【断髪小説】断髪フェチになったきっかけ

昔から母は髪型に厳しく、娘である私の髪を短くしたがった。私は長いのを好んでいたため、何かにつけて「言うこと聞かないならおかっぱにするよ!」と脅し文句のように、おかっぱというワードを使ってきた。それは私がおしゃれに敏感な中学生になっても続いた。おしゃれに気を使う私をよく思わない母はある日、こんな条件を持ち掛けてきた。朝の支度に10分以上かけたら、おかっぱに切る。時間がかかるのは髪が長いせいだと言いたいのだろう。
次の日、私はあろうことか寝坊してしまった。大変だ。急いで母にバレないよう支度をしようとしたが、遅かった。
「昨日遅くまで髪を乾かしていたから寝るのが遅くなって起きれなかったんでしょ」
「違うよ、今日はたまたま…」
私の言葉を遮って母はおもむろに携帯を取り出す。
「えっと、美容室の電話番号って何かしら」
「え、なんで?」
「今日の放課後、おかっぱにしに行くよ」
「やだ!おかっぱなんて嫌!ごめんなさい!!」
母は笑う。
「謝っても無駄よ。ほら、遅刻するわよ!」
おかっぱなんて絶対ヤダ。そう思いながら1日を過ごしたが、生きた心地がしなかった。
トボトボと仕方なく家に帰ると、母に話しかけられる。
「ねぇあのさ、今日行きつけの美容室が空いてなかったの。だから…」
嫌な予感がした。背筋に冷たい汗が流れる。
「だから、床屋で切りましょうね」
うわっ最悪、女子中学生が床屋でおかっぱにするなんてあり得ない。いつの時代の話だよ。
と内心思ったが反抗したらもっとひどい髪型にさせられそうだったので我慢した。
床屋には当たり前のように母が同伴し、髪型の注文も母がする。
「うちの子の髪の毛、バッサリ切ってください」
「えっと…バッサリってどれくらいですか?」
「後ろ刈り上げて見えるように耳の半分くらいの高さでおかっぱにして頂きたいです」
「…かしこまりました」
店員の男性は少々戸惑った様子で母の勝手な要望を聞き入れた。
おずおずと椅子に座ると、首にタオル、ケープ、ネックシャッターをきつめに巻かれ、もう逃げられなくなってしまう。男性理容師が気のせいかニヤニヤしながら
「バッサリ切っちゃっていいんだよね。お母さんにお願いされたから切っちゃうね。刈り上げおかっぱにするよ」
と高らかに宣言し、いよいよ断髪が始まる。
まず肩上でバサバサと一直線に切り、長めのおかっぱみたいにされる。サクサクと心地よい音を立てて進む鋏とは裏腹に、私の鼓動はドキドキと高鳴っていた。
(お願い、せめてその長さで整えて…!)
しかし勿論カットはまだまだ続く。むしろこれからがお待ちかね、悪夢の刈り上げだ。
次に男性理容師は後頭部の髪を残してダッカールで髪を留めた。そして、短くなった髪をさらに地肌に沿うようにシャキシャキと丁寧に刈り上げていく。感触からするにおそらく耳の上のかなり高いところまで刈り上げられてしまっていると思われる。
男性理容師が一旦鋏を置いたので終わりかと思って一呼吸ついていると、何やら楽しそうにいそいそと戻ってきたその手に握られていたのは黒光りの重厚な機械。そう、バリカンだ。
(え、アレでさらに刈り上げられちゃうの?やだ、バリカンされるなんて恥ずかしいよ…)
カチッ、ヴィ〜ンヴィ〜ンヴィ〜ン!!
けたたましい音とともに自分の髪にバリカンを当てられている姿を鏡で確認し、恥ずかしさのあまり顔を赤らめ目を伏せる。ふと鏡に目をやると母が恍惚として満足そうにこちらを眺めている。そればかりか待合席にいる他の男性客にも女の子の刈り上げ姿とばかりにもの珍しそうにじろじろ見られ、私はなんとも言い難いむず痒い気持ちにさせられた。
バリカンでの刈り上げが終わると、ダッカールで押さえていた髪を下ろされる。
(今度こそ終わりかな…?意外と長めで良かった!ボブみたいで可愛いかも)
しかしそれはぬか喜びに過ぎなかった。男性理容師は再び鋏を手にすると、耳の半分くらいの高さでザクザクと真横に切り始めたのである。これでは刈り上げが完全に見えてしまう。
「やっぱり、おかっぱはこうでなくっちゃね」
と、言い聞かせるようにして男性理容師は切り進めていく。私はショックで仕方なかった。後戻りできない長さで切られてしまい、もはや抵抗する気力もない。
最後に前髪を眉上でパッツンに切られてしまった。もう、ここまでされたらうんとダサくしてもらおうと思ったまでもある。
カットが終わり、母が会計を済ませ、店を出た。
「刈り上げおかっぱ、似合ってるわよ」
「は、どこが?全然似合ってないし」
私は不貞腐れた態度で帰宅した。
しかしこの、嫌々ながら強制的にバッサリと髪を短く切られるという状況に、終始身体の奥底が疼いていたのは誰にも言えない秘密だ。まさに、断髪フェチ街道まっしぐらである。

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