僕と彼女を繋ぐもの《2》
夏休みが開けてから一週間がたった。
いまだに、あのときの感覚を忘れられない。
ちなみにこの前の写真は現像してもらった後、写真の出来に我ながら感心してしまい、
自分の部屋にあるこれまで撮った写真を貼っているコルクボードに同じように貼った。
見るのは僕だけだし、彼女の言っていたことは守れるだろう。
きっとあんな体験はもう二度と出来ない。
だけど、できることならもう一度、彼女を撮りたい。
この気持ちは一体何なのだろう。
「…ろ、…ヒロ!」
「っ、ごめんなさい!」
自分に向けられた大きな声に驚き、肩がビクッと震え、硬直する。
「は?おまえなに謝ってんの?何かやましい事でも考えてたのかな~?」
いつもの午前授業が終わった後、
突然友人の高藤裕也に声をかけられ、
なぜか謝ってしまった…。
「なわけないだろ!」
いや…これもやましい事を考えていることになるのか…?
「まあいいから、ヒロ、早く食堂行こうぜ」
裕也はさっきの事はもう忘れて、食堂へ行って何を食べるかということしか考えていないようだった。
その証拠に、そう言ってすぐ教室を出て食堂の方へと向かっていく。
やっぱり僕の返事を聞く気はないようだった。
相変わらずマイペースで短絡的な奴だ。
裕也とは保育園からの幼馴染で、僕とは対象的な性格をしている。僕とは違う部分に助けられてきたこともあるが、高校生にもなって落ち着きがないのはどうかと思っている。
そんな友人を見失わないように、急いで廊下を出た。
食堂は、相変わらず人であふれている。
なので早く行かないと席が埋まって座れなくなってしまう。
僕は裕也の後に続いて、食券機で食券を買う。この学校の食堂は値段によって買える食べ物が決まっている。
食べたい昼食の値段の食券を買い、
トレーをとってカウンターに並び、
食券を食堂のおばちゃんに手渡す。
「Aセットでお願いします」
食堂の列の流れは速く、何を食べるか考える間もない。
僕は短い時間で考え抜いた結果、
いつも食べている定番のセットを頼んだ。
もう少し考える時間があったら、
まだ食べたことのないメニューを頼めるのかと考えるのと同時に、どうせAセットしか頼まないんだろうなとも思ってしまう。
僕がそんなことをぼんやりと思っている間にも、カウンターの向こうのおばちゃんは
すばやく甘辛ダレ唐揚げとキャベツの千切り、プチトマトが乗った皿と白米、味噌汁を手渡してくる。
「ヒロはいつも同じセットしか頼まないよな~オレは今日のスペシャルセット、麻婆カレーだぜ」
とやけに自慢げに裕也が言ってくる。
「それ…美味しいのか?」
裕也の持っているトレーを覗いてみると、白米の上に麻婆豆腐とカレーがかけられたものがひとつの皿の上にのっていた。
絶対美味しいって!とうるさく言ってくる裕也の言葉を聞き流し、僕は空いている席を探す。辺りを見回すと、食堂の窓際の長机に生徒二人が丁度席を立つ姿があった。
「裕也、席見つけた」
向かい側には女子二人が座っているが、他に空いている席がないのでしょうがないか、と思いその席に向かう。
「すみません、ここ座ってもいいですか」
制服のリボンからして同じ学年か。
でも、見かけない顔だから僕の近くのクラスではないことだけは分かった。
「あ、はい。どうぞ」
と、二人がこっちを見る。
瞬間、僕はこれ以上ない驚きと、嬉しさでいっぱいになった。
後方に座っていた女子は、先週、
思わず僕が写真を撮ってしまった
「彼女」だった。
奇跡だ。