私はあなたの、「考える姿勢」が好き。
人間を天才型と努力型の二種類に分けるとしたら、私はどうしても努力型の人に惹かれてしまう。
華々しくスポットライトを浴びる人よりも、その裏でいつも堅実に活躍しつづけている人の方に注目してしまう。
それはきっと、才能のない私でも努力によって最高の舞台に立てるはずだという希望を抱かせてくれるからなのだと思う。
努力型の人たちの共通点は、努力の仕方を論理的に説明できるところにあると思う。
一見天才に見える大谷翔平やダルビッシュも、インタビューを読むとその練習を何のためにやっているのか、どんな意識でやっているのかを事細かに説明できることに驚く。
常に昨日までの自分に疑問を持ち、より成果を出すには何が必要なのかを考える。
努力型で成功している人たちは、みな一様に自分の頭で考え、実行している。
「考える努力型」といえば、私にとっては今永くんが真っ先に頭に浮かぶ。
一時は「投げる哲学者」とも呼ばれていたほど、自分の考えを謙虚に言葉にしてきた選手だ。
大卒1位でプロ入りした期待のホープだったが、ルーキーイヤーは好投してもなかなか勝ちに恵まれなかった。
そのとき彼が口にしていたのは、「援護がないという言い訳は防御率0点台の投手だけが言える」という自分を戒める言葉だった。
インタビューでは似たような言葉を並べる選手も多い中、自分の言葉で受け答えする姿を見て、感覚ではなく論理的に野球をしている選手なのだろうな、と思ったのが今永くんの第一印象だった。
その印象に確信を持ったのは、ひょんなことから今永くんの大学時代のインタビュを読んだときだった。
このとき、今永くんは大学3年生。
21歳にしてここまでしっかり自分の考えを持ち、かつそれを言葉にできていることに驚いた。
さらに高校は進学校に通い、練習時間は1日あたりたった2時間半しかなかったという。
私立の強豪校はほとんどが午後のすべての時間を練習に費やし、スポーツの成績さえよければ学業成績が厳しく問われないところも多い。
しかし今永くんは学業と野球を両立しながら、効率的な練習を考え本当の意味での「ハードワーク」を行うことで、プロへの道を切り開いてきた。
彼の考える力は、この時期からすでに育まれてきたものなのだ。
そしてインタビューの最後に、彼はなりたい投手像についてこう語っていた。
今の自分の課題は調子が悪くても試合が作れて勝てる投手になることです。
この言葉を目にしたとき、はじめてピッチャーという役割の意味を理解した気がした。
プロ野球において、先発ピッチャーは1年間投手ローテーションを守らなければならない。
十何試合も投げていれば当然調子の良し悪しもあるし、苦手なチームや球場もある。
しかしエースは「勝ち」を計算できる投手であることが求められている。
コントロール不可能な投手の「調子」にチームの勝敗が左右されてはいけないのだ。
だからこそエースはたとえ調子が悪い日でも悪い日なりに試合をまとめ、後続につなげて勝てる可能性を高める必要がある。
「負けないこと」こそが、彼らの仕事なのだ。
今永くんはその発言から「意識が高い」と表現されることも多いが、彼の魅力は行動の意識も高いところにあると思う。
それを改めて感じたのが、プレミア12の合宿時に今永くんの機内での内転筋トレーニングの様子を投稿したヤスアキ広報のツイートだった。
ツイートではやや茶化しながら書いていて、その後「内転筋おじさん」と呼ばれるようになってしまったのだけど、私はこの投稿を見て今永くんの本気度に感心してしまった。
食事や姿勢に気をつける選手は多いだろうが、日常生活の中でここまでトレーニングを意識している選手もそういないのではないかと思う。
インタビューを読んでいるかぎりでは普段の努力を声高に主張するタイプではないからこそ、日々の小さな積み重ねにも気を配る努力がより胸に迫ってきた。
それっぽいことを言うだけなら誰にでもできる。
でも彼の言葉に重みがあるのは、自分が発した言葉に嘘も衒いもなく、その反省を実際に行動に移しているからなのだと思う。
三振を取れる投手ではなく、勝てる投手がいい投手。
力のない人間は練習するしかない。
今永くんはいつも、自分にできるかぎりの努力をする。
そしてその努力を最大化するために、いつも必死に考えている。
インタビューを読むたびに、「なぜこれをやるのか」「どんな考えでこれに至ったのか」をいちいち説明できることに驚かされる。
そんな頭のよさに加えて、言葉に温度をのせるために自分ならではの言葉を選ぶセンスもまた今永くんの魅力だ。
まじめに、実直に、ひとつの道を歩み続ける人。
今日も私たちは、彼の背中にベイスターズの未来を見ている。
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