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【短編小説】染まる


「尚子ちゃん、今夜、あなたの髪の毛を染めるわ。」
「イヤだ、お母さん!臭いし、私はもう十六歳よ!もう大人だよ。私、もう子供じゃない!自分で決めるから!もうお母さんの言うことなんか聞かない。私の髪の自然な色は、そんなに悪いの?私じゃないみたい!本当の色がさっぱりわからない。」

「ダメです!なんで毎日あなたの髪の毛を染めるのかわかる??この平和な生活を続けるため。お父さんは一生懸命頑張って、この生き方を作ったんですよ。私たちのために。」

もういい。お母さんは私のこと全然わかってくれない。私の体だから、決めるのは、私でしょう?そんなにダメなの!?自由に生きたい!〈平和〉なんかいらない。お母さんとの生活は、毎日、毎日、同じ。毎日、ただの繰り返し。くだらない。私は私だ。

ごめんね、お母さん。私、ここから、一人でいい。逃げるのはそんなに難しくない。

晩ご飯中、お母さんに「お腹痛い」と嘘をついた。
「大丈夫?痛み止めいる?」
「大丈夫。ちょっとだけ休むから、しばらくひとりでゆっくりさせて」嘘をつくのはイヤだけど、仕方がない。お母さんは私のことが理解できない。

寝室のドアを閉めた。前に準備をしたリュックを背負って、帽子をかぶった。そっと、そっと、音を出さないように気を付けて、窓を開けた。外に飛び出した。
自由だ。

夜の寒さはこんなにいい気持ちなのか?ここから、自分でなんとか生きよう。。。

。。。。2か月後。。。。

あの夜から、私はいつも帽子をかぶっていた。お母さんに遠慮して。しかし、あの時から、一度も、自分の髪の毛を染めていない。私の自然な色は、まさかの意外と銀色だった。あ~、こんな綺麗な色を隠すなんて、もったいない!

最後の染まった部分をハサミで切った。「さようなら、お母さん」とささやいて、捨てた。もう帽子なんてかぶらない。自由な私をみんなに《世界に》見せたい!切ったら、超元気になった。体のどこかから、力が湧いてきた。まるで、私の失ってしまった部分がやっと、自分に戻ってきたみたいだ。もっと完全な私に近づいたような感じがした。

たっぷり自信をもって、私はこのまま外に出た。すごい。歩道を歩きながら、通り過ぎる人の思いと心の声が、私の頭に入ってきた。この能力は本当にすごい。なんでお母さんとお父さんは、私からこの能力を隠したの?この力で、何かしてみたい!

私の前に立っていた人にぶつかってしまった。「ごめん」と謝って、私はその人を追い抜こうとしたが、できなかった。その人が、私と同じ方向へ動いたからだ。私が右の方を向くと、その人も、右に行く。左の方に行こうとすると、また、この人は、私と同じ、左に行く。ココから一歩も進まない。
これも私の能力なの?でも邪魔だ。だったら…ちょうどいい。
私の中にある力を呼び覚ました。この人に使ってみたい…

突然、前の人が私の手を掴んだ。
冷たい金属が私の手首に当たった。逃げられない。その不思議な金属で、私の力が体から吸い出されている。誰?私を掴んできた人の顔を見上げた。

「お父…さん?」


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