UNISON SQUARE GARDEN TOUR 2023 "Ninth Peel" next @CLUB CITTA' ライブレポ
はじめに
UNISON SQUAQE GARDENが9枚目のアルバム「Ninth Peel」を引っ提げて回っている今年2周目のアルバムツアー。全国15都市19公演のライブハウスツアーである。本稿は10月31日に行われた、神奈川県川崎市にあるCLUB CITTA'でのツアー初日のライブレポである。
本編
1 スカースデイル
SEの絵の具(r-r ver.)が流れメンバーが全員ステージに登場する。そのSEを止めて斎藤が弾き語り始めたのは、ツアーでは久しぶりの披露となる斎藤作詞作曲の4thシングル「スカースデイル」。原曲と違い「ほんの少しの傷をつけたのなら」と音程までアレンジして歌った後、ドラムの4カウントで曲がスタートする。コロナ禍のオンラインライブで披露された際「30代の2人による最後のコーラスが恥ずかしいけど味が出ている」というようなことを言っていたが、まさしく生で聴くと最後までとってもグッとくる歌詞とメロディ。
2 天国と地獄
「UNISON SQUARE GARDENです。」と静かに名乗った後「ようこそ!」の声と共にお馴染みのライブ限定イントロが鳴らされる。「天国と地獄!」からは音源と同じイントロといういつものバージョン。曲が始まるなり赤と青の派手な照明がステージを禍々しく照らす。先ほど「スカースデイル」でしんみりと良いメロディを会場に染み渡らせたかと思えば、次の曲ではマイナーキーで攻撃性高くフロアのテンションを上げていく。この緩急こそがユニゾンのライブだ。ツアーのセトリ入りは一昨年のPatrick Vegeeツアーぶり。
3 恋する惑星
貴雄がヘッドフォンをはめてピンクの照明と共に始まったのは、今アルバム「Ninth Peel」のリード曲「恋する惑星」。前回のツアーでは本編ラストに置かれていたこの曲が今回はこの序盤に置かれるといきなりライブハウスがハッピーな空気で満たされていくというセットリストのマジック。「アーイヤイヤー」のところの斎藤は笑顔も滲ませとても楽しそう。田淵もタガが外れたかのようにステージを縦横無尽に動き回る。
4 BUSTER DICE MISERY
貴雄による高速4カウント→斎藤がギターイントロを弾いている間にヘッドフォン外しという、セットリストの流れを損なわない且つ自然な、もう職人芸とでも言っていいんじゃないかという物好きならではの興奮ポイントもあったが、アルバム「Dr.Izzy」収録のこの曲はフェスやイベントでは披露されつつもツアーのセットリストに入るのは「Normal」ぶり。派手な間奏では思わずフロアから歓声が上がり、ブレイクの後斎藤の足踏みによって曲が再開される流れはいつ観ても惚れ惚れする。
5 23:25
ドラムによる1発キメと同時にイントロのギターリフが奏でられる。ここまでのマイナーキーのロック曲とポップセンス炸裂のメジャー曲が交互にドロップされるという流れがまさしくユニゾンの音楽性の多様さを表している。曲名の由来となる、2・3・2・5発のキメではタイミングに合わせてファンの手が上がるところでもこの曲の人気が伺える。ずっとシンプルな白い照明だったが、落ちサビの「揺らいでる風景も七色のステージに変えてキラキラ」のところで七色の照明が出てくるのは王道だけど本当にグッとくる。
6 kaleido proud fiesta
再び貴雄がヘッドフォンを装着して、ハイハットのカウントによりまたも「Ninth Peel」収録曲が始まる。ここで驚いたのは斎藤のギターにカポタストがなかったということだ。これまでこの曲はヘッドフォン同期有+ギターカポ有というなかなかない組み合わせだからイントロが始まる前に予想がしやすかったのだが、足元のエフェクターボードで音程を変えているのか?コードの抑え方を変えたのか?詳しくないのでわからないがカポ無しバージョンというのは初めてで面食らった。終始シンプルな照明なのが逆に曲調の華やかさを際立たせつつ、「最後までよろしく!」で会場が沸く。
7 ここで会ったがけもの道
ここで貴雄によるドラムソロが挟まれる。この位置にドラムソロがあるのは初だろう。ここでもセットリストに新鮮さを感じつつ、ギター・ベースが入ってからのセッションはロカビリー調のドラムでどう聴いてもこの曲のイントロにしか聴こえない……でもカップリングだしやるのか……!?と動揺していると斎藤の「けもの道けもけもの道」というウィスパーボイスと共にイントロが始まった。まさかの選曲だったが次の曲を考えると流れ的にはとても合っていた。同じロカビリー風の「MIDNIGHT JUNGLE」も前回のツアーで次の曲と絡められていたので。
8 アンチ・トレンディ・クラブ
前回のツアー"Ninth Peel"とは異なり音源通りのイントロのギターを斎藤が弾くと、フロアからは「Fuuu!!!!」の声が上がった。前回のツアーやフェスで育ってきた印象のこの曲だが、9枚目のアルバムの9曲目ということもあり、改めてアルバム「Ninth Peel」のツアーであるということをアピールするかの如く、背後の「Ninth Peel」ロゴのネオンが本領発揮される。音源とは違い「つよくてやさしい僕たちは」のところではギターによる低音のコード弾きがライブならではの音圧を発揮する。
9 きみのもとへ
続いて貴雄のドラムから始まったのは、3rdアルバム「Populus Populus」収録のこの曲。そのアルバムカラーである黄色の照明でステージが照らされる。ツアーのセトリに入るのは10周年時の「プログラムcontinued」ツアー以来で、アルバム曲を基調としつつも本当に幅広いキャリアから選曲されているセットリストだ。原曲に入っているクラップの部分では田淵がステップを踊り、観客はクラップで応える。原曲のそれぞれ倍の長さのギターソロとベースソロも健在。カッティングギターとうねるベースラインがライブ映えする1曲だった。
10 いけないfool logic
「新曲!」というMCとも言えない短い一言から始まったのは、ツアーの約1ヶ月前にリリースされた19thシングル「いけないfool logic」。「恋する惑星」や「kaleido proud fiesta」でも関わっていた伊藤翼のアレンジによるストリングスやホーンの音が同期音源で煌びやかに響き渡る。間奏の部分の「Uh〜〜」が3人のコーラスによって重なる部分や、急にミュージカル調になる展開の読めなさなど、ライブで聴くと改めてこの曲のしっちゃかめっちゃか感、そしてその先にあるとんでもない多幸感を感じることができた。
11 カオスが極まる
間髪入れず真っ赤な照明と共にライブ限定の特殊イントロが流れる。今やユニゾンの新たなアンセムの1つとなった「カオスが極まる」だ。最近のセトリではフェスも含め必ず演奏されている曲なだけに、ライブで聴くたびにクオリティが上がっていってまさにどんどんカオスが極まっていっている。「いけないfool logic」を華々しく締めてからこれだけ攻撃的な曲を瞬時に叩き込むというとめどなさ。最後は全員が楽器をかき鳴らして曲を終えると共に暗転。「fake town baby」や「Phantom Joke」のような、マイナーキーのシングル曲はこういう場所に置かれがちだなという傾向も見えてきた。
12 もう君に会えない
完全に暗転し、チューニング(&水飲みタイム)を挟んだあとアカペラで始まったこの曲は、「DRIP TOKYO」でアルバムリリース前に披露されてはいたが、前回のツアーではセトリ入りしなかったアルバムのバラード枠だ。ステージに置かれたランプのみのシンプルな照明で、暗い中で演奏されるとこの曲の曲調の、あるいは歌詞のもつ重厚さが際立つ。解釈の仕方は様々だが田淵にしては珍しく彼の内面が描かれている曲で、身近な人を亡くしてしまった喪失感がありありと滲み出ていた。
13 夏影テールライト
ドラムによる3カウントで始まったのは、ユニゾンのライブあるあるの季節外れ季節曲枠。(昨年の秋冬ツアーも「八月、昼中の流星と飛行機雲」がセットリストに入っていた。)オレンジの照明が夏の夕焼けを演出し、ランプが交互に点滅することで夏の淡い思い出を想起させる。MVの淡いランタンの映像を思わせるようなステージ上の風景に思わずグッとくる。一昨年の「Patrick Vegee」ツアーと同様に時折紫の照明も交えつつ、3人のコーラスワークで曲が彩られていく様は音源では体験できない満足感だった。
14 ミレニアムハッピー・チェンソーエッヂ
セクションの最後に4発のキメがあるセッション。ユニゾンお馴染みの、落ち着いた曲ゾーン後のラストスパートを演出するゴリゴリのロックンロール・セッションで次の曲が連想される。裏拍からイントロのギターリフを斎藤が弾き、ベースとドラムが入った後高速で「ミレニアムハッピー・チェーンソーエッヂ!」と1小節でタイトルコールをこなす。まさかこの曲が曲名を言われてから演奏されるような曲だったとは。黄色や赤の照明、Bメロのキメのたびに色を変えるネオン。風穴を開ける1曲だった。
15 世界はファンシー
鈴木貴雄による高速4カウントによってユニゾンの必殺曲が始まる。昨年の「kaleido proud fiesta」以来のツアーセトリ入り。前アルバム「Patrick Vegee」のリード曲として随所で披露されていただけに、1年間身を潜めていたが、久々に演奏されると待ってました!感が強い。お馴染みの緑と紫照明に照らされ妖しい動きをする田淵、2番のAメロを高速ツービートのアレンジで叩ききる鈴木、高速の歌詞をギターを弾きながら涼しげに歌う斎藤。ユニゾンの魅力が詰まったような1曲だったが、M7とは「担当者が不在」繋がり、前の曲とはハッピー繋がりと実は歌詞に導かれた感もある1曲だ。
16 フレーズボトル・バイバイ
原曲のスティック4カウントとは異なり軽いドラムソロからギターとベースが入り、メンバーが曲名を言うのは原曲通り。自然すぎてどこからが本来のイントロかわからないほどだったが、それこそがこの曲自体がユニゾンのもつライブ感を内包している証左であり、斎藤が「この曲がライブでどう映えるかは想像が容易につく」というようなことを言っていたのも納得だ。歌詞についても、ユニゾンの売上ランキングやライブについてのスタンスがわかるようなものになっている。前回のツアー"Ninth Peel"でセトリ入りしなかったからこそ、今ツアーで次の曲との繋ぎが激アツになったのだと今にして思う。「忘れられない今日になった!」
17 スペースシャトル・ララバイ
「忘れたくても忘れない/今を繋いでいく/僕達のスピードで」わかっていてもこの繋ぎには感動せざるを得ない。東京と大阪のHMVでアルバム発売時期に行われていた「Ninth Peel museum」のスタンプラリーの特典パンフレットで田淵が「アルバムを最後まで聴き終えたらもう1周してくれ」と言っていた理由がこの11曲目→1曲目とループする歌詞繋ぎにある。「もう君に会えない」で「君を思い出す」、「アンチ・トレンディ・クラブ」で「君のことも忘れちゃわないか?」「カオスが極まる」で「忘れないでくれ」と歌っている今回のアルバムの2大テーマの内の1つであろう「忘却と思い出」について、これ以上ない答え合わせじゃないだろうか。
もちろん「スペースシャトル・ララバイ」が前回のツアーのセッション後に置かれて「始まり」感を醸し出すような曲に成長したからこそのライブでのこの繋ぎだろうし、落ちサビでテンポを落としながら弾き語るアレンジをする斎藤の姿も、今回のツアーでしか見られないのかなと思うと本当に1枚で2度美味しいアルバムだ。同じ曲でもセトリの置かれ方によって感じるものが変わってくる。田淵がツアーを2周したがっていた意味もわかる。前回のツアーではこの曲でロゴのネオンが降りてきてたが、今回は元からあるロゴのネオンが白と青の光を帯び始めるという、ステージ上の演出の変化も含めて。
18 Invisible Sensation
「ラスト!」の声の後にハイハット4カウントと共に始まった最後の曲だが、この曲はもともと原曲でもライブでもイントロは斎藤1人によるアルペジオと歌のみだったはずだ。オープンハイハットのカウントから、ベースとクラッシュシンバルが表拍のところで入り、「ペースアップしてInvisible Sensation」のところはクレシェンドで徐々にテンションを上げていき、その後は本来の展開に合流するというアレンジ。ライブを重ねていくごとに既存の曲でもまだアレンジの仕方を模索していくユニゾンのライブバンドっぷりには脱帽だ。
「Ninth Peel」のもう1つのテーマは「生と死」だと個人的には思っている。それは身近な人の死を歌った「もう君に会えない」が収録されていることもそうだし、「死にたくなってしまう!」「命はある」「命があるかさえ怪しい」「でっかく生きようぜ」「息をしたくなった」「生きてみたくなった」という歌詞の端々からも感じ取れる。今までとは違いコンセプトを決めずに作り始めたのに(勿論バランスが良くなるように歌詞の手直しはしているが)このように一貫性のあるテーマが浮き彫りになるのはそれこそがユニゾンのもつ死生観だからだ。だからこうやって過去の曲をラストに置いても「生きてほしい!」というメッセージが一貫して響くのである。
アンコール
EN 1 ライドオンタイム
「ユニゾンスクエアガーデンでしたバイバイっ!」の、1分半後くらいにはアンコールを求める拍手に応じてステージ上に戻ってくる3人。鈴木が謎に「オッ!」というような声をあげ斎藤が少しびっくりした後、「おまけ!」の言葉に続いてギターを1発鳴らし、「Ladies & Gentlemen, Ride on time!」の言葉から鈴木のドラムによってアンコール1曲目がはじまる。アンコールやラス前にライドオンタイムが置かれると「CIDER ROAD」や「LIVE (on the) SEAT」のセトリが思い出されるが、記憶の中のライブと同じように田淵は開放弦の時に右手をぶらぶらさせ、斎藤のスタッカートも貴雄の手数の増え方もキレキレで「楽しい」を体現したような1曲だった。
2 mix juiceのいうとおり
鈴木がサンプラーの操作でイントロのピアノを流し始め、すかさずヘッドフォンをつける。前回のツアーと同様アンコールは2曲で「ラスト」と告げることもなくこの曲で最後となったが、TOUR "Ninth Peel"での「kaleido proud fiesta」と同様、虹色の照明と華やかな同期音源でこうもステージを彩られては、この曲で大団円なのだと実感せざるをえない。例えるなら「LIVE (on the) SEAT」での「harmonized finale」と同じく、最後の曲だと言わなくても曲の持つフィナーレ感が客にそれを感じさせるのだ。
今年の夏フェスシーズンでも度々披露されていたし、来年はこの曲にピアノとして参加しているイズミカワソラがゲストで参加する「UNICITY TOUR vol.2」を行うことを発表されているが故に、今回は敢えてセトリには入んないんじゃないだろうかと思っていた。だが考えてみれば多くの人が救われたであろう「今日までの感情が明日を作るから/イライラも後悔も丸ごとミックスジュース」というユニゾン流人生讃歌とも言える歌詞を含むこの曲で締めるのが、「Ninth Peel」のテーマを体現する今回のツアーではピッタリなのだ。ステージ上で戯れる田淵と斎藤を見ながら、また動きで観客に目一杯の愛を伝える鈴木を見ながら、今回のツアーも来れて本当に良かったなと、有り体に言うと生きていて良かったなと思った。
まとめ
11曲目の最後と1曲目の最後の歌詞が繋がっていることで、回る惑星のように、あるいはチェーンソーの回転する鎖のように、流行に反しアルバムとして何周もしたくなるような構造になっているアルバム「Ninth Peel」。その2周目のツアーのセットリストと演出として、これ以上ないような正解を見せつけられた。「きみのもとへ」「ここで会ったがけもの道」などのレア曲や、アルバムリリース後に出た新曲も織り交ぜつつも、振り返ってみるとアルバム曲のうち8/11が演奏されているという紛れもないアルバムツアーだった。
前回とツアーと演出面で若干違ったのは、終盤になるにつれて「Ninth Peel」収録曲ではなくても「Ninth Peel」ロゴのネオンが華やかに輝いていたこと。前回のツアー1周目と怒涛の大型イベント出演を経てこの「Ninth Peel」というアルバムがユニゾンというバンドによく馴染んだからこそ、過去の曲でもこのアルバムと一貫したテーマを想起させられる。言うなれば「ユニゾンのNinth Peelツアー」ではなく「Ninth Peelをリリースしたユニゾンのツアー」という感じだろうか。こんな最強のセットリストを組める田淵智也は天才だし、これをこなせるユニゾンの3人はやっぱり唯一無二のロックバンドだ。