ザッキ・ニッキ
四月一日
フォロワーとライン。二時間半ほど通話する。
恋と性欲をテーマに議論する。血の通わない、冷たいタイルに寝そべっていた僕には、本質論者の叫びこそ新鮮な温もりだった。
生命の産声だ。獣臭い呼吸だ。そうだ、春がやってきた!
フォロワーからサークルの原稿を依頼され、僕は快諾し、さっそくプロットを話し合う。充実していた。
三月中旬に訪れた鬱の波なんて、見えなくなるほどに。
四月二日
フォロワーがイラスト制作を開始。原稿は、ある程度イラストが出来上がってから取り掛かればいいらしく、僕は便りを待つ。
昨日より調子が悪い。小説も三千字しか書けない。
四月三日
千字書く。
ツイッターのアカウントに鍵をかける。
四月四日
進捗なし。
ツイッターのアカウントを削除する。
四月五日
進捗なし。
四月六日
進捗なし。
四月七日
進捗なし。
四月八日
リア友に誘われてラーメンを食べる。話が噛み合わない。彼が楽しいと思うことを、僕はこれっぽっちも共感できなくて、肯定も否定もできず、目尻の筋肉を持ち上げる。
四月九日
少し調子がいい気がする。ゲーム実況を収録してアップする。六十回ばかり再生される。一年半ほど続けて三百登録。そろそろ潮時。
四月十日
小説をボツにする。思考を漁り、アイデアの種を探すが、ゴミ箱からはゴミしか出てこない。
四月十一日
ツイッターのアカウントを復活させる。
四月十二日
新作のプロットを書く。
四月十三日
プロットがひとまず形になり、そのままの勢いで千字書く。
四月十四日
二千字書く。
睡眠が長くなった。レッド・アイで眠剤を流し込む。
四月十五日
千字書く。
四月十六日
新潟市へ行く。道中、千字書く。
四月十七日
新潟市観光。進捗なし。
四月十八日
進捗なし。
四月十九日
孤独の天井に押しつぶされそうになって、ニコ生で二時間ほど配信するがコメントはゼロ。
すべてが下らなく思えて、そうだ、僕は働かなければならないじゃないかと、バイトを探し始める。
リア友四名とディスコードで通話。「元気?」と聞かれ「元気じゃない」と答え、葬式みたいな空気になる。
四月二十日
深夜四時、なるべく頭を使わずに、指が動くままにキーボードを叩いてこれを書く。
今回の波はいつ去るだろうか。今は無職だからか、以前のものより幾分かマシな気がする。
鬱が始まった一ヶ月前から今日へとスキップしたような、あるいは四月がまるまる消えてしまったような違和感が、文章に起こし終わった今も拭えない。
寂しい。誰でもいいから抱擁してほしい!抱擁は祝福だ!人間を形作る螺子だ!そうでなければ、いつまで経っても蝋人形のままだというのに!
今夜も、誰もいない。僕も。
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