遠回しの遠回しの遠回し
プルルルル プルルルル プルルルル
息子(3歳)に絵本を読んでいる妻のスマホがなった。
「もしもし」妻が電話にでると、スピーカーから「こんばんは」義母の声が聞こえてくる。
続けて「今ね、こっち寒いよ、ホントに寒いよ」
妻が「寒波きてるもんね」そう言うと、義母は矢継ぎ早に言った。
「お姉ちゃんたちは仕事で、こっちに来れないから会えないよ。
温泉もやってない。
あ、新しい株(オミクロン)も流行ってるね。
心配しなくていいよ、お父さんもお母さんも元気だよ。
こっちはホントに寒いよ、ホントに。
ゴールデンウィークは良い季節だね」。
一方通行の話しに、妻は微笑しながらウンウンとうなずいている。
義母が言いたいのは、寒い中、大掃除をしないといけない。
おせちを作らないといけない。
年賀状をしないといけない。
お正月はゆっくりしたい。
だから「帰ってこないで」、を遠回しに言っているのだ。
コロナの影響で、2年近く妻の実家に帰省していない。
娘にも孫にも会えずに寂しいだろうと思い、義父母だけに会う条件として、帰ることを前々から決めていた。
もちろん2人の了承は得ていたし、喜んでくれてもいた。
晩ご飯は、私の大好物である、義母の作った角煮にするからとまで言ってくれていた。
しかし、私たちの来る日が近づくにつれ、ストレートに言うと面倒くさくなったのだろう。
無駄に大きい家の掃除、手間暇のかかる角煮とおせちの準備、手つかずの年賀状などなど。
若くはない義父母。
私たち家族3人が行くだけで非日常になり、肉体的・精神的に何かと大変なのは行くたびに思う。
案外、帰省して喜ばれると思っているのは子どもだけで、大変だから帰ってこないでと思う親は、少なくないのかもしれない。
とにかく、帰れないのは残念だが、遠回しに物事が言えるくらい元気であれば、会えなくても私たちは幸せだ。
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