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僕と彼女を繋ぐもの《1》

幼いころから、父親の影響で写真が好きだった。
一枚の額縁の中に、どこまでも果てしない風景が広がっている。
一度シャッターを切れば、二度として同じ風景は撮ることが出来ない。
僕にしか撮れない写真を撮りたくて、
いつも暇があれば、また、暇がなくても暇を作って写真を撮りに出かけていた。
高校生二年生の夏休みが、そろそろ終わろうとしている。
課題はまだ終わっていないけど、今日は写真を撮りたい気分の日だ。
というか、ほとんど毎日がそうだけど。
そんなわけで、僕は都心から郊外にある公園で写真を撮ろうと駅に向かっている途中だった。
駅前は休日ということもあって人が多く、首にかけたカメラを人にぶつからないように手で多い囲むようにして歩いている。
 ふと、周りを見る。
空が眩しすぎるせいなのか、
良いことがないからなのか、
大勢の人が下を向いて歩いていた。
そんな中、一人だけ、眩しくキラキラと輝く空を見ながら歩く彼女に、気がついてしまった。
見とれてしまった。
僕の国語力では上手に言い表せないけれど、
なぜかどうしようもなく彼女に惹かれた。
体中に稲妻が走ったような感覚に包まれる。
瞬間、僕はカメラを構えていた。
覗いたレンズの向こう側から、
真っ直ぐと彼女を捉える。
突然、
彼女を後から突き抜けるようにして風が吹く。
そして、彼女はレンズを構える僕に気がつく。
今だ、僕はシャッターを切る。
「……」
「……」
高揚した気分のまま、カメラを下げ、彼女を見据える。
とたんに僕は、ハッと我にかえる。
…しまった、やってしまった。
これじゃあまるっきり変質者だ。
彼女がゆっくりと僕のほうに近づいてくる。「ご、ごめんなさい」
僕は慌ててカメラを操作し、
さっき撮った写真を消そうとした。
「まって」
いつの間にか彼女は僕の目の前に来ていて、
カメラの消去ボタンを押そうとする僕の手を止めていた。
彼女は近くで見てもとても綺麗で輝いていた。自分の心を掴まれるという感覚を、僕はこの時初めて覚えた。
「さっき撮った写真、見せてもらってもいいですか?」
「あ、あぁ、どうぞ…」
カメラを受け取った彼女は、ディスプレイに映る自分の姿をじっとみつめる。
僕が撮った写真を、父に見てもらうことはあっても、他人に見てもらうことはこれが初めてだったのでとても緊張する。
しかも撮った本人にだし、いきなりで許可もなく撮ってしまったわけだし…
心臓がばくばくだ。
彼女はしばらくして顔を上げ、にっこりとあどけない笑みを見せる。
「この写真、とってもよく撮れてる。まるで私じゃないみたい!綺麗に撮ってくれてありがとう」
よかったら、その写真、消さずに持っていて。
消しちゃうのは勿体ないから。
彼女はそういって僕にカメラを返してくれた。
「それじゃあ、私急いでるから」
そう言い残して消え入るように駅のほうへと歩いていく彼女の後ろ姿を、僕はただみつめることしかできなかった。
そのあとはほぼ放心状態で、行くはずだった公園に行く気力もなく家に帰った。
自室に駆け込み、ベットに倒れこむ。
しばらくしてからいろんな思いが頭の中いっぱいによぎる。
褒められてとても嬉しかったこと。
許可もなしに撮ってしまった僕を、彼女は何も咎めなかったこと。
彼女の名前、年齢…
いや、それをあの場で聞いていたらただのナンパ野郎だ。
とりあえず僕は彼女の写真を現像してもらおうと、近所の写真屋に走った。


#小説 #シリーズ #僕と彼女を繋ぐもの

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