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イノシシの「ぬたば」のお話

ヤギノリです。
先日、1月19日のまきクラブで、木を伐る前に、

茨木輝樹さんが、「宇治田原の民話にも出てくる
イノシシの「ぬたば(のたば)」が、この山にもあるよ。」
と案内してくださいました。
「ぬたば(のたば)」とは、イノシシが水浴びする泥沼のことです。

このあたりは、10年ほど前には湧水が出ていて、
ぬかるんでいたので、イノシシが水浴びによくやってきたとのこと。
今はすっかり乾いていますが、よく見ると少しくぼんでいて、
イノシシの跡があるような気が・・・
茨木さんに教えていただかなければ、
全く気付かず通り過ぎていたと思います。

頻繁に山で作業し、山の様子をよく観察されている
茨木さんを、ますますリスペクトしました。

さて今日は、その「ぬたば(のたば)」がでてくる、
宇治田原の民話をご紹介します。

以前、インタビューさせていただいた
清水貴美子さんの『宇治田原 こんなはなしあってんな』
から、絵と文章を引用させていただきます。

市助のたば

清水貴美子 文・絵『宇治田原 こんなはなしあってんな』 市助のたば

 ぬたば、「のたば」ともいうんやけど、いのししが水浴びする 泥沼のことや。
 むかし猟師うちで、ここに集まってくる いのししと、子づれのいのししは、うったらあかんという おきてが あったらしい。
ところがな・・・
 
 そのむかしな、田原の里に市助という わかものがおってな、炭焼きや 鉄砲うちをしてくらしてたんや。
鉄砲は あんまり 上手やなかったんで、くらしはまずしかったんやて。
 ある日のことや、市助は りょうに出ても なんにもとれなんだ。
その帰りな、このあたりではみかけん猟師たちが、おっきな いのししを射止めて帰るのにであったんや。
市助が「どこで 射止めたんや」と聞くと「むこうの谷や」と平気な顔で こたえよった。
「え、なんちゅうことしたんや、おまえら のたばでりょうをしたらあかんちゅうこと知っとるやろ」
「あほ、そんなことゆてっさかい おまえは なんにもとれへんのや」
と わるびれた様子もなく たちさった。
 
 市助は 家に帰ってからも あのおっきないのししが、頭からはなれへんかった。日ごろから ばかにしている猟師仲間を、みかえしてやりたい一心で
「あかん あかん」と 思いつつ、とうとう 次の日の夜 清水谷の のたばへ出かけてしもうた。
 いるわ いるわ。おっきいのやら ちっこいのやらが、
安心しきって 泥の中を のたうってた。
一回でもええから あんな おっきないのししを 射止めてみたいと思うた市助は、
ふるえる手で 鉄砲をかまえた。
 その日から 急に 市助のうでは 上がっていった。
村人たちは、
「あいつ、この頃どうなってんねん」
「急に うも なりよったなあ。まさか、のたば 行っちょんのとちゃうやろなあ」
「ええ まさか・・・」
しかし 一度味をしめた市助は、もう止められなくなってしもうた。

清水貴美子 文・絵『宇治田原 こんなはなしあってんな』 市助のたば
清水貴美子 文・絵『宇治田原 こんなはなしあってんな』 市助のたば

 今夜も また、鉄砲をかついで のたばへ でかけていった。夜もふけたころ 案の定 一頭のいのししがやってきて、水浴びをはじめた。
「よし、今や」と引き金を引こうとした。
 その時、「カラ、カラ」と木の上で 笑う者がいた。
「こら 市助、わしは黒山の天狗じゃ。山のおきてをやぶるとは 何事じゃ よもや わしの住む 清水谷までくるとは、こらしめてやる」というと 市助につかみかかった。
「ヒエー おゆるしをー」といいながら すきをみて あろうことか天狗めがけて 鉄砲をうった。ひょいと身をかわした天狗は、「ゆるせん。人間の分際で、天狗にたてつくとは 何事じゃー」
というがはやいか、大きな手で 市助のえりくびをつかむと
ポーン ポーンと、まりをつくように、空へほうりなげた。天狗は ひとしきりほうり投げながら 閉道坂まで やってきた。
「ちょうど あの池がよいわい」と市助を その池に 投げ込んだ。ポーンポーンという音は まわりの山に ひびきわたった。その音を耳にした村人は、「なんやろあの音 天狗さん なんかで遊んではんねやろか」と言い合った。
 あくる日 田んぼにでかけた村人が、閉道坂の池に浮いている 市助をみつけた。
「やっぱり のたばに行っちょってんなあ」
「天狗さんの怒りにふれたんちゃうか」「天ばつ下ったんやで」とおおさわぎやった。

清水貴美子 文・絵『宇治田原 こんなはなしあってんな』 市助のたば
清水貴美子 文・絵『宇治田原 こんなはなしあってんな』 市助のたば

村人たちは、悪いことをしたとは言うても 同じ村でくらしていた市助を
かわいそうに思うとともに、猟師のおきてを守る気持ちを わすれんために 閉道坂に お地蔵さんをたてた。
 今も このお地蔵さんは 長尾の地蔵様と呼ばれて、
奥山田に通じる道ばたに 安置されています。

清水貴美子 文・絵『宇治田原 こんなはなしあってんな』 市助のたば


「流域探検隊うじたわら」には、
たけるさん、しげさんという猟師メンバーがいます。
きっと二人は「今の山の掟」を守りつつ
天狗さんにも敬意をはらって
山の恵みをいただくと思いますが、
いつか、みんなで長尾の地蔵様にもお参りしにうかがえたらなーなんて思いました。

これまでUPした、猟にまつわる記事もぜひご覧ください😉


文章と絵を引用させていただいた、
清水貴美子さんに関連する記事はこちらです。
今回は、絵本を写真に撮らせていただき掲載しましたが、
実物はもっと素敵なので、ぜひ宇治田原図書館にてご覧ください!!



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