あなたが「あなた」になるまでの道のり
「私の場合、相手の少年時代のことやふるさとの話を聞きたくなったら、あ、恋かなと思う。」
こう言ったのは俵万智だった。
それからは、人とふるさとの話をするたび、この一文を思い出す。
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恋愛に限らず、人として好きな人たちとは、それぞれの地元の話をしたくなる。
前述のエッセイで俵万智も言っていたけれど、きっとそれが一番その人の芯や核となるものだからだと思う。
同じような田舎に見えてもそれぞれの空気のかおりは少しずつ違っていて、私たちの間のちょっとした違いを形成している。
これは方言をもつ人特有の感覚なのかもしれないけれど、標準語を話す自分と地元の方言を話す自分とでは、微妙に人格が違う。
さらに言えば、方言で話すとき、私の精神レベルは18歳に引き戻される。
東京で積み上げて来た10年余の時間は、すべてなかったことになるのだ。
だからときどき地元に帰ると不思議な気分になることがあるし、一度友人を実家に招いたときは言語的にも人格的にも大混乱だった。
そんな経験をするたび、人は想像以上に多面的で、複雑で、奥深い生き物だなあと思うし、みんなのそういう「地元の顔」をのぞいてみたいなと思ったりする。
それは別の顔というよりも、これまで積み重ねてきたものが、綺麗な一本道じゃなくあちこち分岐している状態なんじゃないかと思う。
つまり、人のふるさとに行くということはきっと、その分岐した脇道に迷い込むということなのだ。
最近めっきり旅をしなくなったけれど、そういう「人」を中心に据えた旅もいいなあ、と思う。
あなたが、「あなた」になるまでの、長い長い道のりを辿って。
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(Photo by tomoko morishige)
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