイシズムデータベース2022年7月
反レイシズム情報センター(ARIC)です。
ARICでは、政治家はじめ公人によるヘイトスピーチやレイシズムの記録を行い、データベース化しています。
このnoteでの「政治家レイシズムデータベース」では、毎月追加したデータの中から、特に深刻なケースをこのnote記事上でピックアップしていきます。
今月も追加した差別事例から一部を紹介したいと思います。
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7月8日に安倍晋三が射殺された事件を受けて旧統一教会の問題に焦点が当てられたことで、今月の記録では事件に関連づけて朝鮮人に対する差別を煽る主張が見られた。今回の記事では、そうした主張の危険性について解説していく。
まず改めて7月8日に起きた事件について整理する。
7月10日に参院選投票日が迫るなか、奈良県にて参院選の応援演説を行なっていた安倍晋三が銃で撃たれ、そのまま死亡した。犯人の動機は、自身の母親が宗教にのめりこんだために家庭が崩壊、それによって宗教団体に恨みをもち、そして安倍氏がその団体とつながっていると考えたことから犯行に及んだとされている。その宗教団体が旧統一教会であったことが明らかになっている。
その統一教会の教祖文鮮明が韓国人であることなどを口実に、韓国人ヘイトを行う極右の動きが出てきていることに着目する必要がある。その典型が、これまでにもさんざん取り上げてきた元葛飾区議会議員の鈴木信行だ。
彼は7月14日のブログで下記のように述べている。
「韓国司法の思考はカルト宗教と同じ」「慰安婦も関東大震災での朝鮮人虐殺というアリもしない創作も同じ思考から発している」とあるように、カルト宗教の問題を韓国の「思考」の問題に還元して「慰安婦」や関東大震災時の朝鮮人虐殺に対する歴史否定を行っている。
ポイントは、「文鮮明が始めた統一教会やカルト宗教の信者と同じで、日本が悪と信じた韓国人に反論は通じない」とあるように、特定宗教に対する批判を明らかに逸脱し、「韓国人」そのものの「性質」を規定するレイシズムを目的として主張が組み立てられているということだ。安倍晋三射殺事件によって統一教会に対する批判が噴出している状況を韓国、あるいは韓国人そのものに対するバッシングへと接合させようとしている。
佐渡金山の世界遺産登録に関しても最前線で「歴史戦」を担い、強力な求心力をもっていた安倍氏亡き後で自民党が揺らぐなか、自民党への批判を利用してよりレイシズムを煽る主張が台頭することに注意を払う必要があるだろう。
終わりに
今回紹介したような、統一教会危機を利用したより右からのレイシズム煽動は今のところ大きな動きとして出てきているわけではないと考えられる。しかしながら、事件が起きた当初、まだ犯人像が明らかではなかった時期に犯人が在日外国人であるとする投稿がSNSで出てきていた(1)ことを踏まえても、事件によって生じた混乱が再度レイシズムを促す方向に結びつけられる可能性に警戒すべきだろう。
(今回紹介した形でのレイシズム煽動がまだそこまで大きな動きになっていない要因としては、歴史否定を率先して行なってきた自民党議員らが統一教会との関係追求によって大人しくさせられているためであると考えられ、逆説的にレイシズム煽動の拡散に対して政治家がもたらす影響力の大きさが示されているといえるのではないか。)
(1)https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20220708-00304689
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