共生
───2023年4月24日
特にこの日だったことに意味は無い。
ただ、わたしは仕事が休みだったし彼女も予定が無かった。だからその日にした。
わたし達はこの日から、同棲を始めた。
出会ってから丸十年が経った。
その間で「こんな未来があったらいい」というようなことを幾度となく話したことがある。もちろんしょうもない小さなこともあったが、何となくふたりがふたり共に真剣さを混じえつつ話していたこと。
それが、「ふたりで一緒に暮らす」ということだった。
出会った時分は学生だったわたし達も今や社会人となって早五年が経とうとしている。歳を重ねるにつれて現実味を帯びていった「同棲」という未来は、急に確定することになった。
「退職が決定しました」
たくさんの感嘆符と共に送られてきたメッセージ。
ずっと待ち望んでいた朗報は、去年12月に届いた。
元々ブラックじみた職場で働いていた彼女には数年前から再三、早く退職しろと求めてきた。関西圏ではあるものの半同棲すら難しい距離感にいたわたしは、辞めて早くこっちに来て欲しかったのだ。
でも、彼女の職場に苛立つ時間ももう終わりを迎える。
同棲を心待ちにしていたのは、わたしだけでは無かった。
退職決定のメッセージの後には、退職日がいつ頃なのかと共に彼女が使う社宅の期限も添えられていた。引っ越すなら、その辺りが良いと。
わたしは舞い上がった。
思い描いていた未来はすぐそこにある。
と言っても、そう簡単に事は運ばない。
時間もお金もかかるし、何より両親への説明をしなければならなかった。
これはかなりの時間をかけた。端的に言えばわたしがひよった形になる。両親へ、娘が同性愛者であることを告げることがなかなか出来なかった。
そのことによって、引越し作業がかなりタイトになってしまったことは、彼女にお詫びしたいところではある。
紆余曲折を経ながらも何とか引っ越しの算段がついた4月初め。
無事に両親の手伝いを得ながら荷造りを済ませ、片付けが苦手な彼女を慰めながらその日を待った。
そして、4月24日。
わたし達は、夢だった同棲を始めた。
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