【ウィキペディア】2024/10/3~4 神田女学園中学校高等学校での授業 2Days その2 ウィキペディアワークショップ編
二日目はウィキペディアの説明と編集ワークショップを行いました。
ワークショップの前に、ウィキペディアについて15分ほどの講義を行いました。詳細は省略しますが、ウィキペディアの概要、利用方法、公開されているアクセスデータに関するクイズ、運営体制やライセンスについて、基本的な事柄を簡潔に説明しました。
このレポートでは、教育機関でのワークショップにおいて、私が心がけている点についてお話しします。
このnoteをお読みいただいている方の中には、教育関係者でウィキペディアを授業やワークショップに取り入れることを検討している方もいらっしゃるかと思います。その際、少しでも参考になればと思い、細かい注意点とその理由をここに記しておきます。
二日目
前提としての注意点
教育機関でウィキペディアの編集ワークショップを行う際、講師として気にしている点があります。ウィキペディアは誰でも編集ができますが、適切でない編集、例えばいたずら編集なども可能です。学生・生徒が万が一不適切な編集を行い、版の不可視化が必要な事態に陥った場合、管理者権限を持つユーザーに対処してもらうことになり、手を煩わせることになります。いたずらでなくても、著作権侵害(またはその疑い)が発生した場合、講師は迅速に可能な範囲で適切な対処を行う必要があります。
さて、教育機関で利用されるネット環境は、多くの場合、プロバイダから特定の帯域が割り当てられています。この帯域からの不適切な編集が続いた結果、帯域全体がブロックされてしまう例は、実は少なくありません。
上記のログでは、
「2011年9月29日から現在に至るまで、工学院大学が運用しているとされるネットワークからは、アカウント作成はできず、アカウントを持たないユーザーは編集ができない制限がかけられている」
と示されています。
下記の投稿記録からは何度かのいたずら編集が確認できます。
このように、ウィキペディアでは編集記録が履歴に残るため、ある教育機関から不適切な編集が行われた場合、そのログが長期間残ってしまうことがあります。ログは目立つものではないものの、名誉なこととは言えません。
そのため、参加者が著作権に関する理解が十分でないと考えられる場合(少なくとも著作権侵害を避けるという意識や概念がまだ理解できていない段階の参加者がいる場合)、直接ウィキペディアを編集させないという選択肢は有効だと思います。
ウィキペディアは知識の集積の場であり、編集内容はすべて公開されます。自分で削除することはできず、現在版から除去はできても、過去版には記録が残ります。ウィキペディア編集イベントでの未熟な編集や不適切な編集を良しとしないユーザーも存在し、実際に編集結果やイベント運営に対する批判を受けることもあります。また、「アウトリーチ活動」と呼ばれるウィキペディア編集イベントは、全てのウィキペディアンに理解されているとは言い難い状況です。
以上の理由から、イベントが開催される学校や主催者側に迷惑が掛からないよう、不適切な編集ログがそのネットワークから残らないように、講師が注意を払うことが重要です。
イベントに関するさまざまな記録が残ることで、後に「こういうやり方をしているから、この方法も許容されるだろう」と誤ったメッセージが伝わる可能性があります。したがって、主催者側に迷惑がかかりにくい形を提案し、講師が場を適切にコントロールすることが大切です。
ワークシート
前述の理由も含め、今回はワークシートを使ったワークショップを行う選択をしました。
生徒たちは直接ウィキペディアの編集をせず、記入された結果を確認後、講師によってウィキペディアに反映するやり方です。
実際に使用したワークシートはエクセルで作成した簡素なものです。
課題の作り方
ワークシートには「カトリック神田教会」の記事の一部
という課題が記載されています。
つまり、「書きっぱなしの状態のこの記述の信頼度を上げるために、出典となるような情報源を探し、ワークシートに記して下さい」というミッションです。
出典に必要な要素(書籍)
著者(編者)、タイトル、出版社、発行年月日(西暦)、ページ番号、ISBN
出典に必要な要素(Web)
URL
デモ編集として、学校のイベントで勉強している対象となった『フローレンス・ナイチンゲール』を題材にしました。
記事には 「クリミアの天使」と書いてあるものの出典がないので、出典となりうる情報源を文献とWebからひとつずつ採用し、実際にその場でウィキペディアの記事に追加する編集をするところを見てもらいました。
フローレンス・ナイチンゲール 「クリミアの天使」[1][2]
1.^ 金井 一薫『よみがえる天才9 ナイチンゲール』筑摩書房、2023年7月10日、15頁。ISBN978-4480684554。
2.^ “ナイチンゲール8つの素顔”. 2024年10月3日閲覧。
このように出典を追加することにより、
ナイチンゲールが「クリミアの天使」と呼ばれていたことが単に書きっぱなしになっていた状態から、「クリミアの天使」と呼ばれていたことが(本当かどうかはわからないが)書かれている信頼できそうな文献とWebサイト採用し、典拠として記述に紐づけることにより、情報としての信頼性が上がった
ということを強調し、生徒たちの理解を促しました。
この部分が前日のスライド39につながるわけです。
出典として採用した情報源は、誰かの知識として共有できるくらい信頼できるものでしたか?と質問することにより、金井一薫氏の書籍とナイチンゲール看護研究所のWebサイトという情報源の信頼性について、精査する機会を得るわけです。
ここで、前日の講義とつながります。
「道に落ちていたパン」「知らない誰かがくれたパン」
「 誰が言ったかわからない情報」「どこかで拾ってきた情報」 これらを信頼できる情報にするために出典を付けていきましょう、というわけです。
さらに、ひとつの出典だけだと多角的ではなく、〇や□や△だと見誤るかもしれないので、出典を複数つけることでもっと客観的事実として信頼性を向上できるというわけです。
課題作成
生徒たちは2人1組になってもらい、図書館にある文献から出典を探すパターンと、Webから出典を探すパターンの2つの課題をこなしてもらいました。課題が身近なもののほうが取り組みやすいと考え、神田女学園や神田猿楽町関連のネタを揃えました。
ただ、司書の先生は「課題を作るのがちょっと難しい。慣れればできてしまうのだろうけど」と感想を漏らしていました。
課題を作る手順として
ウィキペディア内の全文検索で「神田猿楽町」「神田女学園」を調べる
グーグルで神田猿楽町や神田女学園関連を調べる
グーグルマップで周辺の史跡などを調べる
それらの結果からウィキペディアに記事があるかどうかを確認しました。例えば、岩波茂雄が神田女学園の前身である神田高等女学校に奉職していたことや、北斗晶がプロレスラーになる前に神田女学園の生徒だったことなどがわかり、課題を作成していきました。
上記のような手順で、慣れれば比較的容易に課題を作ることができます。
多めに課題を作っておき、図書館にある書籍で出典となるものを探すという順番もあれば、図書館にある書籍から「この対象はウィキペディアに記事がありそうだから、出典が付けられるかもしれない」という順番でも課題作成は可能です。
ラッコメソッド
余談になりますが「ラッコメソッド(仮)」というオンライン上で完結するワークショップをいくつか行ってきた経験があります。
上記リンクは、仮に東京大学が舞台の場合、このように5つくらいの課題を作り、Googleフォームに記入してもらうことで、遠隔ワークショップができるというものです。
この形式を何回かやることで、ウィキペディアンが講師で行かなくても、学校側でワークショップを行える経験を積むことができます。
信頼できる情報源
上記スライドでは、便宜上ブログなどはダメと書いています。
OKな場合もありますが、学校図書館で行うイベントなので最優先は図書館にある書籍が良いでしょう。生徒たちは各自ノートPCを所有しており、Webサイトから出典を探すことも行ってもらったので、このような書き方にしました。
成果(編集差分)
以下が今回の成果です。
ワークシートを回収して、その場で私がチェックを行い、出典を付ける編集を行いました。
一番最初に岩波茂雄の出典がつきました。長野県の農家に生まれたという記述の情報の信頼性が上がったのです。生徒からは編集が反映されると自然発生的に拍手が起きました。
後日、生徒さんたちからの感想アンケートが届く予定です。
担当の先生が「あっという間の授業でした」とおっしゃってくださいました。
生徒さんたちも楽しく夢中で取り組んでくれたのではないかと思います。
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