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【ウィキペディア】2024/10/3~4 神田女学園中学校高等学校での授業 2Days その1 情報リテラシー編

過去の記事と内容が重複する部分もありますが、今回のnoteでは話した内容や意図を詳しく記します。


神田女学園中学校高等学校は、千代田区神田猿楽町にある私立の中高一貫校です。最寄り駅は水道橋で、お茶の水や神保町からもアクセスが良い、都会の中にある学校です。

今回は、学校図書館の司書の方にお招きいただき、高校2年生10名に対して、1日目は情報リテラシー、2日目はウィキペディア+ワークショップという内容で、授業1コマ分ずつを2日間にわたり実施しました。


一日目

自己紹介

私は、自己紹介に時間をかけるのはもったいないと常々考えています。
私が誰かは重要ではなく、何を話し、何を伝えられるかに焦点を当てる方が良いと思うからです。
ただし、相手に「この人はおかしな人ではない」と感じてもらえる程度の、最小限の自己紹介は必要だと考えています。

情報リテラシー

パパパコメントとポケモン

今回も「パパパコメント」を使いました。
事前に担当の先生から「ただの講義だと生徒たちが集中してくれないかもしれない」という懸念があったため、生徒たちにスマートフォンを持ってきてもらい、「パパパコメント」でアクションを起こしてもらう仕組みを何度か取り入れることにしました。

知らない人が講師として来て、なんとなく「ウィキペディアの人らしい」というだけの情報で話を聞いてもらう時、ティーン世代に楽しく話を聞いてもらうのは話芸のプロでも難しいことがあります。
そこで、さまざまな工夫を凝らして、飽きさせずに集中してもらえるようにしました。

スライド6

ちょっと協力してください。全部で3問
1.有名になるよりも目立たずに生きていきたい(Y/N)
2.自分の長所をわかっている(Y/N)
3.ポケモンが好き(Y/N)

上記の3つの質問を投げかけ、パパパコメントで回答してもらいました。
実は、どのような回答の偏りがあっても問題ありません。今日の授業がいつもとは違うと感じてもらえればそれで十分です。
3つ目の質問「ポケモン」は、「知識を得るのは何のため?」というセクションに繋げるためのものです。
「こいのぼりは、なぜ鯉なのか」という疑問を、
「コイキングが進化すると、なぜギャラドスになるのか」という話に展開し、知識のつながりを示します。
これにより、「知の広がり」や「知識が増えると楽しめることが増える」という点を説明していきます。

生成AI

これもアイスブレイクを兼ね、親しみやすい形を通じて話に集中してもらうための工夫です。
最近のWindowsに標準搭載されているCopilotを実際に使用して、生成AIができることを一緒に体験してもらいます。
生徒の一人に好きな動物を、もう一人に好きな食べ物を質問しました(この時点で、すでにパパパコメントの効果もあり、口頭での質問に臆することなく回答してくれました)。そこで、「チワワ」と「チョコレート」というワードを引き出しました。


「チワワ」が「チョコレート」を食べている絵をCopilotに描いてもらう
わんこにチョコレートを食べさせてはいけないんだよ、と付け加える

1分ほどで、このノートの冒頭画像と、上記の画像を含む4枚の画像が生成されました。
生成AIは、これだけのことを短時間で実行できてしまいます。もし人に頼むと、もっと時間がかかり、コストもかかるでしょう。しかし、生成AIに「プロンプト」と呼ばれる指示文を工夫して与えることで、自分が望むような絵をあっという間に描かせることができるのです
と説明しました。

次に、生成AIは読書感想文を代わりに書くこともできると口頭で説明し、さらに質問形式でなくても、下記のように話し相手にもなってくれることを伝えました。

生成AIは話し相手にもなってくれる

生成AIは、勉強に使えて便利ですが、自分の能力や実力が直接向上するわけではなく、向上するのは生成AIを使う能力だけです。
新しいテクノロジーが生まれるたびに、人間は自分の能力と引き換えにその技術を活用してきた歴史があります。そのため、AIに対する危険性や規制の必要性が議論される一方で、技術は発展し続けると考えられます。大切なのは、AIと上手に付き合い、依存しすぎないことです

とまとめました。

ディープフェイクとAI

上記の2つのX(旧Twitter)のポストを紹介し、顔データがあれば簡単に画像を挿げ替える技術が既に存在していることを説明しました。
自分の画像データがネット上に流れていると、それが別の画像に合成され、実際にはやっていないことをやったかのように見せかけられるリスクがある、ということです。
さらに、実際に存在しない人物に成りすます技術も発展しており、生成された動画や声を使った悪意がある相手とSNS通じて仲良くなり、自分のプライバシーを公開してしまう事例が既に発生していることも説明しました。


情報を取り入れる時の注意

最近よく使っているパンのスライド

ここでもパパパコメントを使い、1~3を選んでもらいました。2が多数であることを共有するのが目的です。

落ちているパンや、知らない人からもらったパンを食べることには躊躇するのに、なぜネットに落ちている情報や知らない人の発言を躊躇せずに信じてしまうのか。
食べ物はあなたのからだを作り
情報はあなたの考え方を作る

食べ物を口にする前に、メーカーや賞味期限を確認するのと同じように、情報もその出所や信頼性を確認すべきです。同じものばかり食べると栄養が偏るように、情報もさまざまなところから取り入れないと考え方が偏ります。

これらの説明を前提に、主観と客観、TruthとFactについて説明しました。

Chromeで上記リンクを表示させると、角度によって○にも△にも□にも見える立体が現れます。
一方向から見て「これは丸い」と思い込んでしまうのが「主観」であり、その人にとっての「真実」です。
他方、多角的に見て立体であることを確認するのが「客観的事実」であると説明しました。
物事はさまざまな方向から見るようにしないと、全体像を見誤ってしまうことがあるのです。

スライド39

その他、騙されやすい、誤解しやすい、思い込みがち、操作されている情報の例を複数挙げました。
スライド39では、
「そもそも正しい/正しくないで判断しようとするからややこしくなる。本気で騙そうとする人も多いのだから。だから『どうして自分はその情報を信じたのだろう』と考える習慣をつけることで情報リテラシーが向上していく」と説明しました。

実際、産地偽装などの問題があると、いくら疑っても真実を知ることは難しいのです。騙されてしまうことや誤解することもありますし、思い込みで判断ミスをすることもあります。誘導されることもあるでしょう。本気で騙そうとしたり、誘導しようとする人には敵わない場合も多いのです。

それならば、「なぜ判断ミスをしたのか」「次回、判断ミスをしないためにはどうすればよいか」ということを反復して考えることで、情報に強くなっていくほうが合理的です。誰しもケガをしたことがないわけではありません。

このセクションは、ACジャパンの「決めつけ刑事」の動画で締めくくりました。


情報を発信する時

誹謗中傷、犯罪予告、著作権侵害の3つが、ネット上で自分がやらかしてしまう主な問題です。
犯罪予告はさておき、著作権侵害はやりがちです。
また、誹謗中傷には懲役刑が適用されるようになったので、気をつけてください。という話に留めました。
生徒さんたちの表情を見て、「あ、これはピンときていないな」と感じたため、深く説明するのをやめ、他の部分に時間を使おうと思いました。

モザイクアプローチと呼ばれる、ネット上の情報の断片をつなぎ合わせて本来の情報を特定しようとする人たちがいます。
ストーカー的に相手の居場所を特定する人もおり、その結果被害に遭うこともあります。「ストーカー、「瞳に映った景色」で女性の自宅を特定」の事例(2019年)や、「スナック菓子の袋に反射した光から周囲の様子を画像で復元する」技術(2020年)の話も交えて、執念や技術によって知らない間に自分に関する情報が知られてしまう可能性があることを説明しました。
また、AI技術と組み合わせることで、身に覚えのない被害に遭う可能性も増えつつあることを伝えました。

家からの配信で外が写らないように配慮していても、どこに住んでいるかのヒントを与え続けているかもしれない、と展開しました。

スライド45
スライド46

「離婚相手から子供への接見禁止が言い渡されている親が、子供の居場所を探るために人探しの形をとってSNSにポストすることもあります」
「合格通知の画像をSNSに上げたら、知らない人が合格辞退の連絡を入れていた」
「自分は限られた人としかネットでやり取りをしていないし、仲良しの人たちばかりだから安心だと思っていた」→「その人と仲違いしないとなぜ言い切れるのか?芸能人のスキャンダルで赤裸々なやり取りが流出するのは、当事者が流しているから」
という説明を補完しました。

さらに、昨年(2023年)の紅白では素顔を公開していないアーティストが3組も出演していたことから、「リアルな自分をさらして活動をしなくてもいい時代であり、もしかするとVTuber的なアプローチのほうがリスクが少ない時代。自分の姿をさらしていくことが古い考え方になるかもしれない」と説明しました。
また、冒頭の
「1. 有名になるよりも目立たずに生きていきたい(Y/N)」
の質問につながっていることを意識してもらいました。

「匿名性はいくら金を積んでも買えない」By ジェーン・スーさん

多様性

多様性の話は特に若年層に伝えたいので、最近はお話しするようにしています。
ただ私には難しい話はできないので、さしあたって「敵を作らないように」ということを強調しました。これから先、あなたにいいニュースをもたらすのは自分自身の努力ですが、ニュースを運んでくるのは必ず他人です。その人があなたに敵意を持っていたら、いいニュースはあなたに届きません。だから、「パスをもらえる人」になることが大事です。

冒頭の質問の二つ目:「2. 自分の長所をわかっている(Y/N)」
自分の長所を知ることは難しいです。ましてや他人の長所はわかりづらい。多様性を考えることを通じて、他人のいいところも自分の将来の選択肢も増やすことができる、そんな話をしました。

スライド56

もうひとつのまとめ

一日目の最後に、二人の女性の発言を引用しました。これは本当に蛇足かもしれません。

You’re what you settle for.
You’ll end up anything want to be.
あなたは あなたが妥協したものになる
結局は あなたがなりたいものになる

Janis Joplin/ジャニス・ジョプリン

この言葉と共にYOASOBIの幾田りらさんの短い動画を最後に紹介しました。今は押しも押されもせぬ評価を獲得している幾田さんですが、実はもうだめだと思ったことが何度もあったそうです。やめてしまおうと思ったとき、涙が止まらなくて、続けたいという気持ちの強さを自覚したそうです。


明日はウィキペディアの話をしますよ、と言ってこの日の授業は終わりました。上記の内容を50分に収めた第一日目でした。

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