日本語固有名詞由来の【◯◯ちゃん】における各言語表記
令和2年にユーチューバー兼お笑い芸人の“フワちゃん”さん、同3年にピアニストの“ハラミちゃん”さんといったちゃん付け芸名の有名人が大ブレイクしたり、uhb北海道文化放送他で令和4年放送開始予定のアニメ『邪神ちゃんドロップキックX』のエキュートオーディションのファイナリストとして注目を集めたソロアイドルの“絵恋ちゃん”さんや令和3年12月にちゃん付け芸名に改名したタレントの“でか美ちゃん”さんなどファンに注目されているもので、ちゃん付け芸名の有名人がムーブメントを起こしている雰囲気です。
テレビ朝日系アニメ『クレヨンしんちゃん』が平成4年から続く長寿作品となり、劇場版も原則的に年1回発表されています。
今回は日本語由来の【◯◯ちゃん】に由来する各言語の表記を取り上げます。
各言語公式の日本語翻字と異なる綴りが目立っているようです。
ちなみにトップ画像は日本の有名人の各言語表記になっています。ヒントは先ほど名前が挙がった近年話題の有名人です。
ラテン文字及びその派生文字
日本語ローマ字の訓令式では〈-Tyan〉という風に英語の各種敬称に合わせて語頭を大文字で示すルールとなっています。
フランス語やドイツ語、ラテン語、マレー語などではヘボン式ローマ字表記を尊重した〈-chan〉で表記するのがルールとなっていますが、各言語本来の発音と著しく異なるので注意が必要です。
【-chan】英、スペイン - ヘボン式の綴りと共通。
【-ciengq / -cieŋƽ】チワン - 後述の中国語《酱》からの推測。
【-csan】ハンガリー - ロヴァーシュ文字表記では〈𐳆𐳀𐳙〉となる。
【-czan】ポーランド
【-ćan】ロマーニー
【-ĉan】エスペラント - 人名の場合に名詞を示す《-o》は付加しない。
【-čan】チェコ、スロバキア、セルビア・クロアチア
【-čana】ラトビア[チャナ] - 女性形。
【-čans】ラトビア[チャンス] - 男性形。
【-ċan】マルタ
【-çan】アルバニア、トルコ、トルクメン、クリミア・タタール
【-txan】カタロニア
【-tyan】アゼルバイジャン - 訓令式の綴りと共通。
【-ᏣᏂ / -ꮳꮒ / -tsani】チェロキー[ツァニ/ツァン]
ギリシャ系文字及びその派生文字
【-τσαν】ギリシャ
【-ϭⲁⲛ】コプト
【-𐍄𐍃𐌾𐌰𐌿】ゴート
【-тян】ロシア、カザフ、キルギス
【-тјан】アゼルバイジャン - キリル文字表記。
【-цхан】セルビア、ボスニア、マケドニア - ラテン文字表記からの翻字。
【-цян】ベラルーシ
【-чан】ブルガリア、セルビア、マケドニア、タタール
【-чиан】アブハズ
【-чян】ウクライナ
【-չան】アルメニア
【-ჩანი / -ᲩᲐᲜᲘ / -Ⴙⴀⴌⴈ】ジョージア、メグレル[チャニ] - 語中では名詞化接尾語の《-ი / -Ი / -ⴈ》[イ]が省略される。
アラビア系文字
【تشان-】アラビア[チャーン] - つなぎにハイフンを用いるが、文字コードやブラウザ表示の関係上、省略される場合がある。
【چان-】ペルシア[チャーン]、ウイグル[チャン] - ウイグル語ではつなぎにハイフンを用いるが、ペルシア語ではZWNJ合成でしんちゃんの〈شینچان〉のように連結をしない形式となる。
【چین-】パシュト[チャン]
【ـچین】ウルドゥー[チャェーン]、西パンジャブ
【شان-】エジプト・アラビア[シャーン] - フランス語で〈-chan〉はシャン[-ʃɑ̃]と発音される解釈からの借用語。
【ޗާން】ディベヒ[チャーン]
アジアのアラム系文字
【־גֿאן / ־גﬞאן / ־ג׳אן】ラディノ[チャン] - 3種類の表記が存在し、本来チャ行〈CH・Ch・ch〉[ʧ]とヂャ行《J・j》[ʤ]はヘブライ文字表記では区別されないため、チャ行を《גֿ》, ヂャ行をヘブライ語と共通の《ג׳》という風に使い分けるように思われる。
【־טשאַן】イディッシュ[チャン]
【־צ׳אן】ヘブライ[チャン]
【ܬܫܢ】アッシリア現代アラム[チャン]
インド系文字
インド諸言語では英語の〈-chan〉の発音が[-ʧæn]になる影響を受けた綴りが多いようです。
【-चान् / -𑌚𑌾𑌨𑍍】サンスクリット[チャーン]
【-चैन】ヒンディー[チャェーン]、ビハール
【-चॅन】マラーティー[チャン]
【-च्यान】ネパール[チャン]
【-छान / -𑐕𑐵𑐣】ネワール[チャン] - 有気音。
【-চ্যান】ベンガル[チャェン]
【-চ্চান】アッサム[ッサン] - 日本語の敬称のひとつである“さん”とほぼ同じ。
【-চেন】アッサム[チェン]
【-ਚਾਨ】パンジャブ[チャーン] - 西パンジャブ語のグルムキー文字翻字では〈-ਚੈਨ〉[チャェーン]。
【-་ཅཱན་ / -་ཅཱན།】ゾンカ[チャーン]
【-་ཆང་ / -་ཆང།】チベット[チャン]
【-ꯆꯥꯟ】マニプーリ[チャーン]
【-ચાન】グジャラート[チャーン]
【-𑂒𑂶𑂢】ビハール/ボージュプリー[チャェーン]
【-𑒔𑓂𑒨𑒰𑒢】マイティリー[チャーン]
【-𑠏𑠬𑠝】ドーグリー[チャーン]
【-𑚏𑚭𑚝】カーングリー[チャーン]
【-ଚାନ୍ / -ଚାନ】オリヤー[チャン] - ハイフンで区切らない場合は、しんちゃんの〈ଶିନ୍-ଚାନ୍➡ଶିନ୍ଚାନ୍〉のように子音字がヴィラーマ合成で融合される。
【-ᱪᱟᱱ】サンタル[チャン]
【-சான்】タミル[チャーン]
【-చాన్】テルグ[チャーン]
【-ಚಾನ್】カンナダ[チャーン]
【-ചാൻ】マラヤラム[チャーン]
【-චාන්】シンハラ[チャーン]
【-චෑන්】シンハラ[チャェーン] - 英語経由で借用される場合に用いる。
【-ချန်】ビルマ[チャン]
【-စ္ယာန / -cyāna】パーリ[チャーナ]
【-ဆာန်】モン[チャーン]
【-ၶျၼ်ႉ】シャン[チャン]
【-ចាំង】クメール[チャン]
【-จัง】タイ[チャン]
【-ຈັງ】ラオ[チャン]
【-ꦕꦤ꧀】ジャワ[チャン]
【-ᬘᬦ᭄】バリ[チャン]
【-ᮎᮔ᮪】スンダ[チャン]
【-ᨌ , -ᨌᨊ】ブギス[チャン] - 本来の表記は前者の末子音省略方式で、後者はア段母音を除去した発音となる表記。
【-ᨏ , -ᨏᨊ】ブギス[ンチャン] - 語中に“ン”が含まれている場合の表記。
【-ᜆ᜔ᜐᜈ᜔】タガログ/フィリピノ[チャン]
【-ᜦ᜴ᜰᜨ᜴】ハヌノオ[チャン/ツァン]
【-ᝐ】ブヒッド[チャン] - 子音のみの発音は表記されないのがルールのため、フィリピン諸語ラテン文字翻字での“ちゃん”の〈-tsan〉と“さん”の〈-san〉がブヒッド文字では同一表記となる。
【-ᝰ】タグバヌワ[チャン] - 子音のみの発音は表記されないのがルールのため、フィリピン諸語ラテン文字翻字での“ちゃん”の〈-tsan〉と“さん”の〈-san〉がタグバヌワ文字では同一表記となる。
漢字と東アジアの文字
台湾では台湾語で運転手の意味の〈運匠 / Ùn-chiàng〉[ウンチャン]から、[ちゃん]の当て字として《匠》を当ててきたのですが、近年は漢字圏では醤油の《醤》を[ちゃん]の当て字とすることが多くなっています。
台湾語・台湾華語《匠》と醤の中国語表記《醬・酱》はいずれもピンイン表記で〈Jiàng〉[ジアン]と綴られ、同一発音になっています。
ちゃん付け芸名の訳語は、フワちゃんさん=〈不破醬/不破酱/不破匠〉さん, ハラミちゃんさん=〈哈拉美醬/哈拉美酱/哈拉美匠〉さん, 絵恋ちゃんさん=〈繪戀醬/绘恋酱/繪戀匠〉さんのように表記されるのが近年漢字圏で目立っています。
【-醬 / -酱 / -jiàng】中国[ジアン] - 本来は〈小-〉[シャオ]が日本語の“ちゃん”の訳語に用いる表記(例 : クレヨンしんちゃん➡『蠟筆小新 / 蜡笔小新』, 邪神ちゃんドロップキック➡『小邪神飛踢』)。
【-匠 , -醬 / -ㄐㄧㄤˋ】台湾華[ジアン] - 前者は台湾本来の日本語の[ちゃん]の当て字で、ピンイン表記は《醬・酱》と同じく〈jiàng〉。
【-匠 ,-醬 / -chiàng】台湾[チアン] - 前者は台湾本来の日本語の[ちゃん]の当て字。
【-酱 / -jian】上海[ジアン]
【-醬 / -zoeng³】広東[ジョエン]
【-짱】韓国[ッチャン] - 濃音で表記。漫画『少年アシベ』のゴマちゃんのハングル表記〈고마짱〉のようにアニメや漫画のキャラクターに用いられる場合がある。
【-쨩】韓国[ッチャン] - 濃音で表記。発音が同一の《짱》で表記される場合がある。
【-찬】韓国[チャン] - 韓国語本来の日本語表記法に沿った表記。男女混成ユニットの“神聖かまってちゃん”の場合は、쨩ではなく〈신세이 카맛테찬〉と《찬》を用いる。
【-ちゃん / -caɴ】沖縄
【-チャン / -can】アイヌ
その他の文字
【-ቻን】アムハラ[チャン]
【-ⵜⵛⴰⵏ】アマジグ[チャン]
【-ꕦꘋ】ヴァイ[チャン]
【𞤷𞤢𞤲】フラニ[チャン]
【-ᓵᓐ】イヌイット[サーン] - 日本語の敬称のひとつである“さん”と同じ。
トップ画像のクイズの答え
1. ジョージア語で #フワちゃん さん。
2. マニプーリ語で #ハラミちゃん さん。
3. チェロキー語で #絵恋ちゃん さん。
4. アムハラ語で #でか美ちゃん さん。