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『鬼滅の刃』ヒットに現代世相との親和性をみる

※ 一部ネタバレ要素があります。ご留意ください(11/2 08:10追記)

最近テレビで『鬼滅の刃』ヒットの背景や理由について解説される機会が増えた気がする。

その一つが先日の「ウェークアップ!ぷらす」。辛坊治郎氏は「水戸黄門」に喩え、「勧善懲悪で必ず最後こうなるっていうのがわかる。安心して見てられる。見終わった後にストレスがたまらない。正義は勝つって…ここでしょう」と語っていた。

個人的には、この喩えはあまり正確だとは思えなくて、従来の勧善懲悪にはなかった「悪なりの事情・背景」が語られるところに魅力があるのではないかと感じている。例えば水戸黄門や大岡越前といった典型的勧善懲悪モノにはこのような視点はなかった。むろん、単純に主人公(竈門炭治郎)が良い子(努力家・やさしい)で好きとか、仲間たちのキャラが立っていて面白いとか、まじめなシーンで見せるヌケたところがたまらないとか、色々ありそうではあるけれど。

もう一つ、個人的に強く感じることは、現代世相との親和性だ。例えばTwitterを眺めていたら、上西光子氏の次のツイートがTLで流れてきた。

ここで引用されている竹中平蔵氏のコメントを聞くにつけ、思い出すのはこのセリフだ。

『生殺与奪の権を他人に握らせるな!』(コミック単行本1巻p.38、冨岡義勇のセリフ)

予め断っておくと、作中の当該セリフと竹中氏の発言とはなんの関係もないし、非正規雇用そのものをどうこういうつもりもない。ただ、現代の世相と社会構造を考えた時、竹中氏の立ち位置からこうした発言をすることはどこか「生殺与奪の権を握りたい」ないし「握ってしかるべき」というニュアンスを感じてしまう。

上西氏の指摘のとおり、「首を切る」という表現そのものが露骨だし灰汁がつよい。『鬼滅の刃』は人間より強者(人間を虐げるという意味で)である鬼の首を斬ろうとする話だが、竹中氏は社会構造の中で弱い人の首を切ろう(切りたい、切らねばならない)という話をしているのだ。ここだけ考えても不条理や理不尽が拭い去れないだろう…とモヤモヤした。

もう一つ、TLで流れてきた本田圭佑氏のこのツイートも気になった。

これも作中に思い当たるセリフがある。少し長くなるが、続きコマでのセリフなのでまとめて引用したい。

しつこい。お前たちは本当にしつこい、飽き飽きする。心底うんざりした。口を開けば、親の仇、子の仇、兄弟の仇と馬鹿の一つ覚え。お前たちは生き残ったのだからそれで充分だろう。身内が殺されたから何だというのか。私に殺されることは大災に遭ったのと同じことだと思え。何も難しく考える必要はない。雨が風が山の噴火が大地の揺れがどれだけ人を殺そうとも天変地異に復讐しようという者はいない。死んだ人間が生き返ることはないのだ。いつまでもそんなことに拘っていないで日銭を稼いで静かに暮らせば良いだろう。殆どの人間がそうしている。何故お前たちはそうしない?理由はひとつ、鬼狩りは異常者の集まりだからだ。異常者の相手は疲れた。いい加減終わりにしたいのは私の方だ。(コミック単行本21巻p.61~65、鬼舞辻無惨のセリフ)※仕様上改行すると引用が分離してしまうので、読みにくさを防ぐために句読点を適宜追加しています(それでも読みにくいですすみません)。また、一部太字部分は、引用者:坂西涼太が強調したい部分です。

本田圭佑氏のツイートのカギ括弧「余計なこと言わずに本業に集中しろ!」と鬼舞辻無惨が(太字部分で)言っていること、根っこは一緒じゃないかと思うわけです。例えば政権批判をすると、なにかレッテルを探しだして一々貼りつけては「○○なのに、そんなことを言うなんてガッカリだ」「○○のくせに政治に口出しするな」といった言葉が投げつけられる。でもその「○○」なんて、ただの社会生活を営む上での飾りでしかなくて、実体は誰しも生身の人間なのだから、批判する権利は当然にあるよね、と。

日本と日本人の歴史についてみると、どこか国家(お上、行政)の無謬性を信じているところがあって、純粋無垢な子供じみてて可愛らしいのだけれど、大丈夫かな?って思うことが多々ある。そんなときに「おかしくない?」「変だよ!」と声をあげられる社会でなければならない。そうではなく、信頼しきってしまって、何も考えないことが当たり前な社会になってしまったら、気が付いたら鬼舞辻無惨みたいな国になっていたってこともありうる(現に過去にあった)話だろう、と。

とまぁ、こういう話を書いてしまうとそれこそ「政治に結び付けるな」という声がありそうだけれど、漫画も映画も歴史的な大ヒットとなっていることを思うとき、どこか息苦しい・閉塞的な現代社会に対するうっ憤を晴らしてくれる要素があるんではないかと感じた次第。

(最後に、あえて補足すると、上記について作者の意向は明かされていないので、社会風刺の要素を持つものかどうかという点はわかりません。一つの視点として感じたことを書きました。)


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