オリヴィエ・ラシーヌ
【新連載】愛の本質に迫る、神話風ミステリー小説 毎週水曜に連載しています。よろしくお願いいたします。
オリヴィエ・ラシーヌについて知りたい方向け。 創作に対する姿勢のようなものをお伝えするエッセイです。 私自身の価値観や考え方、好みなどが話題の中心で、小説そのものではありません。 意識の言語化を練習する場としても利用させていただいています。
◀前回 目次 次回▶ 第六編 命の形(一) 木陰にはところどころ雪の名残があったが、大地は夏にむけて準備を始めていた。目に沁みるような新緑が、太陽…
◀前回 目次 次回▶ 第五編 砂城の亡霊(三) いかほどか時間が過ぎていた。やっとのことで、獣はガラス玉のような青い瞳をしばたいた。四肢を振るい、…
◀前回 目次 次回▶ 第五編 砂城の亡霊(二) 「気を付けて行っておいで。」 右手からテオドロの声だけが聞こえる。あまりに強い光にあてられて見えな…
◀前回 目次 次回▶ 第五編 砂城の亡霊(一) 窓の外は相変わらず薄暗いままだったが、雲一つない晴天であった。深い空には無数の星が浮かび、大きな満…
◀前回 目次 次回▶ 第四編 王女と女王(二) 黒刃が女王を抱えて後方へ飛ぶように逃げる。着地し再び構えを取り直した鋼は、注意深くゴーストの様子を…
◀前回 目次 次回▶ 第四編 王女と女王(一) 自堕落と節制の冬が来た。暖炉からは音も高らかに紅の火の粉が飛び散っている。地熱のおかげで雪に覆われ…
本編目次 あらすじ(連載開始告知ページ) 第一編 孤島の二人(一) 孤島の二人(二) 第二編 背中に棲む獣(一) 背中に棲む獣(二) 背…
◀前回 目次 次回▶ 第三編 全神会議(三) メリッサに焚き付けられて、鋼の瞳は沸騰するように滾っていた。水の匂いが場内を満たす。なるほどこれが本…
◀前回 目次 次回▶ 第三編 全神会議(二) 鋼は、姿勢を正したまま直立し続けていた。はきはきとした声が邪魔のない空間によく通る。 「掟を破り、全…
◀前回 目次 次回▶ 第三編 全神会議(一) 目覚めは唐突に、海底から浮上する泡のように襲い来た。鋼は頭の奥がジーンと痛むのを感じながらしばらく寝…
◀前回 目次 次回▶ 第二編 背中に棲む獣(三) 地面に空いた丸い窪みを通り過ぎた辺りから、土の肌が見えていた小道が苔に覆われていく。次第にカラマ…
◀前回 目次 次回▶ 第二編 背中に棲む獣(二) 猛った影の濁流が、最後の一滴までのど元を過ぎる。遠くで響いた波の行き来が鼓膜を揺らしている。 …
皆さま、こんにちは。オリヴィエ・ラシーヌです。 冷房の使用や水分補給などには気を付けていたつもりが、先日、熱中症になってしまいました。 しばらく暑いところにいた…
◀前回 目次 次回▶ 第二編 背中に棲む獣(一) 傾いた日差しは黄色く染まり、次第に赤みを帯び始めていた。日の入りはきっと二十時半ごろになるだろう…
◀前回 目次 次回▶ 第一編 孤島の二人(二) 風が鳴っている。鋼はわざとらしく肩をほぐしてみせた。 「それじゃ、塞ぐとしますか。」 「……大丈夫か?…
◀前回 目次 次回▶ 求道のマルメーレ もう猶予がない。私は凍えたような吐息を漏らしながら、油まみれの両手で髪の毛を掻き回した。岩窟の暗がりを、た…
2024年10月23日 16:08
◀前回 目次 次回▶第六編 命の形(一) 木陰にはところどころ雪の名残があったが、大地は夏にむけて準備を始めていた。目に沁みるような新緑が、太陽に向かって手を伸ばしている。 土の付いた鍬を家の壁に立てかけて、黒刃は鹿肉のサンドイッチを食べていた。柔らかいロースト肉に絡んだコケモモのソースが、肉汁と混ざって溢れ出る。頬に付いた紅色を拭いながら、黒刃は満足げに頬を緩ませた。 丘
2024年10月16日 16:23
◀前回 目次 次回▶第五編 砂城の亡霊(三) いかほどか時間が過ぎていた。やっとのことで、獣はガラス玉のような青い瞳をしばたいた。四肢を振るい、山のように背骨をしならせて上体を起こすと、辺り一面がもうもうと煙っている。手のひらを突く細かな石粒は、薄積もりの雪のように床を覆っていた。 獣は横たわっていた場から少し歩み、微かに光るトルマリンを見つけ出した。一つくしゃみをし、ブロー
2024年10月9日 17:04
◀前回 目次 次回▶第五編 砂城の亡霊(二)「気を付けて行っておいで。」 右手からテオドロの声だけが聞こえる。あまりに強い光にあてられて見えないその姿の方に目をやり、鋼は光の射す方に向き直った。手で作っていたブラインドを上げる。「行ってきます。」 その声と共に、黒いブーツが一歩、亀裂の中に踏み込む。純白の外套が光の中に溶けこんだ。 すぐさま、ゴォン、と低い音を上げて背後
2024年10月2日 17:14
◀前回 目次 次回▶第五編 砂城の亡霊(一) 窓の外は相変わらず薄暗いままだったが、雲一つない晴天であった。深い空には無数の星が浮かび、大きな満月の暖かい光が家の中を照らしている。鋼は火の粉が爆ぜる音に耳を傾けながら、暖炉のすぐ横にひっそりとしゃがみこんだハイラを眺めていた。 彼は、昨日鋼が座るよう指示した時から微動だにしていなかった。命令がないと本当に何もできないらしい。ま
2024年9月25日 17:01
◀前回 目次 次回▶第四編 王女と女王(二) 黒刃が女王を抱えて後方へ飛ぶように逃げる。着地し再び構えを取り直した鋼は、注意深くゴーストの様子をうかがった。 雪の塊を背負ったゴーストが短くなった腕で体を支え、関節をぎしぎしと軋ませながら立ち上がろうともがき始める。金属のこすれ合うような音がこめかみを這いずり、鋼の耳へ届いた。ただそれでも、ゴーストの視線は女王からそらされない。
2024年9月18日 17:03
◀前回 目次 次回▶第四編 王女と女王(一) 自堕落と節制の冬が来た。暖炉からは音も高らかに紅の火の粉が飛び散っている。地熱のおかげで雪に覆われることのない窓の外は、極夜と吹雪でほとんど何も見えなかった。温まった窓ガラスに吹き付けた雪が、身をよじっては溶けてゆく。 やかんから昇る蒸気で鼻先を赤くした鋼は、時折手をすり合わせながら、揺れる蝋燭の隣で絵日記を付けていた。 水をた
2024年9月15日 16:21
本編目次あらすじ(連載開始告知ページ)第一編 孤島の二人(一) 孤島の二人(二)第二編 背中に棲む獣(一) 背中に棲む獣(二) 背中に棲む獣(三)第三編 全神会議(一) 全神会議(二) 全神会議(三)第四編 王女と女王(一) 王女と女王(二)第五編 砂城の亡霊(一) 砂城の亡霊(二) 砂城の亡霊
2024年9月12日 13:38
◀前回 目次 次回▶第三編 全神会議(三) メリッサに焚き付けられて、鋼の瞳は沸騰するように滾っていた。水の匂いが場内を満たす。なるほどこれが本性かと、場にいるほとんどが身震いするか苦笑を浮かべた。 その中で風神たちだけが明らかに顔をしかめたのに対し、キャロディルーナは唯一、全くの無表情を貫いていた。 右手の薬指のタンザナイトがスッと弧を描き前に出る。藤色の瞳は、シアンブル
2024年9月4日 17:19
◀前回 目次 次回▶第三編 全神会議(二) 鋼は、姿勢を正したまま直立し続けていた。はきはきとした声が邪魔のない空間によく通る。「掟を破り、全神会議を軽視していると思われても仕方のない行動をした。そのことに対する罰則に反発する意図はございません。しかし皆さまには是非、ゴーストが理性と知能を持っていたという事実を重く受け止め、今後の対応を審議して頂くようお願い申し上げます。以上
2024年8月28日 17:02
◀前回 目次 次回▶第三編 全神会議(一) 目覚めは唐突に、海底から浮上する泡のように襲い来た。鋼は頭の奥がジーンと痛むのを感じながらしばらく寝そべっていたが、手のひらに書かれた「弁明」の文字を見るなり、その手で額をベチ、と叩いた。 ぐっと首を伸ばし仰ぎ見ると、壁に掛けられたネジ巻き時計の針が無情にも五時過ぎを指している。窓の外は朝日が差す少し前といった様子だった。群れの目覚
2024年8月21日 17:01
◀前回 目次 次回▶第二編 背中に棲む獣(三) 地面に空いた丸い窪みを通り過ぎた辺りから、土の肌が見えていた小道が苔に覆われていく。次第にカラマツがまばらになって、トウヒやモミの木が優勢になる。そうすると森は閉じていくのだ。だんだん薄暗くなっていく。 西の森は深く、動物もあまり好んで出入りしない。したがって環境の変化に弱い。だから例えば、合わせて百三十キロくらいであろう二人分
2024年8月14日 16:58
◀前回 目次 次回▶第二編 背中に棲む獣(二) 猛った影の濁流が、最後の一滴までのど元を過ぎる。遠くで響いた波の行き来が鼓膜を揺らしている。 しばしの沈黙を破り、穴の空いた左腕の爪先がピクリと動いた。思い出したように切れ長の目が開かれる。 途端に青ざめた唇はわななき、ひきつった笑い声をあげた。お互いを打ち消し合ってほとんど音になっていない六つの声色が響く。ふらつきながら立ち
2024年8月11日 08:54
皆さま、こんにちは。オリヴィエ・ラシーヌです。冷房の使用や水分補給などには気を付けていたつもりが、先日、熱中症になってしまいました。しばらく暑いところにいた後、タイミング悪く冷房の効いた部屋に入ってしまったようで、体の中に熱がこもっているのに汗をかけなくなってしまったようなのです。熱中症というと、暑いところで発症するとか汗が止まらないとか、そういうものだと思い込んでいたので、目が回り出すま
2024年8月7日 16:59
◀前回 目次 次回▶第二編 背中に棲む獣(一) 傾いた日差しは黄色く染まり、次第に赤みを帯び始めていた。日の入りはきっと二十時半ごろになるだろう。すぐにでも使えるように手入れされた暖炉の柱には、飾り文字で九月二日と書かれたカレンダーがあった。山積みの薪も、その役目を待ちわびている。 蝋燭の灯りに照らされて、焼き鮭の影が揺らめいた。みそ汁の香りが部屋に満ちる。湯気の上がる米が盛
2024年7月31日 16:58
◀前回 目次 次回▶第一編 孤島の二人(二)風が鳴っている。鋼はわざとらしく肩をほぐしてみせた。「それじゃ、塞ぐとしますか。」「……大丈夫か?」「ん〜? 平気だよ。」 鋼の揺れる声音に、しかし黒刃は黙したまま視線を落とした。鋼の手を覆う革手袋が鈍く光を反射する。深く息を吐く音が響いた。 碧眼が一つまたたくと、辺りがシンと冷え、空気中の水蒸気が小さく凍りつく。手袋を外し
2024年7月24日 17:03
◀前回 目次 次回▶求道のマルメーレ もう猶予がない。私は凍えたような吐息を漏らしながら、油まみれの両手で髪の毛を掻き回した。岩窟の暗がりを、ただ一つのランプが照らしている。 やつらの足音が聞こえるような気がして背後を振り返るのも、もう何度目かわからなかった。入り組んだ電子回路に汗が滴り落ちるのを間一髪で防ぐ。私をただの狂人と断定して、追放せんと狙っている浅慮な者ども。やつら