楽天モバイルの「ネットワーク仮想化」が常識も価格も破壊しにくる
楽天モバイルの料金が発表されました。公式サイトは落ちてて見れないのですが、多くのガジェット系の情報サイトが発表の内容をまとめてくれています。
今回発表された料金プランやカバーエリアが特に話題となっています。既存3キャリアの高額な通信料金に風穴を空けられるかという点で注目を浴びている証拠かと思います。
利用料金を語る上で知っておきたいのが「ネットワーク仮想化」という単語です。楽天モバイルはネットワーク仮想化による固定費の削減を武器にしようとしています。
価格競争になった場合、既存3キャリアでは固定費の面で楽天モバイルに太刀打ちできなくなる可能性があります。
ネットワーク仮想化とは配達員の業務削減
ネットワーク仮想化とは何でしょうか。ネットワーク自体が既に目に見えないものなので、それを仮想化と言われても想像できないかと思います。
ネットワークは宅配に置き換えると理解しやすくなります。荷物の配送はどのように行っているか、想像してみて下さい。
まず、荷物を梱包します。荷物には住所なろ送り先を書きます。そして配達員へ渡します。配達員は近くの配送センターに荷物を集めます。
配送センターに集められた荷物は、送り先に最も近い配送センターへ送られます。
最終的に、送り先に最も近い配送センターから配達員が荷物に書かれた住所を読んで、送り先に届けます。
送り先に付いたら、住所と氏名が合っているかを確認し、受取人がサインをして完了です。時に、配達員は受取人が不在で出直すこともあります。
私たちは「荷物を梱包して配達員に渡す」「配達員から受け取ってサインをする」という行為しかしていません。実際は宅配業者が様々な判断をして荷物を届けています。
インターネットにおいては、この例でいう「配達員」を「基地局」に置き換えられそうです。私たちのスマホは基地局に、どのサーバ(WEBサービス)にどんな情報を送りたいかを伝えます。そして、基地局から情報(WEBサイトなど)を受け取ります。
ネットワーク仮想化というのは、この配達員の仕事を極力削減する行為です。配達員から削減された仕事は配送センターでの仕事に委ねられます。
配達員の仕事が簡単であればあるほど、賃金を抑えて替えも効くようになります。(それってブラックでは・・というツッコミがありそうですが、あくまでも機械を人に例えたまでなので大目に見て下さい。)
配送センターこそがクラウドであり「仮想化された」状態と例えてよいかと思います。
ネットワーク仮想化で固定費削減
ネットワーク仮想化の利点は2つ有ると思います。それは「基地局が最小限」と「アプリケーションで制御できる」です。この2点で得られる効果は費用の大幅削減です。
WEBのシステムを構築する上で、自社で管理する物理端末は少なければ少ないほど良いです。それはメンテナンス費用に影響してきます。物理端末をメンテナンスするためには、その端末がある場所に行かなければなりません。そして、端末のどこに問題が有るのかの調査と補修をその場で行わなければなりません。
楽天モバイルの基地局は15分で設置できる程度の規模だそうです。基地局に不具合があったとしても、シンプルな構成であるが故に素早く原因を特定して補修できそうです。あるいは丸ごと取り替えてしまうのかもしれません。
最も効いてくるのが「アプリケーションで制御できる」点です。アプリケーションで制御できるというのは即ち、デスクワークで制御可能ということです。
メンテナンスの多くの作業がデスクワークで制御可能であれば、システムエンジニアをオフィスに抱えているだけで済みます。結果として基地局を回る費用を大幅に削減できます。
(先の宅配業者の例でいうと、配送センターをメンテナンスするだけで済みます。)
更に重要なのが、デスクワークで可能ということは、AIでも可能という意味にもなります。AIでなくとも、規則性さえあればプログラムで制御が可能です。今後は優秀なシステムエンジニアによる自動化が進むことで、固定費はさらに削減できるはずです。
「衛星通信ネットワーク」が含む将来性
あまり話題になってないようですが、サラッと重要なことも発表しています。それは「AST&Science」と組んだ人工衛星を用いた4G・5Gネットワークの構想です。
「AST」は、多数の小型衛星を地球低軌道上に飛ばし、低遅延の衛星通信の提供を目指す米国テキサス州のベンチャーです。
他の衛星通信との違いは、人工衛星から直接スマートフォンに繋がる点です。従来の衛星通信は専用の端末が必要だったり、一度地上の基地局を経てから端末に繋がっていました。
一方のASTは専用の機器不要で、スマートフォンに対して人工衛星から直接4G・5Gネットワークを提供します。また、従来の衛星通信と異なり屋内でも利用できるとのこと。
このプロジェクトが成功すれば、「15分で設置できる基地局」すら不要になるそうです。
究極の結果として、楽天モバイルはシステムエンジニアさえ抱えていればモバイル通信事業を運用できてしまいます。
人工衛星への投資がどう固定費に乗ってくるかは分かりませんが、少なくとも全国を闊歩して回る費用は不要になります。
費用面もそうですが、組織が小さくなることで小回りの効いたサービスの提供も期待できそうです。
また、衛星通信になることで地上での災害時に強い通信インフラが構築されます。災害大国である日本では非常時に重宝されるキャリアにもなるかと思います。あるいは、通信インフラの構築が難しい国や地域でもサービスの展開が可能になります。
楽天モバイルは既存3キャリアとどう戦うのか
楽天モバイルは既存の3キャリアと明確に差別すべく、文字通りの空中線を挑んできました。既存3キャリアが5G以降でどの様な戦略をもっているのかは調べられてません。ひとつ言えそうなのが、楽天モバイルのビジネスは、既存キャリアが行っていたような基地局を建てて顧客を抱え込むビジネスとは観点が変わっていそうだという点です。
現状の楽天モバイルはカバーエリアが局所的ということもあって、後手に回っている印象は否めません。しかし、カバー率は時間の問題でしょう。
楽天モバイルは「3年程度での黒字化」を目指すそうです。この計画がどうなるかは誰も分かりません。注目すべきは収益化した時に利用料金を単体でどこまで抑え込めているかだと思っています。
楽天モバイルの思惑通りであれば、価格競争では圧倒的に有利になっているはずです。