番外編⑦:量子コンピュータについて調べてみた
最近、量子コンピュータ(の関連技術?)が材料開発に有益な効果をもたらしたという、下記の記事を拝見しました。
自分は材料開発には興味がありますが、量子コンピュータについて、ほぼ何も知らないというのが正直な現状です。そこで、材料開発にも使われていそうな「量子コンピュータ」について、ちょっと調べてnoteにメモすることにしました。
量子コンピュータとは
まずは「古典コンピュータ」の仕組みを理解する
「量子コンピュータ」とは、量子力学の原理を計算に応用したコンピュータのこと。量子コンピュータとは何か?を考えるときには、まず従来のコンピュータ(古典コンピュータ)について考えてみるのがよい。
古典コンピュータでは、情報の基本単位を「ビット」(bit=binary unitの略)とし、それぞれを「0」か「1」の状態を取ることによって、2進数で数を保持し、演算を行う。
この数は、0または1のどちらかの状態を表すことができるが、2つ以上の状態を同時に表すことができない。
「量子コンピュータ」の原理を単純化して理解する
量子コンピュータでは、状態の「重ね合わせ」という量子力学的な基本性質を用いる。「重ね合わせ」とは、2つまたはそれ以上の状態を同時に表すことができるということ。
このような重ね合わせによる量子コンピュータの情報単位のことを「量子ビット」(quantum bit=キュービット:qubit)と呼ぶ。
「重ね合わせ」ができると何が良いのか?
重ねわせができると並列処理が可能になり、特定分野での計算が効率よくできる。そしてこの特定分野の中に、材料開発における条件最適化なども含まれる。
量子コンピュータの2つの方式
量子コンピュータは、ゲート方式とアニーリング方式の2つに大別される。
一つ目は「量子回路方式」(ゲート方式)と呼ばれるもので、どちらかといえば古典コンピュータに近い。暗号解読に使われるととんでもないことになる、と言われているのがこちらの方式で、複数の状態を重ね合わせする「量子ビット」もこのタイプで利用される。しかし、研究が進みながらも、まだ実用レベルまで達していないのが現状(実用化は数十年先といわれている)。
二つ目は「量子アニーリング方式」と呼ばれるもので、カナダのD-Wave社が2010年ごろ世界で初めて実装した「自然の法則を活用して最小エネルギー状態を探索する」という量子計算機。量子アニーリングでは最適な組み合わせを探す「試行」の回数を、量子重ね合わせの原理によって圧倒的に増やせるため、組み合わせ最適化問題に適している。また、実用化が見える段階まできており、世界中の研究機関や企業が開発にしのぎを削っている。材料開発で活用例が紹介されているのも、こちらの方式による組み合わせ最適化問題が多そう。
組み合わせ最適化問題とは
組合せ最適化問題とは、膨大な選択肢からベストな選択肢を選び出す問題のこと。組合せ最適化問題は、選択肢の数が多くなると組合せの数が増加し、ベストな選択肢を得ることが難しくなる。
例えば、あるAという材料を開発しようとした時、その原料がXX種類、配合方法XX種類、加工条件XX種類・・・となってくると、その組み合わせの数は膨大でる。
こういった場合に、近似解法の活用では計算速度および解の精度に限界が来ると予想されており、量子アニーリングが期待されている。
量子コンピュータ×材料開発の事例
自分がニュース記事などで拝見した「量子コンピュータを材料開発に活用した(する)」という事例をいくつか紹介します。
世界初次世代コンピューティングにより固体表面への分子吸着予測に成功
量子インスパイアード技術「デジタルアニーラ(富士通)」を用いて、固体表面への分子吸着の予測に成功
組合せ爆発を起こさずに、分子の吸着配位を高速に探索する新手法を開発
分子配置の組合せが多い複合材料などにおいて、正確かつ高速に最適な配置を予測することが可能になった
高分子固体電解質をAIによる機械学習で自動設計する新たな手法を開発
全固体二次電池で用いられる高分子固体電解質をAIによる機械学習で自動設計する新たな手法を開発
本手法の開発には、機械学習手法の工夫に加え、膨大な候補群の中から最適な分子設計を高速抽出するために量子インスパイアード技術「デジタルアニーラ(富士通)」を活用した
本手法により、データ科学を活用した機能性材料の探索研究の効率化が見込まれる
量子コンピュータを活用した材料開発・評価手法に関する共同研究を開始
凸版印刷と国立大学法人大阪大学量子情報・量子生命研究センターは、量子コンピュータを活用した材料開発・評価手法に関する共同研究を、2023年3月より開始
材料や製造プロセスの課題に対して、量子コンピュータを活用した材料の物性値予測や様々な化学反応の解析シミュレーションの演算を行い、量子化学計算アルゴリズムの開発と実証を行う
量子コンピュータ実機を用いた有機EL発光材料の励起状態計算に成功
量子コンピュータ実機を用いた実用材料の励起状態計算に世界で初めて成功
本成果はNature Research出版社「npj Computational Materials」に掲載
疑似量子の活用で従来のMIによる材料開発期間をさらに20%短縮できることを実証
疑似量子コンピュータ技術を適用した機械学習により性能予測をさらに高精度化することに成功
日立製作所が積水化学と進めているマテリアルズ・インフォマティクス(MI)推進に向けた協創活動において、有効性を実証
以上です。
今回ざっと調べてみて「具体的な技術のイメージ」まではわかりませんでしたが、「量子コンピュータの概要」と「量子コンピュータ技術は、材料開発分野でも有効活用されていきそう」ということがわかりました。