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元彼Y㉑フラッシュバック

自分の過去とYを混同するのは
次元が違うことだと分かっていながらも止められない。
自分の意思に反して
止め処無くそこに想いが繋がってしまう。
あの頃の自分と今の自分は違うんだと
何度も何度も自己暗示を掛けるけれど
その都度、強烈なあの記憶が襲ってくる。

私はある治療を放棄したことがある。
トラウマを克服する為の民間療法だったけれど、途中から“死に対する克服“の意味が分からなくなった。
忘れる必要があるのか
乗り越える必要があるのか
克服への不信感があった。
“私はこのままでいい”
“生まれ変わらなくていい”
“強くなったところで彼は戻って来ない”
と、はね除けてしまった。
今になって思えば、
間違った選択だったかもしれないし
放棄しなければ今が違っていたかもしれないと思う事もある。
正解は誰にもわからない。


Yが海外出張から戻って来る日
職場の空港のスカイデッキで待ち合わせをした。
久しぶりに外の空気を吸いながら
休憩して帰ろうって事で。
遠くから歩いて来るYが見えた。
どんなに人が居ても、視力が弱く霞んでいても
見付けられる私がいた。
1ヶ月振りに逢うYは一段と大人びていて
視線を外したくなるほど眩しく見えた。
どんなに疲れていてもクールで
変わらない強さが滲み出ていたね。

涼しい季節で風がとても心地良かったから
雨が降り出すまで1時間位フライトを見ながら話してた。
突然の強い雨にびしょ濡れになりながら
車に乗り込んでお互いを見合った時
その姿がおかしくて爆笑したね。

“結婚する?”
『え?』
“結婚しない?俺と”
濡れた私の髪をかきあげながら彼が言った。
彼の表情と、周囲の雑音と、その場の空気の流れが止まったかのような錯覚があった。
何か言わなきゃと思うけれど
言葉を紡ぐことが出来なかった。
Yの目を長い間見つめていた気がする。
そんな姿を見かねたのか
何かを察知したのか
無言で私を抱きしめて
儚げな声で彼が言った。
“俺、あぁちゃんと結婚したい”

車の窓ガラスに激しく雨が打ち付けていた
外の景色が何も見えなくなってく
空では雷が鳴っていた
流れていたはずの音楽が消されてく
Yの髪から雨の雫が滴り落ちていた
いつか見た涙のように
締め付けられる胸の痛みに
気を失いそうになった
雨に濡れた身体のせいで
心まで凍てついていく
怖かった
彼が消えてしまいそうで
何もかも無くなりそうで

きっと覚えてるよね
私達いつも大雨だったこと


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