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少子化対策には人工子宮の実用化が急務


少子化対策の現状

昨今、騒がれる少子化問題。その対策としては、以下の施策がよく取り上げらる。

  1. 経済的支援の強化:子育て世帯の経済的負担を軽減。児童手当の拡充や教育費の支援。

  2. 子育て環境の整備:保育施設の拡充や質の向上、子育て支援サービスの充実など。

  3. 働き方改革の推進:仕事と育児の両立を支援するため、育児休業制度の充実や柔軟な働き方の推進。

  4. 社会的意識の改革:子育てに対する社会全体の理解と支援を深め、子育て世帯へのサポートを促進する取り組み。

これらの対策が不足していることを多くの論者や政治家が要因として挙げているが、そもそもこれらを実施したところで少子化は改善されるのだろうか?

これらの施策は、どれも社会に対して精神的、時間的、金銭的な負担を増やす対策である。負担が増えることでさらに少子化が進行しては本末転倒だ。
しかし、筆者は少子化する根幹原因は人間の本質的なところにあるように思える。

少子化の原因

少母化

出産可能な年齢層の女性、特に母親となる女性の数が大幅に減少している。日本では1985年と2020年を比較して母親の数が約60%も減少している。
母数が減れば子数が減るのは当然。
この少母化は、少子化の最も大きな要因といえるだろう。
少母化する要因はいくつかある。

  • 結婚したい意識が減った。

  • 結婚に対する社会からの圧力もなくなった。

  • 結婚する際の女性の年齢が上がった。

  • 子供を産みたい女性も減っている。

男女の婚姻数減少の原因

婚姻数は低下する一方だ。

引用:読売新聞オンライン:日本人の結婚への関心、依然高いが…男性25%・女性16%が「生涯未婚」https://www.yomiuri.co.jp/life/20220610-OYT1T50245/

その要因として経済的な問題があげられる。厚生労働省のデータによると20代男性の非正規雇用率は約3割に達し、若者の経済基盤が弱体化している。
内閣府の調査では、未婚女性の約4割が「結婚にメリットを感じない」と回答している。
2020年調査では、平均初婚年齢が男性31歳、女性29歳と晩婚化も進んでいる。
「結婚はタイパが悪い」「独身の方が自由」と言った声もある。さらに子供を持ちたいと考える夫婦も減っている。
地方から若い女性が集まりやすい東京での合計特殊出生率は全国平均を下回る1以下。
これでは母親数は増えない。
経済問題はともかく、男女の人生の価値観は議論や社会の圧力でどうにかなるものではないだろう。

晩婚と35歳以上の女性

母親になろうとしてもなれない現状もある。
女性は35歳を超えると妊娠力が急激に落ちるからだ。

引用:扇町レディースクリニック https://olc.ne.jp/choices

30歳~34歳で50%、35歳~39歳で20%。
男性の年齢も影響はあるが、女性の1/10程度であり、やはり女性の年齢は影響が大きい。
しかし、どうして女性はこんなに妊娠力が落ちるのだろう?
それは、人類の進化が関わっている。

人類の進化と子宮の負担

学校で習う通り、人類と類人猿の違いは直立2足歩行にある。2本の脚で歩くようになったために人間に進化したのだ。
しかし急激な進化のため不都合な部分もでてきた。
例えば、男性の性器は直立2足歩行で歩くのに邪魔な場所についたままである。男性側はこの程度の不都合だが、女性側には深刻な問題をもたらした。

ペットを飼っている人なら知っているだろうけれど、イヌやネコにも生理はあるがほとんど無いか非常に軽い。サルなどの人間に近い霊長類でも同様。というか、生理が特別に重いのは人類だけである。
この理由は、直立したことによって子宮口が下向きに、重力に逆らう配置になってしまった。人間の胎児は脳が特に重く、胎内で支えるため子宮内膜を厚くしないといけなくなってしまったのである。 だから人間の女性は厚い内膜を形成して妊娠の準備をしている。そして胚が着床しない場合はそれが剥がれ落ち、大きな出血と痛みを伴うわけだ。これにより生理は重くなり、子宮は累積するダメージを受けやすい。

先に女性の受胎率の表を出したが、あれは女性全体の平均である。実は同じ年齢の出産でも初産と経産婦では10%から20%ぐらい結果が変わってくる。経産婦の方がずっと妊娠しやすいのである。経産婦の方が子宮の状態とホルモンバランスがよくなるためだ。子宮の状態はホルモン分泌にも関わる。

ちなみに、先の例としてネコやイヌは生理が軽いと説明した。ネコやイヌのメスは老化で生殖欲は衰え、妊娠成功率は低下し、母体への健康リスクは増大するが、理論上は生涯を通じて妊娠可能である。

不妊治療

精子と卵子の劣化と体外受精の現状

現在の不妊治療として、自然妊娠が難しい確率の年齢の場合は、体外受精が行われる。高齢になると卵子が受精できる能力が落ち、精子も活発さが無くなるからである。

引用 国立国際医療研究センター病院 https://www.hosp.ncgm.go.jp/

夫の精子と妻の卵子を採取し、顕微鏡を用いて人工的に授精させる。(図のように顕微鏡を使わない方式もある)
受精卵を培養して正常に成長したことを確認した胚を妻の子宮に戻し、子宮に着床して胎盤が形成されれば妊娠。そして流産などがなければ出生に至る。
体外受精は日本において2022年に54万3630件。出生数は7万7206件、年々増加傾向にある。
しかし、人工的に受精卵を作っているのに、なかなか出生数はあがらない。その理由は子宮への着床率が低いことがあげられる。
高齢女性の子宮は、先の子宮へのダメージにより着床率が低いので出生率がなかなかあがらない。

代理母の現状

この子宮の劣化への対応として、昔から実施されているのが代理母である。要するに精子と卵子は夫婦の物を使うが、子宮は別の若い女性に依頼するわけだ。
だが、日本では代理母はかなり依頼しにくい。高額の資金が必要で人間関係が煩雑になるだけでなく、そもそも日本の若い女性が子供を産むような環境ではないから少子化問題が起きているのである。
若い女性でも1回の妊娠機会で妊娠できる確率は20%程度、負担も大変なものになる。
そこで多いのが海外の女性に依頼するパターン”だった”。過去形である。

渡航して代理母を依頼するリスク

海外では代理母はビジネス化されている。
アメリカでは忙しい芸能人女性が自分で産まずに代理母で出産することはよくある話。日本でも公表されていないがあるかもしれない。

しかし、これが極めてリスク大。代理母は法規制があり、依頼できる国は限られている。
2022年以前の渡航して依頼する代理母の国別ランキングは次の通りだ。

  1. アメリカ

  2. ロシア

  3. ウクライナ

この国の羅列をみて、いかに恐ろしいリスクを示しているかは、現代の世界情勢を鑑みれば誰にでもわかるかと思う。

アメリカが人気なのはアメリカで生まれればアメリカ国籍や永住権が取れるから、代理母に限らず妊娠している女性がわざわざ出産前に渡米してアメリカで産む例もよくあった。※ものすごく費用がかかります。
しかし、近年のアメリカは物価が上昇しすぎて、この手段は大金持ち専用であろう。
一般的な方法でなければ、対策にはならない。

民法と母親の親権

他にも法的な問題がある。
日本の民法では子を産んだ女性がその子の母である(※民法第772条1項)と決めている。つまり子供を産んだ子宮の持ち主が母親と自動的に決まる。母親には父親のような親権の認知はない。遺伝上の父と母ではなく子宮の持ち主が無条件に優先である。

しかし、これでは代理母が親権者になってしまう。
そのため養子縁組をするのだが、養子縁組をしようと産んだ人が母親という事実は消えない。

例えば…ある高齢の金持ち夫婦が代理母で子供を授かったとする。しかし、その金持ちは、子供が成人になる前に亡くなってしまった。 すると、財産はその子供が受け継ぐが、ここでもし産んだ女性が親権訴訟を起こしたら、産んだ行為が事実として証明された場合、親権は代理母のものになる可能性があるだろう。すると、代理母は子供の財産を全て自由に管理できる。 代理母は親権者なのだ。民法で定められた正式な母親である。遺産管理の代理人より上だ。 そうなったら血縁のある親族でも手が出せない。

代理母依頼の妊娠中リスク

しかも、代理母の妊娠中は、生活で摂取する物質に対して大きな影響がある。カフェイン、アルコール、ニコチン、その他薬物、海洋魚類(マグロ、カジキ)、生魚生肉、ストレス、そして男性ホルモン、その他諸々の胎児への影響は大きい。
疾病も大きな問題だ。風疹は特にリスクが高い。他にも、もし代理母が妊娠中に梅毒になったら鬼滅の刃の遊郭編に、エイズになったらソードアート・オンラインのマザーズ・ロザリオ編になってしまう。
自分の子を宿す母親は皆気を付けるが、代理母はそこまで信頼できるだろうか。

そもそも、どうして男性は妊娠できないの?

こういう話をすると、男性が妊娠すればよいという人が現れる。
しかし男性は妊娠できない。これを子宮がないから当たり前と思うかもしれないが、実は違う。じゃあ、「臓器移植で男性に子宮を移植すれば妊娠できるのか?」という話になる。
男性が妊娠できない理由は、男性ホルモン(テストステロン)が強いためである。男性ホルモンは胎児に毒。まぁ、薬でホルモン分泌を抑えればチャンスはあるかもしれないが、精神的肉体的リスクを考えると現実的ではない。
昔、そういう設定で男性が出産する映画もあったが……

そして、女性も男性ホルモンは分泌し先述のとおり胎児に悪影響を与える。女性の男性ホルモンは男性の5%~10%程度だが、状況によっては増加する。
ちなみに、女性に男性ホルモンが分泌される要因は、臓器の異常や薬物の影響を除けば更年期、運動、競争、ストレスである。
どれも現代の女性は生活上で避けて通れないだろう。

人工子宮とは

さて、そこで登場するのが人工子宮である。
人工子宮の役割は哺乳類用の卵の殻
鳥類や爬虫類は子宮が無いので、受精して胚が形成されるが、着床せず胚が殻に包まれてそのまま産み落とされる。そして身体の組織ができると殻を割って産まれてくるわけだ。
卵の殻は一見、単純で脆い構造に見える。あなたも割ったことがあるだろう。しかし呼吸したり、細菌を防ぐ膜がある。胚の内部では必要な栄養分も蓄えている。卵の黄身は全部栄養だ。
人工子宮とはこれら子宮の機能を機械で代用するものだ。

子宮の仕組み

人間の子宮の機能は次の4つがある。

  • 保温

  • 呼吸と代謝

  • 有害な物質や病原菌の遮断

  • ホルモンの産生

人工子宮は子宮が行っている機能を機械で代用することより、着床が困難な子宮の老化問題が解決すると同時に、代理母と比較して法的リスク、危険物質摂取リスクを避けるメリットがある。

保温

子宮の機能で最も重要なのは保温である。
胎児は熱を生み出す能力が極めて低い。鳥類や爬虫類などの卵も同様である。
これを打開するため、鳥類は抱いて卵を温める。南極に住むペンギンはオスとメスが交代で飲まず食わずで必死に温める。それぐらい保温は重要で大切である。
哺乳類の場合は子宮で温める。しかし、厳密的に言えば子宮自体に保温能力があるわけではなく母親の体温で温めているだけだろう。
しかし、子宮があるから体内で保温できる利点があるともいえる。

呼吸と代謝

子宮内で受精卵を培養した胚が子宮内膜に着床すると胎盤というものが形成される。

引用 Wikipedia

母親側の子宮内側の膜からできる胎盤に、胎児側の臍帯(ヘソの緒)の先にある絨毛が入り込み、ここで酸素と二酸化炭素の交換、そして栄養の供給と老廃物の受け取りが行われる。

有害な物質や病原菌の遮断

外の世界は雑菌だらけ。卵の場合は、不衛生な環境だとカビや菌に侵入されて死ぬことも多い。
しかし体内の子宮であればかなり多くの病原菌を母親の免疫力で回避できる。また有害物質も遮断できる場合がある。
ただし、全てではない。例えば風疹などは胎児にも影響は大きいし、アルコール、カフェイン、その他薬剤も大きな影響がある。
完全に解明されているわけではないが、この時の母親の胎児への影響がアレルギーの要因になるとされている。

ホルモンの産生

胎盤は母親に影響を与えるホルモンを分泌する。妊娠を維持させるようにバランスが変化し、母乳の準備やエネルギーの供給を変化させる。
つわりもこの変化が原因とされる。
胎盤のホルモン産生関係は直接的には母親側への影響が殆どなるが、その影響が間接的に胎児側に影響を及ぼすこともあるので、解明が困難な部分である。

人工子宮の現在

下絵は人工子宮の研究段階。ヒツジの人工子宮、ex-vivo uterine environment (生体外子宮環境、EVE)である。米国フィラデルフィア小児病院の研究者グループは2017年に深刻な合併症なしで出産に成功した。

注意点として、これは人間の妊娠期間24週に相当する超早産児のヒツジを使った実験で、着床する前のヒツジではない。
人間の受精卵が胚になってから着床までは3週、胎盤形成は7週に始まり15週ころ完成する。つまり胎盤形成前から人工子宮で育てる実験に成功したわけではない。
しかし、それからオーストラリアや日本、そしてオランダ、カナダ、中国でも人工子宮の研究は進んでいるので、いずれ問題は克服されるだろうし、重要視される研究ならば、開発は早く進むだろう。

人工子宮の倫理と誤解

人工子宮の研究そして実用化に際し、技術開発の問題よりも大きいのは倫理的な問題かもしれない。
それには家族観や宗教だけでなく、多くの誤解や偏見も絡むからである。
具体的に列挙してみよう。

親の愛情が足りなくなるのでは?

人工子宮で産んだ子供に対して、親は愛情を注げないではないか?という疑問は常にある。
お腹を痛めて産んだ子という愛情表現は古今東西見られるものだし、実際に産んだことで母親は子供に愛情を注ぐ意識が芽生えるホルモンも分泌されるという。つまり女性にとっては大きな問題である。
生理的な観点で見れば男性にはほぼ関係がないが、男性に関係がないからといってどうでもよくはない。
とはいえ、代理母や養子縁組の子供でも愛情は注げるものだ。女性には影響あるといえるが、乗り越えられるレベルだと考えている。

国家が子供を管理するのでは?

人工子宮をSF的なイメージで赤ちゃん生産機と考えている人は待って欲しい。
スパルタ等の事例を出して国家管理で人工子宮を使い子供を増産するSF作品と勘違いする人は非常に多い。
そういうSF作品があるから仕方がないが、先述までしたとおり、体外受精した受精卵を培養した胚と人工保育器の間を補完する機械を作るだけ。より高性能な保育器と考えてもいい。

人工子宮は人工心臓や人工腎臓、人工筋肉と同じ臓器や器官の代わりに過ぎない。
人工心臓や人工筋肉が現れた時にも「国家管理されたサイボーグ人間が現れるぞ!」みたいな話はあった。国家管理されたサイボーグ兵士が登場するSF作品もいっぱいある。
しかし、現実は身体的障害があったり、怪我や病気の人の心臓や筋肉を機械で置き換えただけ。国家管理された人工心臓や人工筋肉を備えた機械の身体のヒーローは存在しない。まぁパワードスーツの兵士はいるみたいだが……

クローン人間や遺伝子操作、優秀な人間ばかり作るのでは?

そういうSF作品が有るので、人工子宮があると優生学的思想で優秀な人間ばかり作るようになるのではないか、クローン人間を作るのではないか遺伝子改造するのではないか、たまに間違って化け物を生み出すのではないかと、主張する人も多い。
しかし、まず優勢思想は優秀な精子と卵子を選別する段階の話である。クローンと遺伝子改造も受精卵に対する操作の話である。
人工子宮はあくまで胚が着床してから出産までの話である。着床した後には優生思想も遺伝子改造もクローンも関係ない。

子供が動物化、エイリアン化する!

しません。
なぜか人工子宮で化け物が産まれるホラー作品は多い。
中には動物の子宮で産ませるとか、男性に人工子宮をつけて産む、虫化するとか、爬虫類化するという人もいる。
人工子宮の構造を考えればそんな事はありえない。

人工保育器の事例

先に子宮の機能で胎児においてもっとも重要なのは保温だと述べた。
だから恒温動物の鳥類は必死に卵を温めるのである。変温動物の爬虫類や両生類は意味がないので卵を温めない。

現代は早産や多産の未熟児に対して、人工保育器を使う。
世界で最初の保育器の機能はお湯で保温するだけだった。それでも未熟児の生存率は90%も向上したという。 ちなみに人工保育器ができるまでの未熟児は生きられないので殺処分である。
最近の人工保育器は湿度や感染症予防などいろいろ機能がついているが、最重要の機能は保温である。
現代では欠かせない人工保育器だが、最初は見世物小屋で使うために作られた。

1909年の初期の保育器

未熟児という奇異な存在を大衆に見物させて儲けるビジネスである。「それ、倫理的にどうなの?」と現代の我々は思うだろう。

未熟児というのは当時は奇異な存在なのだ。それを生存させる人工保育器ですら偏見塗れのスタートだったのだから、人工子宮への奇異の視線や偏見はかなり強いだろうという予測はしておかなければならない。
だが同時に、現代の我々が人工保育器を嘲笑し、未熟児を見世物にしていた当時の社会を軽蔑できるように、未来の人々に軽蔑されないようにしたいものだ。

人工胎盤という名称ならいいの?

人工子宮という名称に抵抗があるなら、人工胎盤でもよい。機能的には胎盤の機能だけを機械化するものなので、こちらの方が正しいかもしれない。 「人工子宮は怖いけど人工胎盤ならいいよ」とか言葉遊びが過ぎるが、そういう小細工も世渡りのひとつの手だろう。

欧米の宗教観と人工子宮反対運動

次は欧米の宗教観や政治的立ち位置から人工子宮に反対している人々の一般的な主張を紹介する。もちろん他にも多様な意見がある事は前提である。

欧米のリベラル系フェミニストは中絶は女性の権利、胎児は細胞の塊であると説明する。しかし欧米では、キリスト教的価値観の影響で人工中絶反対の思想も根強い。受胎や出産を神聖視の考え方が強いのである。

欧米最大の祭典、クリスマスとは降誕祭である。受胎告知、出産誕生はキリスト教では極めて宗教的色合いが強い。
昔の西欧の画家で受胎告知を描いていない画家などほとんどいないだろう。それぐらい重要なイベントである。

受胎告知 レオナルド・ダ・ヴィンチ

キリスト教的価値観からすれば、人工子宮なんて神の御業を脅かす非人道的な存在だ。キリストがビニールでできた人工の装置から産まれたら、聖人の魂の降誕を祝いましょう!という気分にならないだろう。それは彼らにとって人間という存在の倫理観が崩壊すると考える。

では、それに対するリベラルは人工子宮に賛成しているかというと、そうではない。
先に述べた通り、アメリカでは代理母がビジネス化している。そして、代理母産業に従事する女性は、言い方は悪いが女性版の自分の肉体を酷使する事しか稼ぐアテのない労働者である。
ところが、人工子宮はその女性の価値を奪ってしまう。人工子宮が実用化されれば代理母産業は壊滅だ。すると代理母という労働で報酬を得ていた女性はどうなる?

さらに男性の中には子供が欲しいから女性と結婚するという層はかなりいる。欧米に限らず世界中でそうだろう。それを喪失すれば妊娠出産能力を持つという女性のアドバンテージは下がってしまう。妊娠出産能力で男性から対価を得ようという女性は、人工子宮が登場するとその能力を安売りしなければならない。
特にフェミニストは、女性の価値を高め、女性の身体は女性の物と考える思想であり、その利益を奪われたくないわけだ。
人工子宮は確実に女性が唯一持つ価値の一部を奪うのである。

このような理由で犬猿の仲である欧米の左右の両陣営は、口を揃えて人工子宮に反対する。 こう整理して考えると、人工子宮反対の理由には彼らにとっては一理ある。
だが、わが日本国や東洋の実情は欧米とは少し異なる。

東洋の倫理観

かぐや姫

日本にはたくさんの童話があるが、もっとも有名なのは桃太郎かぐや姫だろう、知らない人はいないと思う。 このどちらにも、受胎とか魂の受肉みたいな出産を神聖視する考え方はない。桃や竹から生まれた子供を授かるのだ。

また、妊娠に対しても「女性の権利」や「男性から奉仕される利益を得るための手段」と考える女性はあまり見られない。むしろSNSを見ると、年齢等の制限を課されるだけ負担に感じている人が多い。 むしろ「できるなら男が産めば?」と言う人が多い。

導入しても国の文化に馴染まず、受け入れられないことは多々ある。 例えば2の倍数の紙幣、海外では便利に使われている。日本でも「導入したらみんな使うでしょ」と考えられて始まったが、2000円札は日本人は受け入れたと言えるだろうか?

日本に限らず東洋はキリスト教的価値観が薄い。クリスマスを受胎告知だ降誕祭だと母体と出産を神聖視している人は少ないだろう。
日本と同様に少子化問題に直面する中国や韓国は人工子宮の開発を先行するかもしれない。

障害児

人工子宮には大きく公言できない部分がある。倫理的には問題が大きいが、無視はできない。
現代では出生前に障害児かどうかわかる検査がある。 現実として子供を妊娠した夫婦は、検査によって胎児が障害児だと判明すると90%は堕胎を選択する。

これはしょうがない。育てるのは「差別だ!」と文句を言う人達ではない。
人工子宮はさらにはっきりと先天的な障害を見分けられる。「障害を持っていても産まれる権利が~」と声高に言うのは簡単だが、大半の親は健康な子が欲しいのであり、9割は障害があったら受け入れないという選択をする現実から目を逸らしてはならない。

少子化対策と人工子宮

大金持ちで、親権問題を気にしないならなら人工子宮が実用化されているかどうかなんて関係ない。代理母を頼めばよい。子育てもベビーシッターに頼めばよい。外注でなんでもできる。
しかし少子化対策に最も重要なのは一般層だろう。
ここでは何でも外注できる大金持ちではないけれど、一般的な子育てはできる程度の経済力を持つ平均的な家庭を想定する。

体外受精に挑戦する夫婦

先に述べた通り、体外受精に挑戦する夫婦というのは、子供が欲しいから挑戦しているのである。経済力がないから子供ができないわけではない。
43歳未満などの条件を満たし保険適用であったとしても3割負担は重く、回数制限もあり、精子はともかく卵子の採取は大変である。子宮に戻す際の子宮の状態を調整する投薬の負担も極めて大きい。それなのに着床せずに何度も失敗する。
これらを日夜働いている一般の夫婦に長期間強いるのは非常に酷である。大きな時間的負担と経済的損失だ。
子供は産まれてからが大変だというが、それ以前で止まっている年間54万件もの夫婦にとっては、それ以前の問題である。
少子化対策としては、この体外受精に挑戦している夫婦に関しては完全にプラス効果がある。

単身親

女性は結婚せずとも子供を持つことがある。また結婚して子供を作り、即離婚を計画的にやっている例もある。 事例は出さないが、経済的に余裕があれば、子育てに配偶者は必要ないわけだ。
ただし、それができるのは子宮を持つ女性だけ。

男性でも代理母に依頼する事で、結婚せずにたくさん子供を作った事例はある。これは有名な事件となったので例は出さないが、要するに子作りに結婚は必要条件ではないということ。ただし、子宮は必要条件である。

婚活サイトでは、男性の希望女性の鉄板条件は35歳以下である。ダントツだ。若い方がいいからではない。子供が欲しいからである。
つまり、単身で子供を作っている有名人女性のように、自立していてある程度の経済力がある男性は結婚を諦めて人工子宮を使い、単身親として子育てにする件数もあると考えられる。

人工子宮の実用化あるのみ!

人工子宮の実用化による少子化対策の効果は

  1. 体外受精の低い着床率の改善

  2. 子供が欲しい婚活男性の救済

この2点である。
どちらも母数が大きいので、相当な出生数増加が見込める。
プラスして子育て支援対策などの経済対策は必要であるが、人工子宮と経済対策は両立できるものであり、少子化問題の源流部分の改善となるものである。
着床失敗で苦しむ夫婦も、婚活で苦しむ男性も精神的、経済的救済となり、人生に希望ができるため、社会のストレスは軽減されるであろう。

日本がやらなくても、少子化に苦しむ外国が先にやるかもしれない。しかし、倫理的観点でみれば、日本は人工子宮を必要とする土壌は備わっていると考えている。