🏝ぼくの考えたさいきょうの島旅　1日目

2025年1月25日 12:24

🏝

島旅がしたい。

あるときふと、何か、日常とひと続きでない所へ行きたいと思った。同時に、漠然と頭に浮かんできたのは青い、穏やかな海の風景だった。そうだ、島だ、島に行きたい。そう思うまで時間はかからなかった。
　
どうしたら素敵な島旅ができるだろう、と考えてみた。その島にしかない美しい景色や新鮮な食べ物を楽しみ、喧騒から離れた優雅な時間を過ごす。なるほど、それらを満たす旅は最高のものになるに違いない。

だが、私の考えでは島旅の良さの基準は他にもある。単純明快だ。

『　数　』　である。

島が多ければ多いほど、
より良質な島旅になるのは当然ではないか。
　

やあ！待たせたな諸君！
ここから先は2段落目までみたいなしゃらくさい旅情ポエムではなく、いつも通りよくわからん限界旅行記だ！
読め！読まないなら帰れ！

一日目

▷ 数は確保できるんですか？

幸い、旅の良さを物量で測ろうとするいかつい思想の人間を満足させる場所が日本にはある。瀬戸内海である。中でも私が訪れたのは、広島県西部と愛媛県中央部に挟まれた世界有数の多島海域、芸予瀬戸。したがって、この時点でこの島旅が最高のものになったのは自明で語るべくもないが、どうせならこの先も読んでください。

島旅の数少ない欠点の一つにアクセスする手段が限られることがある。実のところ私は、往復に同じところを通らなければいけないという状況に物足りなさを感じてしまう面倒な性分ゆえに島旅と相性が悪く、これまで島に行く旅はあまりしていなかった。
だからこそ、Twitterにあった上図の航路図(瀬戸内航路全欄図)をはじめて見たとき、とても心惹かれるものがあった。ほとんどの島が橋だけでなく、複数の航路で結ばれている。その数だけでなく、島旅なのに一筆書きの行程が可能、というのも瀬戸内の大きな魅力なのだ。

この海の青と島の緑がモザイク状に入り混じった地図に、いったいどんな旅程を描いてやろうか。それを考えるのが楽しすぎて、結局あまり固まらないまま出発当日を迎えてしまった。まあ、いつものパターンである。

🏝

今回の旅のお供に選ばれたのは、我が愛すべきオンボロロードバイク、轟天号である。noteでは大阪湾一周以来の登場。今回も八面六臂の大活躍を見せるはずである。早速、新神戸駅で分解されて袋に詰められ新幹線のデッキにしばりつけられた。

瀬戸内旅行の開始地点に選んだのは広島県福山駅。新神戸からバリ得こだまで5000円強と案外安い。駅では輪行袋を持った人が何人かいたので仲間意識を感じたが、皆一瞬で自転車を組み立てて去っていってしまった。さすがサイクリングの聖地広島県、練度が高い。袋から出てきた部品がどこのか分からず首を傾げていたのはもちろん私だけである。

▷ 鞆の浦は島旅に入りますか？

福山駅から最初に向かうのは鞆の浦である。崖の上のポニョの舞台にもなったと言われる風光明媚な瀬戸内の町、前から行ってみたかった場所だ。「これだけ島旅島旅と言っといてさっそく島じゃないじゃないか！」という怒声が聞こえるが、世界最大級の有人島「本州」に属してるからいいんだよ！

朝なので力が出ず、えっちらおっちら30分ほど走ると海岸に出た。穏やかな水平線はのっぺりと空に溶けていて、瀬戸内海に来たという感じがする。まあ神戸も瀬戸内海だろと言われればそうなんだが、何となく雰囲気が違うんだよな。

しばらく海岸を走っていると古い家屋が目立ち始めた。鞆の中心部に入ってきたらしい。旧道に立ち寄ると良い感じの路地ばかりで自然と頬が緩むがまずは行くところがある。

海岸に出ると正面に渡船の文字。こじんまりした待合所の左手では黒くてかわいい船が煙を吐いていた。そう、鞆の浦にも島はある！仙酔島だ。

仙酔島には町があるわけではなく、海水浴場と温泉宿だけがある観光地という感じの島である。港町が好きな私としては別段惹かれるものがあったわけではないが、なにせ船の運賃が往復240円。乗らない手はない。

黒い帆船を模した文明開化感ある船は、平成いろは丸という。船内の説明を読むと、鞆の浦は坂本龍馬と彼が乗ったといういろは丸に縁があるらしい。ほーん、と思って読み進めたら、鞆の浦の沖合で龍馬の乗ったいろは丸が他船と衝突・沈没したので４日間ほど鞆に逗留したとのこと。町おこしに使うには微妙すぎる縁では？

島に着いた。なだらかな遊歩道を進むと船着き場と反対側の綺麗な砂浜に出た。うわー綺麗な砂浜だなー、と通り過ぎる。

そのままさらに進むと何でもない磯に出た。うわー磯だー、と立ち止まる。砂浜より、生き物が多い磯が好きだ。なにせ故郷滋賀には砂浜しか無いしカニもいない。

展望スポットへ。海を挟んで鞆の町が見える。海と島と町と船、はやくも瀬戸内に来たぞという達成感で満たされる。惹かれるものがないとか言ったけど、この景色は必須栄養素(海、島、町、船、寺など)を豊富に含んでいて目の保養に良すぎる。

港に戻ってきた。エピソードはともかく船はかわいい。何より、せっかくかっこいい帆船風の舳先の部分を乗降時に邪魔だからと持ち上げたまま航行しているのが横着でかわいい。まあ座礁沈没した船がモデルの船だから元々ちょっとイカれてる。

鞆の町に戻って観光を開始。あまり自己紹介をしていなかったが、私は狭くて風情のある路地に目がない変態なので、鞆の町は自転車で適当に縦横無尽に走り回るだけで最高に楽しかった。

理由はよくわからないがラッキーなことにこの日は資料館が無料になっていた。古い建物が好きなので、無料の字を見て自動的に吸い込まれた。何で古い建物が好きなのか、と考えてみたけどよくわからない。歴史を感じるというよりはデザイン的な好みが大きいが、先人の知恵を感じる機能美と、遊び心のある無駄を兼ね備えた意匠が多いから、単に暗くて落ち着いた雰囲気の場所が生息に適しているだけ、という説も有力である。

丘の上にある博物館も無料開放中で徳利博覧会的なものが開かれていた。徹底的に撮影が禁止されていたので写真はないが、なかなか面白い展示だった。博物館からの景色も良かったので載せておく。外の写真は禁止されていなかったはず、知らんけど。

その後は鞆の港に来てみた。観光客がたくさんいる。ポスターで見たことある灯台があった。この景色でご飯食べれちゃう。

あと、こっちのフェリーが気になる。走島という島に行く船らしい。調べてみると走島へはこの船しか出ておらず、数時間がかりの単振動を余儀なくされるようなので今回は泣く泣くパスした。

まだまだ鞆の素敵すぎる街並みを紹介したい気もするがほっとくとキリがないので、そろそろ離脱としよう。結局予定より一時間くらい長く滞在している。ガバ旅程。

鞆からちょっと行った所にあった信号機。ちょっとかわいすぎるので持って帰りたい衝動に駆られた。どうやら予告信号ではなく行き違いのための信号機だが初見はかなり判断が難しい。どこで止まっとけばいいんだ。

途中見かけた良い路地。ネコは地球で最も路地を愛する種族なので、良い路地にはしばしばネコがいる。そして気付けば写真に写り込んでいる。私はネコは特段好きでも嫌いでもないが、好みな路地にネコを見つけると、コイツなかなかやるな、と密かに仲間意識と対抗意識を抱いている。ネコは大抵、何だコイツ、という目で一瞥して歩き去る。

しばらく坂道を登ると峠のトンネルにたどり着いた。とうとう福山市とお別れか、と思いきや峠の先も福山市らしい。坂を下って海沿いを進む。ちょうど昼時だったので飯が食えるところを探すとラーメン屋を見つけた。まだ福山だが一足早く尾道ラーメンだ。

五臓六腑に染み渡る醤油味。舌からのシグナルを受ける脳神経が過電流で壊れそうなくらいの美味さだ。こういう名物料理は、その本拠地からちょっと離れたところにある店が抜群に美味くて安いことが多いと個人的に思っている。大当たりだった。

そういえばラーメンを食べた後、内海大橋という橋を渡った先にある田島に寄ろうかな、と考えていたのに食べ過ぎでフワフワしてたらすっかり忘れていた。来る途中で撮った写真しかない。数で勝負とかのたまってこのザマだが、まあ島はまだまだ沢山あるしな。

▷ 乗るんですか、乗らないんですか？

瀬戸内を旅する上で自転車と船はとても相性が良い。最初に示した図の航路は基本的にすべて自転車の積載が可能で、こぐのに疲れた時はいつでも船旅に切り替えることができる(しまなみサイクリングのHPでも推奨してるくらいだ)。基本的に自転車のことを歩くより効率のいい移動手段としか見ておらず、できるなら疲れたくない、という一般のサイクリストたちとかけ離れた精神を持つ私には好都合すぎる組み合わせだ。

さらに今回、船＆自転車の旅を盤石なものとするため、せとうちサイクルーズパスというものを手に入れた。無料のクーポン券みたいなものだが、これがあればしまなみ周辺の各地の航路で自転車を積む際に割引があり、自転車があるくせに色んな航路に乗りたい人にはかなりお得である。チケット売り場がある港などで配布されており、私は近くのヨットハーバーで入手することができた。

さあ、サイクルーズパスも手に入れたし、ここからは船旅の時間だ、ということで常石港までやってきた。しかし、ここからフェリーで一気に尾道までワープするつもりだったのだが、鞆の浦を予想以上に楽しんでしまったため、次の便までは一時間ほどある。昼飯も食べて体力にもまだ余裕があるので一時間待つ気にはならない。

航路図を見るとわかるようにこの船はいくつかの港を経由する。そこで、次の満越港まで先回りして船の運賃を浮かせようと考えた。船に乗るのも楽しいが、海岸の平坦な道をのんびり走るのも楽しい。

カーブミラーのなる木。なんか見た目が有機的でかわいい。そこはかとない岡本太郎感がある。

その名も海老公民館。残念ながらエビのための公民館ではなかったが、そもそも地名が「エビ」な時点で良さがカンストしている。私も住所欄に海老とか蟹とか書いて何らかの事務の人を驚かせてみたい。

次の満越港付近まで来たがそれでもまだ30分は時間があった。海岸沿いの道は高低差も風もほとんどないのでへっぽこチャリダーでもそこそこスピーディーに走れてしまうのだ。さすがサイクリングの聖地と言われるだけある。結局そのまま次の港へと走る。

さらに次の港、戸崎港に着いた。港にはかわいい船が停まっており、船頭のおっちゃんが「出るぞ〜」と手を振っていたので「乗りま〜す」と手を振り返して何も考えずに乗り込んでしまった。こういうやり取りは瀬戸の日常の一部になれた気がして嬉しい。どうやら海峡を挟んだ対岸の向島の歌港に行く渡し船らしい。渡りに船とはこのことだ。

鉄板の上にポコっと操船室が載っかってる必要最低限の構造がとてもかわいい。港の名前が「戸崎↔歌」の表記も牧歌的で良い。小船で風に吹かれつつ穏やかな海をのんびり渡るというのは何とも気分がいい。あー、栄養価が高い、満たされる。

唯一の欠点は対岸までが短すぎるという点であっという間に着いてしまった。ちなみに船は普段戸崎港に停泊していて、歌港にあるボタンを押したら来てくれるらしい。押したい衝動に駆られたが迷惑すぎるので必死でこらえた。このボタンできれば玄関に欲しい。

▷ 尾道の扱いが雑ではないですか？

先回りし続けてなんやかんやで向島まで来てしまったが、ここまで来るとさっきの航路を使うメリットがほほぼ無いことに気づいた。まだ20分以上あるのでなんなら自転車の方が早く尾道まで行けてしまう。せっかちが横着を上回ってしまった。

小川の河口から対岸の造船所に停泊する巨大な船が見える。拙者、街角から巨大な物体が当たり前のように見える風景大好き侍にて候。

　海岸の道を走っているとところどころにこういうかわいらしい古い灯台が残っていて何というか、いとをかし、と言いたくなる。堤防が低いので海との距離がすごく近く感じる。

尾道大橋の下をくぐる細い小道を抜けていく。グーグル先生はなんの躊躇いもなくチャリを階段に導くので少し不安だったが、思ったよりは高低差がなくて助かった。景色のいい細い路地は好みなので珍しく素晴らしい誘導である。

橋の下をくぐる時ちょうど貨物列車が来たのでパシャリ。この橋をくぐるといよいよ尾道という感じだ。まあ歌港の時点で尾道市内にはすでに入っているんだが。

途中にあった街角オブジェクト密集地点。うまく形容はできないが、こういうのが良いんですよ、瀬戸は。人生で出会った街角トップ10には入る。

尾道の千光寺の対岸まで来たとき、通り過ぎた汽船は常石港から乗ろうとしていたフェリーだった。ほとんど終点まで来てようやく先を越された。このフェリーはたぶん尾道大橋をくぐって、せまりくる尾道を甲板から存分に楽しめる唯一の定期航路なので機会があればぜひ乗ってみたい。

尾道といえば渡船である。尾道から向島の間には今なお3つの航路があり(昔はもっとあった)、たくさんの人や自転車を積んだ小さい船が行き交っている。生活に密接しているのでやたらと安い。５回くらい海峡を反復横とびしても約1000円である。するか悩んだが自転車を止めておく場所がすぐ見つからなかったのでやめた。

尾道といえば路地である。海を見下ろす山手の景色のいい路地はもちろん、有名な商店街から一本入ったディープな道も見逃せない。

実のところ、私といえば尾道である、と言いたいほど尾道が好きで頻繁に訪れているのだが、この旅行記では多くは語らない。というか語れない。なぜなら連休初日でどこもかしこも人が多すぎて、尾道を心ゆくまで楽しめるような状況ではとてもなかったので、さっさと離脱したからである。何回も来ているし、どうせそのうちまた来るので、それでいいのだ。尾道といえば平日である。

というわけで向かったのはなぜかしまなみ海道方面ではなく、三原である。実は筆者はしまなみ海道を自転車で一回走ったことがあるのだが、その時は時間がなくて尾道から向島、因島を経由し、生口島まで行って折り返してきた。そこで、同じ所を何度も通るのもつまらないので、本州から生口島までショートカットを試みることにしたのだ。

まあショートカットと言っても三原まで行ってしまえば距離はあまり変わらない気もするのだが、尾道から三原の間は山陽本線でもかなり景色がいい区間なのでちょっと気になったというのもある。実際、気持ちいい道だった。交通量多かったけど。

三原港に着いた。いい雰囲気だがここから出ているのは高速船なので、もう少し先の須波港まで行ってフェリーに乗る。フェリーは高速船よりのんびりしているが甲板に出て海の風を楽しめるところが好きだ。しかもフェリーの方が大抵安いので、どちらもあるなら私はフェリーを使うことが多い。

スーパーで買ったアイスを食べながら港付近でぼーっと休憩していると、よく見ると対岸に見慣れた阪急の車両が止まっているのを見つけてびっくりした。三菱の工場があるらしい。

須波港まで来た。ここから佐木島経由で生口島に行くフェリーが出ており、これもサイクルーズパスで安くなる。到着したフェリーは結構混んでるなあ、って、ん？後ろになんかいる？

なにこれ。タンカーとかの艦橋部分のようにも見えるが、こんなトーストみたいな製造過程を挟むものなのだろうか？

慌てて調べみるとやはりタンカーなどの艦橋部分で合っていたようだ。グーグルレンズすごい。巨大すぎて遠くまでずっと見えており、穏やかな海を滑るように移動して島影に消えていく姿はシュールだった。

11月ともなると日が落ちるのがすごく早い。佐木島に寄港した後、生口島に着くともうあたりは真っ暗。宿が分からなくなると困るので慌てたが、なんとか目がきくうちに見つけることができた。

▷ 少し変テコなくらいが良いんですよ？

生口島の港近くの民宿に泊まった。これがなかなかクセの強い宿で印象に残っている。

普通の民家のようないでたちだったので駐車場にある小さい看板を何度も確認してから恐る恐る玄関に入ると、かなり年配のおじいさんとおばあさんが出迎えてくれた。中に入った後はやはり普通の民家のような部屋に案内された。

部屋にはやはり普通の民家のような布団が敷かれていたので、良きかな〜と即座に寝転がって休んでいるとドアをノックされた。もう夕飯かな、と思ってドアを開けるとおじいさんに「他の部屋のテレビが映らなくなっちゃったんだけど、兄さん直せないか」と聞かれて驚いた。面白そうだったので、「自信はないですが」と返事して付いて行ってその部屋に入ったら、おそらく他の客なのだろう夫婦が寝間着で寝転がっていたので仰天。これ入っていいやつ？と思っていたら寝転がったままのおじさんに、「ごめんなあ、こういうの分からんねん頼むわあ」と言われ、さすがに状況が面白すぎて笑ってしまった。テレビはリモコンの入力切替ボタン押したら一瞬で元に戻ったので良かったです。

夕食はダイニングみたいなところでそろって食べたが、思ったより宿泊客が多くて驚いた。全体的によく分からない客層で、高校生らしき女性４人のグループ、赤ちゃん連れの若い夫婦、屈強そうな外国人男性２人、テレビを壊した熟年夫婦、テレビを直した根暗大学院生1人で満員状態。これ推理小説とかだったら、誰か殺された後にそれぞれのここに来た理由と過去が明かされるやつだよなあ、などと不謹慎なことを考えるくらいにバラエティ豊かである。どう考えても最初に犯人と疑われるの私だが。

やや変なところもあるが和気あいあいとしていてしかも安いのでいい民宿である。でもwebサイトは一応あるけど電話以外の予約方法が無いようなそこそこニッチな宿なのだが、外国の方とかどうやって調べたのか気になる。

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一日目を総括する。全体を通して行ったことのない場所を訪問できて楽しかったが、島の数はフェリーで接岸しただけの佐木島と我らが本州を含めても(含めるのかよ)、5つに過ぎない。こんなものではまだまだ最高の島旅とは言えない。だから、増やした。
　
２日目に行った島の数は、１０島以上だ。
したがって、良さも倍以上のはずである。

２日目へ、続く。

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