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【短編小説】病棟

 僕の蹴ったサッカーボールが廊下でゆっくり、ゆっくり転がった。
「お前もか?元気が出ないね。ボール君、僕も競技場(きょうぎじょう)にいたい。一緒に、本当に頑張ったよね?夜ふかしして、いつも一緒に練習したよね?」
肩を落として、視線を下げた。「ごめん、ボール君。僕は前と違う。お…おそらくあそこにはもう行けない…」
 しくしく泣いて肩が震えていた。しばらく僕は病棟の廊下に立って、残った一本の足を見ながら泣いていた。松葉杖が脇の下をゴツゴツとすって、痛い。永遠にこんなものを使わなければいけないのか!?こんな足で、競技場にいけるはずがない。
「クソ!」と叫んで、ボール君を蹴った。僕の今までの人生が終わったのだ。サッカーはもうできない。もうボールなんて必要ない。下を向いたまま、自分の部屋に向かった。

しばらく行ったところで、何かが視界の端を横切った。ゴロゴロ…ボール君が転がってきて足元に止まった。
「それはあなたのボールでしょう?すごいキックだったね!」女性の声がしたが、僕は顔を上げなかった。
「もう僕には関係ない。どうでもいい」
「ね、元気出して!あなたはまだ生きているんだから、大丈夫よ」
「君、何も知らないくせに」別に、人と話したくないよ。空気を読め。
「ねえ」彼女が僕の前に屈んで、僕に微笑みかけた。
綺麗だ。その深い茶色の目。優しい目だ。彼女はやさしくささやいた。
「私はエミ。よろしくね」下手くそに彼女はウィンクした。
「僕の気持ちなんか誰にもわからないんだ。僕の足を元のように戻すことができないなら、話しかけてこないでよ!」
「…あれ?でも、あなたの足はそこだよ。一本、二本、三本!すごいなぁ!君は特別な人間だよ!…ずるい!私、二本の足しかないのに…」彼女のプンプン怒っているみたいな顔を見たら、僕は笑ってしまった。彼女も一緒に笑った。
「あ、笑った!♥いい笑顔じゃない」
「エミちゃん!時間ですよ!今度は医者を待たせないでください!」
「今行くわ!…ごめんね、今から検査なの。…後で、暇ある?まだココにいるの?あなたに見せたい物がある…」


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