【断髪小説】屈辱の刈り上げおかっぱ
街中で声をかけられてカットモデルの誘いを受けた。毛先を切って整えるところを撮影させてほしいというのでついていくと、近くの美容室に通された。
遅れて到着したカリスマ男性美容師のような人が見える。きっとあの人が私の髪を切ってくれるのだろう。しかしその美容師はイライラしているのか態度にも表れていた。今日のモデルさんはどこかと尋ねると、私をスカウトしたアシスタントとみられる男性が私を差し出す。
「今日のモデルさんがドタキャンされて急遽スカウトしてきました。黒髪ストレートロングヘアでカットモデルに向いているかと思いまして」
カリスマ美容師は私を頭から爪先まで舐め回すように見ると、
「え、君さ、本気で言ってるの?こんな芋っぽい子。どうみてもモデルに不向きでしょ」
確かに私は顔も可愛くないし小柄のちんちくりんだ。髪は人一倍綺麗なはずだが、見栄えもそりゃあ大事だよな、と内心ショックを受けていると突然、
「あのさ、バッサリおかっぱにしていい?(笑)」
とカリスマ美容師がニヤニヤしながら提案してきた。
アシスタントが断ってくれるだろうと期待して見ると、信じられないことに目を伏せて黙っている。
「え、でも先ほど毛先だけ切るというお話を伺っていたのですが…」
「君さ、自分の価値わきまえな?俺が切りたいって言ったら切るの。もう切るしかないの。はい、おかっぱ決定ね。刈り上げおかっぱ!(笑)」
「おかっぱ、いいですね。やっちゃいましょう!」
私の抵抗を遮るようにして、カリスマ美容師は偉そうに言い張り、アシスタントまでも逆らえないらしく賛同してしまっている。
どうやら私はこれから思いがけず、刈り上げおかっぱにされてしまうようだ。
目の前で起きていることが理解できず、あたふたしているうちに、何やらカット椅子に座らされて首にタオル、ケープ、ネックシャッターを巻きつけられる。
撮影が始まると、カリスマ美容師はいきなり私の肩上でバッサリと鋏を閉じた。わかってはいたが、一気に40cmくらいの髪を切られてショックでいっぱいだった。やっとのことで荒切りが済むと、刈り上げが始まる。初めてのバリカンを入れられる時は流石に身構えてしまった。
何よりこの憎たらしいカリスマ美容師の手によって、刈り上げおかっぱにされているということが悔しくて、恥ずかしくてたまらなかった。すると自然と涙が込み上げてきて、溢れてしまった。手の出ないケープを着せられているので涙を拭けずにいると、カリスマ美容師がニヤニヤと私を見ながら「泣いても無駄だよ、もう後戻りできないからね」と耳元で囁く。その言葉に涙が余計に溢れてしまったところを、アシスタントがパシャパシャと写真に収める。
カットが終わり、見事なまでの刈り上げおかっぱになった私の髪型を何度も写真に収め、撮影は終了した。関係者から謝罪や労いの言葉がなかったことが不思議でならないほど、屈辱の仕打ちをされたが、もうカットモデルはしないと心に誓うのであった。
しかし、嫌々と泣きながらバッサリと髪を切られることに快感を覚えてしまったのも事実だ。今回を機に何か新しい世界の扉を叩いた気がする。この髪が伸びたら、また無理やり短くされちゃいたい、なんて思う私であった。