何でも電子化すればよいわけではない、例外的な仕様を組み込む危うさ
参議院議員である音喜多駿氏が自身のユーチューブチャンネルに『年間80万円が税金から支出!山尾志桜里議員も不正使用をしていた「JR乗り放題パス」、不正を防ぐ解決策はズバリこれだ』という表題の動画を投稿していました。国会議員向けのJR乗り放題パスの課題点と改善の提案をされています。一般人には全く縁の無いJR乗り放題パスの仕組みを知る機会にもなり、興味深く動画を拝見しました。
音喜多議員いわく、JR乗り放題パスは紙を改札口の駅員に提示するだけのアナログなものだそうです。それ故に私的利用をされてたとしても気づきにくいのだと指摘します。音喜多氏の提案はこのJR乗り放題パスを電子化するというものです。SuicaのようなICカードなのか、磁気カードなのかは分かりませんが、電子化することで全ての記録が残るようになり、利用用途の透明化をしやすくなります。提案の仕方としては賛同できます。電子化することで仕組みで解決しようというのは問題解決の仕方としては基本です。「頑張る」「気をつける」などの精神論は問題解決の手法としてはご法度です。
JR乗り放題パスの電子化は面白そうです。しかしこれが本当に正しい解決方法であるかは疑問があります。
疑問のひとつとして、電子化の弊害を挙げます。それは管理されすぎることです。末端の国会議員であれば全部透明化しても影響はないでしょう。しかし、国会議員ともなれば外交等な観点で秘密裏に動くことは無いのでしょうか。特に与党の政府に近い議員です。その際にJRを利用した移動情報が筒抜けになっていたら誰とどこで会っているなどの情報がおおよそ推測可能になります。余程な秘密の場合は公共の交通機関を使うことはないのでしょうが、全てを一律的に明るくするのが全て良いかどうかは議論の余地があるのではないかと思います。
もうひとつの疑問は、コスト的な観点です。JR乗り放題パスはJRが発行して運用しています。それを電子化するとなれば、その仕組みづくりはJRがしなければなりません。その場合は、まず思いつくところで電子化されてない駅の自動改札の設置も必要です。それに加えて、JR各社を横断するような仕組みの構築をしなければならないはずです。自動改札の設置だけであれば一般の利用者にも恩恵がありそうなので反対は少ないかと思います。問題は後者です。既存の仕組みに例外的な仕組みを組み込む難しさは私と同じシステムエンジニアであれば共感いただけるのではないでしょうか。
システムに例外的な仕様を乗せると、それだけで仕様が複雑化します。複雑な仕様はバグの温床となり、それはつまりシステムの開発コスト増を指します。ちなみに最悪の場合はセキュリティリスクに繋がります。コスト増は例外的な仕組みを組み込む初回だけではありません。保守と呼ばれる継続的なメンテナンスのコストに常に乗ってきます。JR各社の自動改札の開発コストが上がるというのは即ち運賃の値上がりに繋がりかねず、巡り巡って国民の負担が増えてしまいます。それは本当に私たち国民が望む結果ではないと思います。
税金を私的利用したのは許せませんし、音喜多議員が提案するように仕組みの構築によって解決されるのを望みます。しかしその答えは必ずしも電子化だけではないと思います。答えを持ち合わせていないので言いっぱなしになってしまい恐縮です。この視点を踏まえた上で議論のテーブルに乗せていただいてより良い解決方法にたどり着いていただけるのを願います。