いろいろな言語でアポストロフィー
8月15日は国際アポストロフィーの日、9月9日はドイツでアポストロフィーの日です。
いずれも句読点の一種であるU+0027《'》及び本来の字形でユニコードではU+2019に配置されている右シングル引用符《’》の記念日です。
英語では“呼びかけ”の意味もアポストロフィーと同じ〈Apostrophe〉と表記され、言語学における訳語は〈頓呼法〉となります。
日本では国際音声記号におけるU+02BC《ʼ》はフランス語由来のアポストロフと呼称され、放出音を表します。
ツイッター時代のXでU+02BCを使用することによるアポストロフィーのハッシュタグ対応が実現しました。ちなみに1989年〈平成元年〉8月に国際音声学協会のキール会議で国際音声記号の大幅改訂の会議が行われ、同年に現行の国際音声記号の基盤が生まれました。
今回はいろいろな言語でアポストロフィーを取り上げます。
アポストロフィー系統
英語からの借用語はインド系文字使用言語に多く見られ、インド諸言語の一部では英語由来の語頭《A》は曖昧母音ア[ə]と解釈されるグループと前舌母音アェ[æ]と解釈されるグループに大別されます。
【Apostrophe】ほとんどのラテン文字使用言語
【Apostrophee】マン島
【Apostrofe】ノヴィアル、ケチュア、アイマラ、クリオ
【Apostrofi】フィンランド、マルタ、スワヒリ
【Appostrophe】オロモ
【Apustrupi】セブアノ
【Ahbohswhdwzkwzfeih / Aƅboƅsɯƅdɯƨlɯƨfeiƅ / 阿波斯特勒菲】チワン - 南極の地名“アポストロフィー島”など固有名詞に用いる。
【Αποστροφή】ギリシャ - 英語では“呼びかけ”が〈Apostrophe〉と同綴となることからその語源と同じ表記。
【Ἀποστροϕή , Ἀποστροφή】古典ギリシャ - 呼びかけの意としてのアポストロフィーの語源。本来は“免れる, 逃げる; 漏れる”の意。
【Апострофе】モンゴル
【აპოსტროფი / ᲐᲞᲝᲡᲢᲠᲝᲤᲘ / Ⴀⴎⴍⴑⴒⴐⴍⴔⴈ】ジョージア
【აპოსტროჶი / ᲐᲞᲝᲡᲢᲠᲝᲶᲘ / Ⴀⴎⴍⴑⴒⴐⴍɸⴈ】ラズ
【ᎠᏉᏍᏠᏈ / Aquostloqui】チェロキー
【اپاسٽرافي】シンド
【اپوسٹروفی】ウルドゥー
【آپاستروفی】ペルシア、ダリー
【އަޕޯސްޓްރޯފޭ】ディベヒ
【अपॉस्ट्रॉफ़ी】ヒンディー
【अपोस्ट्रॉफी】コンカニ
【अपोसट्रफी / 𑌅𑌪𑍇𑌸𑍍𑌟𑍍𑌰𑌫𑍀】サンスクリット
【ॲपॉस्ट्रॉफी , ऍपॉस्ट्रॉफी】マラーティー - チャンドラA《ॲ》とチャンドラE《ऍ》は同一母音記号且つ同一発音。
【एपॉस्ट्रॉफी】ラジャスターン
【एपोस्ट्रोफी】ネパール
【অ্যাপস্ট্রফি】ベンガル
【এপোসট্রফি】ビシュヌプリヤ
【এপʼষ্ট্ৰফী , এপষ্ট্ৰফী】アッサム
【ਐਪੌਸਟ੍ਰਾਫ਼ੀ , ਐਪੌਸਟ੍ਰਾਫੀ】パンジャブ
【𑐊𑐥𑑀𑐳𑑂𑐚𑑂𑐬𑑀𑐦𑐷 / एपोस्ट्रोफी】ネワール
【એપોસ્ટ્રૉફી】グジャラート
【𑂉𑂣𑂷𑂮𑂹𑂗𑂹𑂩𑂷𑂤𑂲 / एपोस्ट्रोफी】ビハール/ボージュプリー
【𑒋𑒣𑒼𑒮𑓂𑒙𑓂𑒩𑒼𑒤𑒲 / एपोस्ट्रोफी】マイティリー
【ଆପୋଷ୍ଟ୍ରୋଫି】オリヤー
【ᱟᱯᱚᱥᱴᱨᱚᱯᱷᱤ】サンタル
【அபோஸ்ட்ரோஃபி , அபோஸ்ட்ரோபி】タミル
【అపాస్ట్రఫీ】テルグ
【ಅಪಾಸ್ಟ್ರಫಿ】カンナダ
【അപ്പോസ്ട്രോഫി】マラヤラム
【අපෝස්ට්රොෆි】シンハラ
【အပေါဘ္ဋြောဖီ / Aposṭrophī】パーリ
【อะพอสทรอฟี】タイ
【ᜀᜉᜓᜐ᜔ᜆ᜔ᜇᜓᜉᜒ / Apostrope】タガログ/フィリピノ
【ᜠᜩᜳᜰ᜴ᜦ᜴ᜭᜳᜩᜲ】ハヌノオ
【ᝀᝉᝓᝍᝓᝉᝒ】ブヒッド
【ᝠᝩᝳᝮᝳᝩᝲ】タグバヌワ
【阿波斯特勒菲 / Ābōsītèlèfēi】中国 - 南極の地名“アポストロフィ島”など固有名詞に用いる。本来の名称は部首のの部《丿》に形状が似ていることに由来する〈撇號 / 撇号 / Piěhào〉で、ピンインに用いられるものは〈隔音符號 / 隔音符号 / Géyīn fúhào〉と呼称。
【阿波斯特勒菲 / ㄚㄅㄛㄙㄊㄜˋㄌㄜˋㄈㄟ】台湾華 - 南極の地名“アポストロフィ島”など固有名詞に用いる。本来の名称は〈撇號 / ㄆㄧㄝˇㄏㄠˋ〉で、ピンインに用いられるものは〈隔音符號 / ㄍㄜˊㄧㄣ ㄈㄨˊㄏㄠˋ〉と呼称。
【阿波斯特勒菲 / Aa³bo¹si¹dak⁶lak⁶fei¹】広東 - 南極の地名“アポストロフィ島”など固有名詞に用いる。本来の名称は〈撇號 / Pit³hou⁶〉で、ピンインに用いられるものは〈隔音符號 / Gaak³jam¹ fu⁴hou⁶〉と呼称。
【阿波斯特勒菲 / Ā-pho-su-te̍k-le̍k-hui】台湾 - 南極の地名“アポストロフィ島”など固有名詞に用いる。本来の名称は〈撇號 / Phiat-hō〉で、ピンインに用いられるものは〈隔音符號 / Kek-im hû-hō〉と呼称。
【阿波斯特勒菲 / Àbusidheklekfi】上海 - 南極の地名“アポストロフィ島”など固有名詞に用いる。本来の名称は〈撇号 / Pîkhhao〉で、ピンインに用いられるものは〈隔音符号 / Gâkyin vúhhao〉と呼称。
【아포스트로피】韓国
アポストロフ系統
フランス語由来で、東ヨーロッパのラテン文字使用言語やキリル文字使用言語に多く見られます。
【Apostrophe】フランス
【Apostroph】ドイツ、ルクセンブルク
【Apostrof】オランダ、西フリジア、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、ルーマニア、チェコ、スロバキア、ポーランド、セルビア・クロアチア、ボスニア、スロベニア、高地ソルブ、低地ソルブ、クルド、トルコ、アゼルバイジャン、ウズベク、トルクメン、インドネシア
【Apostrof / 𐔀𐔗𐔖𐔛𐔝𐔙𐔖𐔉 / 𐕰𐖯𐖮𐖳𐖵𐖱𐖮𐖠】アルバニア - 呼びかけの意は〈Apostrofë / 𐔀𐔗𐔖𐔛𐔝𐔙𐔖𐔉𐔈 / 𐕰𐖯𐖮𐖳𐖵𐖱𐖮𐖠𐖟〉。
【Apostrofe】ワロン、ピカルディ
【Apostrofs】ラトビア
【Apostroof】アフリカーンス、エストニア
【Apostròf】オック、パピアメント
【Apostwòf】ハイチ
【Aposztróf】ハンガリー
【Apòstrof】カタロニア
【Apastróf / Ɑpɑꞅꞇꞃóꝼ】アイルランド
【Апостраф】ベラルーシ - 呼びかけの意のアポストロフィーは〈Апастрофа〉となり、アクセント変化でオー《О・о》からア《А・а》に変化。
【Апостроф】ほとんどのキリル文字使用言語 - アクセントは〈Апо́строф〉と〈Апостро́ф〉のいずれかとなり、セルビア語では〈А̀построф〉となる。
【Ապոստրոֆ】アルメニア - アルメニア語本来のアポストロフィであるアパタルツ《՚》は〈Ապաթարց〉と表記され、古典ギリシャ語“Apostrophos”と同じ語源である。
【Ափոսթրոֆ】西アルメニア - アルメニア語本来のアポストロフィであるアパタルツ《՚》はアルメニア本国と同様〈Ապաթարց〉と表記されるが、無声破裂音子音字の有声音変化でアバタルツに変化している。
【אפוסטרוף】ヘブライ
【אַפּאָסטראָף , אַפּאָסטראָפֿע】イディッシュ
【ابوستروف】エジプト・アラビア
【اپسٹروف】ウルドゥー
【اپوستروف】カザフ
【اپوسټروف】パシュトー - 別名称では〈اسټروپروف〉[アストロプロフ]で、ユニコードコンソーシアムのCLDRに見られる。
【اڤوستروف】ジャウィ
【أبوستروف】アラビア
【أپوسطروف】モロッコ・アラビア
【آپاستروف】ペルシア、ダリー
【آپوستروف】ペルシア、南アゼルバイジャン
【آپۉسترۉف】ボスニア
【ئاپوستروڧ ، ئاپوستروف】ウイグル
【ئەپۆسترۆف】ソラニー
【एपोस्ट्रोफ】ネパール
【एपोस्ट्रोफ़】ヒンディー
【এপʼষ্ট্ৰোফ , এপষ্ট্ৰোফ】アッサム
【ꯑꯦꯄꯣꯁ꯭ꯠꯔꯣꯐ / এপোস্ত্রোফ】マニプーリ
【𑠆𑠞𑠵𑠩𑠹𑠔𑠹𑠤𑠵𑠟𑠺 / एपोस्ट्रोफ़】ドーグリー
【ଆପୋଷ୍ଟ୍ରୋଫ୍ , ଆପୋଷ୍ଟ୍ରୋଫ】オリヤー
【អាប៉ូស្ត្រូប】クメール
【ꦄꦥꦺꦴꦱ꧀ꦠꦿꦺꦴꦥ꦳꧀ / Apostrof】ジャワ
【ᬅᬧᭀᬲ᭄ᬢ᭄ᬭ᭄ᭀᬧ᭄】バリ
【ᬅᬧᭀᬲ᭄ᬢ᭄ᬭ᭄ᭀᭈ᭄】ササック
【ᮃᮕᮧᮞ᮪ᮒ᮪ᮛᮧᮖ᮪】スンダ
【አፖስትሮፍ】アムハラ
【ኣፖስትሮፍ】ティグリニャ
【ⴰⴱⵓⵙⵜⵔⵓⴼ】アマジグ
【ⴰⵒⵓⵙⵜⵔⵓⴼ】リーフ
アポストロフォ系統他
アポストロフィーは本来、古典ギリシャ語で“反れる”の意であるアポストロポス系統に由来し、“~を離れて”の意の〈ἀπό / apo〉[アポ]と“向きを変える”の意の〈στρέφω / strepho〉[ストレポー]の合成語となっていて、アポ・ストロフィーという構成になっています。
【Apostrophus】ラテン
【Apostropho】インターリングア
【Apostrofas】リトアニア
【Apostrofo】イタリア、エスペラント、イード
【Apostrofu】マルタ
【Apostrofoa】バスク
【Aposítofù】ヨルバ
【Apòstrofo】ヴェネト
【Apòstrufu】リグリア、シチリア
【Apóstrofo】スペイン、ポルトガル、ガリシア、ユカテク・マヤ
【Apóstrofu】アストゥリア
【Appostrofu】マルタ
【Απόστροφος】ギリシャ - 本来のギリシャ語における省略記号としてのアポストロフィの呼称はコロニス《᾽》で、古典・現代共に〈Κορωνίς〉と表記。
【Ἀπόστροϕος , Ἀπόστροφος】古典ギリシャ - ファイ《Φ》の小文字は国や地域によって現行字形《φ》とファイシンボル《ϕ》と異なり、日本ではファイシンボルが正字とされている。