相続税が無い国が、不動産を買うと何が起こるのか?
お詫びと訂正
中国には相続税がないから日本の不動産が買われる!みたいな話、調べると「日本国内の不動産は日本の法律に従う」そうですので、バッチリかかるとのこと。単純にデマだということと同時に、これもしかして中国の人知らないんじゃ……。https://t.co/n0zgu8fv5g
— 太刀川るい (@R_Tachigawa) January 12, 2025
こんな話を書き込んだら、色々と反響があったんですが、このツイート実は結構間違っていたので訂正させて下さい。
まずツイートにあるように「中国国籍でも日本国内の不動産を持っている場合は相続税がかかる」こと自体は正しいです。
しかしなんと「法人を挟んでそれを所有する形にすると相続税はかからない」というのも正しいのです。
上記は、チェスターさんという税理士集団の記事で、税理士監修ですから、かなり信用度が高いと思います。
これは、かなり驚きです。何しろ相続税はバカ高い。同じ国内に、相続税を払う集団と払わない集団が存在した場合、払わない集団が有利になるのは目に見えています。なぜこんな状況が存在するのか?私も悩みました。
そして、色々と資料を集めて調べて、3日ほど経ってようやく自分の中で結論が出ました。
なんと驚くべきことですが、「法人を介して相続税を払わない集団が存在しても、社会全体で見れば特に問題は起こらない」「再配分の面で一部不利になる面があると考えられるが、別の要因が大きすぎてなんとも言えない」「相続税などの仕組みは再配分を行っており、社会全体の力で考えると、むしろ、有利なのは我々のほうかもしれない」んです。
そんなバカな!こんな不公平な状態があってどうしてそう言えるんだ?そう思われるのもごもっともです。私も自分で言っておきながら、少し信じきれていない部分がありまして、その検証の意味でも、これから一つずつ解説していくので、少々お付き合いください。
右も左もデマだらけ
まあ、私も間違ったこと書いてしまったので、反省なんですが、中国周りとか外国資本の話になると、とにかくデマが多い。右も左も、よく分かっていないのに適当なこと抜かすもんだから、何が本当なのか調べるだけでも一苦労です。いちいち調べてんだぞこっちは!(逆ギレ)
私のところにも大量にリプライが押し寄せましたが、そもそもの税金の仕組みが分かってなかったり、政治家が裏で暗躍している!という陰謀論や、ひどいのになると、「土地が買われるとそこが外国になる!」という、お前は何世紀の世界で生きているんだよ!!と突っ込みたくなるようなものが混じってたりするから大変です。
今回は「自民党が外国資本に売ろうとしているんだ!」みたいな、自民党アレルギーと排外主義を両方一緒に発症している人が結構いるのが興味深かったですね。今はこういう層もどうやら拡大している様子。
主張:自治区を作るのでは?
土地を買って自治区を作るに違いない!みたいな人もいたんですけど、これはマジで何を言っているのかわからない。自治区も何も、日本国内ですから当然日本の法律が及びますし、大体日本国籍持っていないと、日本の選挙権がありません。
北海道の村の土地を買い取って大量に移住しても条例一つ作れないという切ない状況になってしまいます。しかも、その上にきっちり住民税は払うことになるという……。
中華街みたいなコミュニティを作るという意味なら、普通に横浜とかにもあるんですけど、あそこを自治区と呼んでいる人がいるかというと怪しい。ただ単に不安を煽りたいだけのように思えます。
主張:乱開発されるのでは?
土地の汚染など、海外資本による無茶な開発は諸外国でも問題になっています。鉱山で掘れるだけ掘って有害物質を放置して撤退とかですね。なので、それが日本でも起こるのかという懸念は正当だと思うんですけど、環境汚染や不法投棄に関しては、外国資本かどうかにかかわらず発生する問題です。
日本にはそれを防ぐための法律がありまして、これが非常に厳しい。日本人ですら散々苦労しているわけですから。
なお、「日本の法律を守らなければどうするんだ!」みたいなことを言う人もいますが、法律にはその時のためにちゃんとペナルティが用意されていますし、最悪刑事告訴になれば、懲役刑を食らう可能性もあります。
カルロス・ゴーン氏のように、それまでに海外に逃げる。という手もありますが、日本国内の財産は没収されるわけで、投資していれば投資するほど不利になることでしょう。これは見る視点を変えれば、セルフ国外追放でもあります。
主張:税金を払わないのに違いない!
これは本当に多かったんですが、確かに相続税に関しては税金を払っていないとみなすこともできるんですけど、固定資産税に関しては払わないで逃げるのは非常に難しい。
なぜなら、不動産はポケットに入れて持ち出すことも、隠すこともできないからです。税金を払わない場合は、差し押さえになり、強制的に没収されます。
そもそも、固定資産税は土地や建物といった不動産を持っている人に対して毎年かかる税金です。毎年、持ち主のところに期日までに払えという連絡が来ます。「持ち主と連絡が取れなければどうなるんだ?」みたいなことを言う人もいたんですけど、実はその場合、裁判所の掲示板に貼る等の手段で「連絡を取った」扱いになり、強制的に競売にかけられます。
たとえ税金の滞納が数万だったとしても、数千万の土地が叩き売られてしまうわけですから、圧倒的に損をするわけですね。
我々から見れば、外国人からカツアゲして金をむしり取ったようなもので、なんか悪い気もしますが、まあ、それは連絡を無視するのが悪いということで。世の中厳しいんだぞ!
なお、滞納の時間が長くなると、年14.8%というすごい利率で納付額が増えていくので、むしろ早めに差し押さえて貰ったほうが温情かもしれません。税金の滞納は、自己破産しても消えませんし、時効も現実的に存在しませんので。
かつて日本がアメリカの土地を買いまくった時、アメリカは冷静に見ていたのもこれがあったからなんだろうと思います。結局「どう転んでも税金を取れる。担保は眼の前に存在しているから」なんですよね。
「マンションの管理費を踏み倒している!」みたいなリプライを飛ばしてくる人もいるんですが、それは管理組合が簡易裁判所に訴えて差し押さえの手続きをしていただければ良いのでは。としか言えません。ただ単に組合が仕事していないだけかと。
相続税を払わないとは、一体どういう状況なのか?
さあ、本題です。まず、日本人でも外国人でも、最初に述べた通り個人で買った場合は相続税がかかります。もっとも、日本⇔中国の場合はお互いに「相手の法律に従うべし」になっているからそうなっているわけで、詳しく調べるとそうでない国もあるかもしれませんが、ちょっと今回見つけられませんでした。
で、この相続税はめっちゃ高い。6億円以上あれば、55%も徴収されます。控除額があるので、正確な金額とはちょっと違いますけど、単純に考えて10億の土地を持っていたら、半分以上取られることになります。これでは、世代交代ごとに土地が半分ずつに減っていくではありませんか!
ところが、ここで一つのテクがあります。それが、「法人を介して買う」ということです。例えば私が、「太刀川不動産」なんて会社を適当に作り、その会社が不動産を買うのです。そうすると、不動産は会社(法人)の持ち物になります。
より正確に言うなら、不動産資産を持っているのは、私ではなく会社です。会社の資産に手を付けるためには、株主総会での了承など、それなりの手続きが必要なのですが、会社の株を全部持っているので、問題ありません。
つまり、「資産を持っている会社を(株式を通じて)所有してる」という状態なんですね。
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注意してほしいのが、ここまでの話は、日本人でも外国人でも同じということです。日本人も外国人も、法人を作ってそこに不動産を所有させることは出来ます。
ははーん、なるほど。一旦法人を挟むことで土地を直接相続しないんだな……それで相続税を払わないに違いない。と思ったあなた。残念ながらそれでは回避できません。実は、「法人の株式を相続した場合、それに相続税がかかる」という問題があるんです。
例えば、太刀川不動産が10億の物件を持っていたとしましょう。そうすると、この会社の価値は10億とみなされます。(実際はもうちょっといろいろな事情を考慮して見積もるようです)つまり、私が死んで、子孫に相続が行われると、「10億円の有価証券を相続したのだから、55%払って頂戴ね」と税務署がやってくるわけです。逃げ場なし!
生前に株式を子孫に譲渡しても、これまた贈与税がかかります。
まあ調べたところ、子供を自分の会社の取締役にして給与の形で渡す(所得税が引かれるが、贈与税よりは低率)とか、いろいろと手はあるみたいなんですけど、お金持ちが知恵を絞ってあれやこれやをやっても、相続税から完全に逃げ切るのは難しいようで、怨嗟の声はネット上にも聞こえてきます。
ところが、ここで初めて違いが出ます。なんと、国外に住んでいる外国人の場合、相続した財産はその国の法律で相続されます。よって、相続税がない国ですと、そのまま株式を相続できるのです!
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おっと!!これは大丈夫なんでしょうか? ぱっと見ですが、かなり問題があるように思えます。海外の法人を挟むだけで、相続税という巨大な税を払わない方法が存在するなんて、これは問題ではないのでしょうか?
このまま世代交代が進むと、相続税のある世界では資産がどんどん減っていき、相続税の無い世界では資産が溜まっていく……つまり、資産が一方向に移動していくような現象が起こるように思えるのですが、大丈夫なのでしょうか?
ところがどっこい。よくよく考えてみると、驚くべきことに特に問題は起こらないのです。なんですと!?
法人単位で考えろ!
なぜなら、相続税のある世界では、最終的に以下のような状態に落ち着くからです。
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そう、法人が法人を所有するという形に遷移していくんですね。
考えてみてください、人間には寿命がありますが、法人にはそれがありません。
まあ、不死ではないのでよく死んでますし、人間の寿命より長続きする会社ってのもなかなかなかったりしますが、それはさておき、法人は一度所有した財産を相続税のリスクなしに保持しつづけることが出来ます。
相続税がある世界では、寿命のある人間の持つ資産は、相続税によって目減りします。つまり、寿命のない法人の方へ資産が移動していくと考えられます。
例えば、創業者一族が力を持っている会社があったとしても、世代交代を繰り返すうちに段々と影響力を失って、別の法人に所有される。という形になります。
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おいおい、それってどういうことだよ?法人が法人を持つって誰が意思決定しているんだ?となんだか変な気分になりますが、これは具体的には株式の持ち合いといった状態に相当すると考えられます。
いろんな企業が、少しずついろんな企業の株を持って、お互いに影響力を及ぼし合う。利害関係の塊と言いますか、ある種の有機体と言いますか、とにかく、網の目のように入り組んだ複雑な関係の中から取締役が決定され、意思決定が生まれていく……市場そのもののダイナミズムといいますか、経済そのものと言っても良いかもしれません。
こうなった場合、じゃあその企業の資産は一体誰が保有しているんだ!?というのも難しい話ですが、これは、市場そのものとか、この国全体がとかそういうことになるのかもしれません。(ここ、自分で書いておきながら自信がないです。どう考えるのが良いのでしょう?)
さて、上記の状態になった後、相続税のある世界の方に、資産は吸い寄せられるのでしょうか?答えは違いますよね。法人単位で見れば、両方とも相続税から解き放たれている。だって死なないわけですから。
つまり、一方向に流れる力は存在しません。よって、そんなに心配することはないでしょう。ああ、良かった。
でも、その法人を外国資本が買うこともできるんでしょ?
はい、その通り。まさにそうなんですが、日本の資本だって買うことができるんですよね。
つまり、法人として見る以上、外国法人と日本法人は完全にイーブンです。
しかし、上記の状態に遷移するまで……つまり、創業者一族が相続で株を手放すときがきて、それが外国資本に買われてしまったら……結局永遠に所有されることになってしまうのではないでしょうか?
それも大丈夫です。日本法人だって永遠に所有できます。やっぱりこの場合も両者は、完全に対等な立場なんですね。
しかし、相続税が発生しないと税収が減るのでは?
これは、私を悩ませました。確かに法人単位でみるなら、懸念していたような「富が海外勢に抑えられてしまう……」ようなことは起こりにくいと考えられます。
ただ、税収はどうなのでしょう?あのバカ高い相続税がなくなるのは我々にとって損失ではないんでしょうか?だったら、外国人に売るより、我々日本国籍を持っている人々が買った時になにか特典の一つぐらいでもつけるべきではないんでしょうか?税金安くできるよクーポン(一ヶ月有効)とかさぁ……。
最初、私はそう考えていましたが、一つ重要な視点を見逃していました。
それは、税金は富を生み出してはいない。ということなんです。そう、税金って別に生産活動を行っているわけでは無いんですよね。私達の富の総量があったとして、その全体量は税金をとっても変わりません。(※1)
税金、特に相続税が行っているのは富の移動、つまり再配分なんですね。
イメージとしては、定期的にヌカミソをかき混ぜるようなものでしょうか。なので、税収は減る……と言っても良いんですが、思い出してください。日本法人が土地を所有することになっても、同じように相続税からは解き放たれますよね。
つまり、別に外国法人だろうが、日本法人だろうが、起こっていることは同じということです。
※1 変わらないと書きましたが、実際の所は税金を取ることによって富の総量はちょっと変わると考えられます。例えば企業だったら、企業活動に使えるお金がちょっと減ります。代わりに公共事業につかって世の中に還元して、それが思いの外大きな経済効果を生み出したら、増えるとも言えます。ただし、税金を国債の返却に当てたりすると、世の中からお金が消える。つまり、不景気を招く……みたいな理論があり、極力税金は取るべきではない。税金は格差是正のため、富の偏在を修正するためだけのものなのだ。と考える人もいるようです。といっても、私はあまりここに詳しくないので語れませんが……(詳しい人いたら解説してください)
これって「より公平な世界」ってコト?
さて、ここまでの話を見てもらってなんとなく思った人もいると思うんですが、「相続税のない国の人」と「相続税のある我々」を比較した時、我々の方がより公平な社会であるのでは?という気がしてきます。
相続税のない国では、土地や資産を持てば、それを未来永劫子孫に伝えることが出来ます。まあ、子孫が増えれば世代ごとに取り分は減っていくとは思いますが、長子相続みたいなルールを作れば、封建制度における領主のように、安定して資産を抱える事ができます。となると、これは身分制度のようなものが発生してしまうことになります。たまたま生まれた家が良ければ、ボンクラでも一生安泰ですが、そうでない人間は一生かかっても逆転出来ないそんな世界です。
まあ、私達の社会も階層化が進みつつあるのでは?と言われると困りますが、それでも、完全に固定化されているわけではない。我々の社会では、ものすごいお金持ちがいても、強力な相続税が襲いかかってきますので、結局法人化するしかなく、法人化しても、その法人を子孫が所有し続けることはかなり苦労しないと出来ません。
代わりにどうなるかというと、別の資本に買われることで、ある意味社会全体に還元されていくわけですね。
これにはメリットもあります。例えば、その法人の株が市場にでていれば、私達でも買うことができます。三菱地所なんて、東京駅の近くのめちゃくちゃいい土地を沢山持っているわけですが、これは1株あたり2131円(2025/1/16の値)で私でも買うことが出来ます。
考えてみてください。あんな一等地を持つ会社の一部を所有できるわけですよ。これは凄いことです。封建領主様のいる世界では考えられません。
相続税を払わないで良い。という話を聞いた時、皆様は「ズルい!」ときっと思ったことでしょう。これは、公平にかかわる感情で、何もおかしなことではないとは思うんですよ。でも考えてみれば、そういった国の人達から見れば誰でも株式を通じて一等地を所有できる私達のほうがよっぽど羨ましいことのかもしれません。
このご時世に封建領主様のいる世界で生きていかなければならない国の人々のことを考えると、「それはよくないよね……」みたいなことを私も思うわけですが、こればかりはどうしようもない。
再配分を行わないのはその国の自由であり、私達の責任ではないのですから。
本当に問題はないの?
……と言われると、実はほんの少しだけ問題はあると思っています。それは、再配分が少しだけ不利になるということ。
というのも、私たちの社会では、今まで見てきたように富は法人に集約されていきます。そして、最終的に法人同士が株を持ち合う関係になって安定します。法人は株主総会で取締役を決定して経営を行うわけですけど、これがいろんな企業の関係で決まる。法人を人間に例えるなら、寄り合いで集まってお互いの経営方針を決めるようなものかもしれません。
で、これは公平性の面から見ると、有利に働くと考えられます。というのも、会社は儲けることに真剣なので、優秀な(ここでは金を稼ぐ能力がある)人間が指名される可能性が高くなりますし、市場に出ているなら、誰でもその会社の権利を買うことができるようになります。
つまり、会社が創業者の手を離れて、経済のシステムの中に組み込まれるのは、公平性の面から見ると良いことと言えるでしょう。
ところが、オーナー一族がずっと会社を保持し続けることができるのでしたら、この流れが発生しないことになります。だから、社会全体で見た公平性は微妙に減ると言うこともできるとは思います。
ただし……ただしですよ。前にも説明しましたが、法人同士で見れば条件は対等なので、外国に富が吸収されていくようなことは起こりません。
そして、対等な条件で戦った場合、オーナー一族の経営が有利に働くのかどうかと考えると、実は難しいかもしれません。
株主総会において、様々なステークホルダーの合意で決まる会社ですと、「よし!俺の愛人を取締役にするぞ!」なんてトチ狂ったことを初めると、ストップが入ります。なぜなら会社は儲けるのに真剣なので。遊びでやっているんじゃねぇんだ!
当然、優秀な(稼ぐ力のある)経営者が指名され、株主の利益のために粉骨砕身して働くわけです。
ところが、オーナー一族が権力を持っているとこうはなりません。つまり、マジモンのアホが血筋でトップに付いてしまった場合、あっというまに没落するということです。
生き馬の目を抜く猛者がひしめくビジネス界隈で、メチャクチャなことをやっていたら、当然、経営の悪化という対価を支払うことになります。周りをイエスマンで固めてしまえば、優秀な社員から転職で逃げていく。経営が傾いて倒産してしまえば、その資産はたちまち別の企業に食われて社会に還元されていくことでしょう。
オーナー企業には、意思決定が早い。ビジョンがブレない。などの利点もあるそうですが、やっぱり何世代も続いていくのはかなりの努力が必要のようです。賢い人なら、「経営が上手い人を外から連れてきて経営してもらう」方法で、社主みたいなポジションに収まって悠々自適になるのかもしれませんが、その人が裏切ったらおしまいですからね。
だから、こればかりは、結局やってみないとわかりません。相続税の無い世界で代々続くオーナー企業が勝利するのか、それとも相続税のある世界で、様々な企業が株を持ち合う企業連合体が勝つのか。だから、問題はあるにせよ、それが影響を及ぼすことはあるのか? と言われると私にはわからないということしか出来ません。
法人が株を持ち合ったら、社会は停滞しないのか?
「結局は法人に集約されていく」ということは、最終的にこの世の殆どは法人に所有され、封建社会のように人々は支配されてしまうのではないか?
そんな懸念をお持ちの方もいると思います。実際、利害関係者が多くなってくると、意思決定は複雑化し、組織が硬直化していくのはよくあることです。
しかしご安心ください。我々の社会には、いきの良い企業家によって、新しい企業が日夜誕生しているのです。その中には、あっという間に巨大企業に成長し、新しい業界を生み出したり、業界を再編していったりします。
日本でいうなら、ソフトバンクの孫社長、楽天の三木谷社長、DeNAの南場社長なんて存在でしょうか。海外ですと、Appleのスティーブ・ジョブズやテスラのイーロン・マスク。もう少し前の時代で良ければ、ホンダの本田宗一郎氏とか、ソニーの創業者である盛田氏、井深氏なども戦後会社を始めて大きく育てた人々ですよね。
こういう人たちが次々に生まれて、プレイヤーの企業は入れ替わり、社会に新陳代謝が生まれていくわけです。封建制的な社会では、彼らのような人間が世に出てくることは難しいことでしょう。極々一部の階級に生まれなければ、社会を改変することなんて出来ないわけです。そう考えると、やはり封建的な社会のデメリットは大きいですね。
さて株式の過半数を所持して、持ち前のセンスとカリスマでどんどん会社を大きくしていく創業者も、やがてこの世を去るときが来ます。ところが、子孫が二代目、三代目と継いでいくのはなかなか難しい。相続税がありますので、会社の株を相続しても、それを売らなければなりません。最近では、相続税を会社の株で収める。という方式もありまして、その場合持ち主は財務大臣になるそうですけど、とにかく段々と会社は創業者一族の手を離れ、様々な会社との株の持ち合いを通じて経済自体に組み込まれていく……そんな感じで世の中は回っていくのでしょう。
その理論は正しいのか?
例えば、ここにソフトバンクの大口株主の図があります。
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なんといっても、やはり孫社長の存在感。30%近くを個人で持っています。孫コーポレーションも、孫アセットマネージメントも孫社長の関係会社ですから、合計すると、31.74%です。
日本マスタートラスト、日本カストディというのは投資信託銀行です。私達が証券会社で買う投資信託とか、保険会社、面白いところでは国の年金なんかが預けられているそうですね。合計23.81%。
投資信託銀行は基本的に株主総会では意見を出さない……ことが多いそうですが、例えば以下の野村信託銀行さんなんかは「株主のためにならない取締役の専任には反対」みたいに、ある程度指針を持っているところもあるようです。
孫社長サイドの株と、投資信託銀行の株を合わせれば、50%を超えますので、投資信託銀行が「さすがにそれはちょっと……」ということさえしなければ、基本的に孫社長の意見は全て通ると考えてよいでしょう。
面白いのは、ノルウェー政府が0.99%持っていること。ノルウェー政府、そんなにソフトバンクに思い入れがあるのでしょうか?
まあ、それはともかく、比率的には孫社長が突然追放されたりなどは考えにくい比率になっています。これは経営が混乱しないという意味ではメリットでしょう。(孫社長が暴走した時に止められない可能性もありますが)
では、別の企業、ホンダを見てみましょう。
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創業者が亡くなってしばらく経つからか、創業者関係の株主は大口にはいないようですね。日本の信託銀行が23%ぐらい。あとは海外の投資銀行や、生命保険が非常に多いですね。ここにいる上位10名で43%ぐらい。
こういった人々で集まって、取締役などを決めるわけです。見た感じホンダは信託銀行を除けば5%以下の株主が沢山いるようですから、様々な会社の利害関係がぶつかって取締役が決まるのでしょう。といっても、生命保険会社が車やバイクのことに詳しいかというと(事故には詳しいと思いますがね!)流石に本職には負けるよな……なので、取締役会が出してきた「こんな人どうですかねぇ」みたいなリストを見て、「まあ、これなら任せられますか」と承認するような感じになるのだと思います。(これは私の想像なので、実際は違うかもしれません。有識者教えて!)
以上2つの会社を見てもらったわけですけど、やっぱり創業者が生きている会社とそうでない会社は全然違いますね。創業者の手を離れた会社は、いろんな法人の持ち物になります。その法人もいろんな利害関係者に所有されたり、お互いに株を持ち寄ったりしますので、誰が所有しているのかとかそうう情報は段々どうでもよくなってくる。言ってみれば、会社というのは最終的に人の手を離れて完成なのかもしれません。
より公平な世界に向けて何ができる?
今まで色々と書いてきて、相続税がある世界と、ない世界の違いが段々分かってきたと思います。
再分配のある世界では、定期的に格差が是正される方向に進みます。資産は法人のものになり、それは社会全体の持ち物になっていく。再分配のない世界では格差は開き続ける。
再分配のある世界に、格差がないとは言いません。でもそれは再分配のない世界より、穏やかなものになるでしょう。
しかし、ここで疑問が湧いてきます。格差の開き方が穏やかになるとはいえ、私達の社会にはやはり格差が存在して、しかもそれは統計上じわじわと増えているではないですか。
例えば、ジニ係数という値を見ると、実は今の日本は結構上位にきています。つまり世界の中でも格差が大きい国になりつつあるということです。一億総中流とは遠くなりけり……。いまでは韓国より微妙に係数が上(格差が大きい)だったりして、ちょっと意外ですよね。
まあ、これは日本の場合年金で暮らす老人が多いからじゃね?みたいな話もありますが、いずれにせよ、格差が開いていくのはなんだか悪い予感がします。もし格差がこれ以上広がるなら、我々の社会にも貴族が生まれるのかもしれません。
さて、そう考えた時、我々の社会システムにおいて、これから貴族や領主のような階層は生まれるのか?もしそうだとしたらどのように生まれるのか?が気になってきます。
私も色々と調べて考えてみたんですが、以下のようなパターンで「階層」が生まれる可能性がありそうです。
①血筋によるコネ
まず何よりもこれが発生するでしょう。叔父さんが勤めている会社に口利きしてもらう。みたいなパターンですね。子孫に財産は引き継ぐのは難しくなっても、こういう縁故採用的な身内贔屓はなくなることはないでしょう。あとは、政治家の関係者で政界に顔を売っておきたいという場合とかですね。
これはなかなか規制するのが難しいものがあります。対策はほとんど考えつきません。まあ会社によっては身内を参画させない。みたいなルールを持っているところもあるみたいですけど。
②教育によるスクーリング
これから大きな問題になりそうなのがこれだと思っています。学閥と言っても良いかも。〇〇大学をでた人を優先的に採用するとか、経営者につけようとか。そういう意図が存在すると、どうしてもそういう学校を出たほうが有利になる。
私も高校の時の友達と、帰省した時に年一ぐらいで合うんですけど、ああいう関係の仲間はやっぱりお互いのことを知っていますから安心感がある。
出世してから近づいてくる人間は、初めから裏切るつもりで近づいてきた可能性がありますけど、それ以前に出会った人ならそういう可能性はないですもんね(裏切らないとは言っていないですが)
問題はその教育費用がバカ高かったりする場合です。超名門!ブルジョア学園!一年間の授業料が3000万!とかそんな法外な学園があったとしたら、超富裕層しか通えません。んで、そんな学校を出た人間が、学閥で派閥を作り始めると、超富裕層に生まれなければ出世できないことになります。こうなると、学校というより超富裕層しか入会資格のないクラブみたいなもんですよね。学校ってのは教育を受ける場所で、親の収入の証明をする場所じゃあないだろ!みたいな話になってくるわけです。
そう考えると、学校のお金ってのは高額になりすぎないような仕組みを導入する必要があるのかもしれませんね。まあ、規制したら規制したで「民間の授業料は自由に設定して良いはずで、それを規制する意味はない」みたいな問題もでてきますし、次で紹介するような関係は規制できませんけど。
③仲良しクラブによるコネ
親同士が仲良しでよく一緒に旅行に行く~みたいな関係で知り合いだったりするとこれまた縁が生まれます。いくら、社会が公平性を保とうと、やはり個人的な知り合いというのは強い。
こういった関係がある以上、人間関係のネットワークが強い(上流階級と付き合いがある)人間は有利になるわけで、いくら企業がお互いに株を持ち合って、個人の支配から解き放たれたとしても、「個人的な縁から〇〇さんを役員に推薦します」みたいなのは無くならないんだろうな……とは思います。
ただ、まあ、幸いなのはやっぱり会社は儲けるために真剣だということで、流石にコネがあっても、あまりにひどい人はすぐに降ろされる。ということはあります。
こういった不公平さを、税制やルールで少しでも解決できれば良いんですけど、これはどうすれば良いのか、じっくり考え続けなければなりません。
再分配の話に戻りますけど、再配分は相続税だけで行うものではありません。固定資産税でも所得税でも可能です。むしろ、人間の死ぬタイミングという何十年かに一回のタイミングで動く相続税より、一年というスパンでかかる固定資産税の方がより再分配を行える。みたいな考え方もあるでしょう。
相続税のないスウェーデンもジニ係数上は日本より格差が少ない国です(といっても相続税を廃止したのが2005年からなので、まだ20年です。これから格差が開いていくのかもしれません)
再配分のための仕組みは色々と考えることが出来ます。相続税だって思い切って廃止して固定資産税を上げるという手もあるかもしれません。いずれにせよ、あまり差が開きすぎると、山の裾野が狭まってしまいます。狭い裾野からは次の世界を作っていく起業家が出てくる確率も減ってしまうでしょうし、やっぱり裾野は広いほうが良いんじゃね?なんて私は思っています。
なお、ジニ係数でいうと、実は中国はアメリカより格差が酷かったりします。この値が0.4を超えると暴動が起こりやすくなると言われていまして、アメリカは2020-2022の値で0.396。暴動一歩手前!って感じですね。まあ、すでに暴動起こってるだろ!と言われればそうかもですけど。
で、中華人民共和国はバッチリ0.4を超えています。
共産主義とはなんだったのかと渋い顔になってしまいますね。習近平政権は「共同富裕」なるスローガンで、格差是正に取り組んでいるそうですが、固定資産税の導入にも及び腰だったりと、どうも怪しい。しかもやっていることが「大手IT企業に寄付させる」と言うのが凄い。
とりあえず目についた資本家を殴って金出させたろ!というジャイアニズムで格差是正してますって言うことあるんだ……。私としては、やはり、ルール。万人に平等にかかるルールで格差を是正するべきだと思うんですが、どうなんでしょうか。てかこの状態で、バブル崩壊とか失業率とか不況突入とか、ちょっとヤバいかもしれませんね。崩壊するならするで、党の責任ですけど、その結果戦争になったりしたら目もあてられません。このまま穏便に収まれば良いんですが……。
信用こそ私達の武器
「日本1852」という本があります。あのペリー提督が黒船でやってくる前年にアメリカで出版された本の翻訳なんですが、当時の欧米諸国から見た日本の様子が生き生きと描かれており、非常に興味深い本でした。
で、この本の中ではとにかく日本がベタ褒めされているんですよ。まあ、「日本と交易したらこんなに良いことありまっせえええええ!!もはや開国しかなぁぁああああい!!!」と宣伝したいがために、そういう内容になっている部分もあるとは思うのですが、私が興味深いと思ったのは「嘘をつかない」「約束を守る」「賄賂を取らない」などのことが非常に褒められているんですね。
え?それって当たり前じゃん?と思わなくもないですが、商売でふっかけるのが当たり前の文化もある中、こうしたことがごく普通に行われていることは、当時の西洋人から見て凄いことだったようです。
「なんだこいつら文明の遅れた野蛮人かと思ったら、結構話せるな……」というのは、まあ言ってしまえばかなり失礼な目線なわけですけど、なまじ武力を見せるより効果的だったのかもしれません。
で、こうした公平性とか真面目さって、世界中どこでも通用する「信用」に繋がっていると思うんですよね。これは現代でも同じで、何しろ、私達の国は、天皇陛下ですら相続税を払うのですから。(※1)
(※1)天皇陛下が相続税を払うのはなかなか面白くて、実は三種の神器は相続税非課税だったりします。しかも相続税法にわざわざ書いてあるという。結構ふふってなるネタです。
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
今回の話では、「外国人への土地の売買を禁止するべきだ!」「外国資本に規制をいれるべきだ!」という人が多く見受けられました。実際、土地の売買は重要なため、規制を入れている国は多いです。株式だって、日本政府が指定している業界は外国資本の所持が制限されてたりします。(といっても議決権がないだけで所持はできるとか色々と面白い状況になっているようです。詳しくは調べてみてください)
また、日本国内のルールを作ることができるのは私達国民の権利です。だから、「外国人への土地売買に制限をかける」事自体は可能ですし、私達の権利としてはあるとは思うんですけど、果たしてそれをして、我々の信用は損なわれないのか?という思いはあるんですよね。
例えば、自分たちの都合でルールを変えたり戻したりする国があったとして、果たして信用されるでしょうか? 今、USスチールの買収問題でアメリカはどんどん株を落としていますけど、あれは向こうの新聞にもアメリカの信用を損なうのはやめろ!!他の国からの投資が無くなるだろ!みたいな記事が乗っているそうで、私も実際、そう思いますね。だって怖すぎますからね。急にちゃぶ台返ししてくる相手は。
だから、私達はそうならないように、慎重に動く必要があると思います。もし、土地の売買に制限をかけるとしても、どんな影響が出るのか。ステークホルダーにどう対処していくのか。保証はどうするのか、じっくり考えて結論を出す必要があるのではないでしょうか。
今まで見ていただいたように、実際の所、対して問題が出ないのであれば、特に規制もかけず放って置くという選択肢もあるわけです。
大体外国資本が日本に投資する。ということは、私達の社会にお金が増えるということでもあるんですよね。1000億ドル日本の土地を買うということは、日本全体を回る現金が1000億ドル増えることになります。日本国内での土地の売買では、お金が移動するだけで日本全体の総量は変わりませんので、単純に有利になります。いわゆる外貨獲得ですね。これはアドな話でもあります。
最後に
いかがだったでしょうか。長々と書いてきましたが、簡単なまとめです。
相続税のない国の人が日本国内の土地を買っても、富が吸い寄せられるようなことは起こらないので安心して良い
再配分の面では問題になる可能性があるが、他の影響が強すぎて果たして意味があるのかは疑問
この世界では富は法人に集約され、そしてその連合体に吸収されていく
全員が儲けるために真剣な世界では逆に公平性が保たれるかも?
以上になります。この記事を書くために冗談抜きで四日ほどかかりました。しかし、それは私が税金とか社会制度とか、そういった教育をまったくうけていないからでもありまして、基本的な知識がないことを悔やみました。こんなの専門でやっている人から見れば「そんなの教科書の一番初めに書いてあることじゃん」って内容なんでしょうけど……。
ネットでバカにされる社会学とか文系科目とかめちゃくちゃ大事やんけ!!ってことがよくわかりましたし、そういった教育を受けた人は是非記事を書いて世の中に解き放ってくれると、きっと私が喜びます。
あと、間違いがないか何度も何度も考えたわけですが、やぱりどこかに穴があるかもしれません。見つけた方は教えて下さい。
それでは、この辺で最後にしたいと思います。おやすみなさい!