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注音符号による外来語表記用字母
11月23日は1918年のこの日に注音字母、すなわち注音符号が公布された日で、注音符号の日のように思うものです。
注音符号とは、中国語北方官話から派生した台湾華語の初等教育で繁体字の発音を示すためにルビなどに用いられる発音表記用文字です。
注音符号制定当初は“注音字母”と呼称され、漢字に代わる中国語の新文字とされていました。
現在は台湾で擬音語・擬態語や方言音、漢字で表記できない台湾華語の単語(例 : 英語の性別不問3人称単数形のtheyに対応する〈ㄊㄚ〉/tā/ [ター])、まれに外来語を表記する表音文字として注音符号の使用が増えてきています。
趙元任式注音字母訳音法
1921年に『官話字母訳音法』(趙元任・著)で発表された注音符号で外来語を表記する方法で、注音符号にいくつかの字母が追加されています。
ウィキバーシティで字母表がありますが、ユニコードに存在しない字母は原著と著しく異なっています。
子音字一覧
見出しのラテン文字はユニコードによる注音符号の字母名で、ピンインと異なる表記も含まれています。ユニコードに存在しない字母は推測表記となっています。
中国語のカナ発音における破裂音表記では濁点《゛》付き字母は無声無気音, 濁点無し字母及び半濁点《゜》付き字母は無声有気音[ʰ]を示します。
注音符号の字母名にイ段《ㄧ / Ī》[-i˥]が含まれているものは、本来の表記と異なり仮名文字のように音節文字として扱われます。
台湾華語では中国語普通話のそり舌音[ʈʂ ; ʂ]が“歯茎破擦音”[ʦ]あるいは“歯茎摩擦音”[s]、有声そり舌摩擦音[ʐ]が“有声歯茎摩擦音”[z]あるいは“有声歯茎側面接近音”[l]に置き換えられる傾向があります。
B【ㄅ】[p ボ/pɔ˥ ボー]……バ行音[b]。
P【ㄆ】[pʰ ポ/pʰɔ˥ ポー]……パ行音[p]。
M【ㄇ】[m モ/mɔ˥ モー]……マ行音[m]。
F【ㄈ】[f フォ/fɔ˥ フォー]……ファ行音[f]。
V【ㄪ】[v ヴォ/w ウォ/wɔ˥ ウォー]……ヴァ行音[v]、ワ行音[ʋ]。
D【ㄉ】[t ド/tɤ˥ ドー]……ダ行音[d]。
T【ㄊ】[tʰ ト/tʰɤ˥ トー]……タ行音[t]。
N【ㄋ】[n ノ/nɤ˥ ノー]……ナ行音[n]。
L【ㄌ】[l ロ/lɤ˥ ロー]……ラ行音[l]。
G【ㄍ】[k ゴ/kɤ˥ ゴー]……ガ行音[ɡ]。
K【ㄎ】[kʰ コ/kʰɤ˥ コー]……カ行音[k]。
NG【ㄫ】[ŋ ン/ŋɤ˥ ンゴー]……ガ行鼻濁音[ŋ]。
H【ㄏ】[x ホ/xɤ˥ ホー]……ハ行音[h]。
J【ㄐ】[ʨ ジ/ʨi˥ ジー]……ヂャ行音[ʤ]またはギャ行音[ɡʲ~ɟ]; ヂ[ʤi/ʤɪ](ラテン化新文字表記では〈ZI〉)またはギ[ɡi/ɡɪ](ラテン化新文字表記では〈GI〉)。
Q【ㄑ】[ʨʰ チ/ʨʰi˥ チー]……チャ行音[ʧ]またはキャ行音[kʲ~c]; チ[ʧi/ʧɪ](ラテン化新文字表記では〈CI〉)またはキ[ki/kɪ](ラテン化新文字表記では〈KI〉)。
GN【ㄬ】[ɲ ニュ/ni- ニ/ni˥ ニー]……ニャ行音[ɲ/nj]; ニ[ɲi/ni/nɪ](現行ピンイン表記では〈NI〉) - 現行注音符号表記あるいはピンイン表記では〈ㄋㄧ- / NI-〉[ni- ニ]あるいは〈ㄋㄩ- / NÜ-〉[ny- ニュ]。
X【ㄒ】[ɕ シ/ɕi˥ シー]……シャ行音[ʃ]またはヒャ行音[ç]; シ[ʃi/ʃɪ](ラテン化新文字表記では〈SI〉)またはヒ[hi/hɪ/çi/çɪ](ラテン化新文字表記では〈XI〉で、日本語漢字音では〈KI/キ〉に該当)。
ZH【ㄓ】[ʈʂ ヂ➡ ʦヅ/ʈʂʐ̩˥ ヂー➡ʦz̩˥ ヅー]……ヂャ行音[ʤ]。
CH【ㄔ】[ʈʂʰ チ➡ʦʰ ツ/ʈʂʰʐ̩˥ チー➡ʦz̩˥ ツー]……チャ行音[ʧ]。
SH【ㄕ】[ʂ シ➡s ス/ʂʐ̩˥ シー➡sz̩˥ スー]……シャ行音[ʃ]。
R【ㄖ】[ʐ~ɻ リ➡z ズ ; l ル/ɻʐ̩˥ リー➡z̩ ズー]……(語中の)ジャ行音[ʒ]。
Z【ㄗ】[ʦ ヅ/ʦz̩˥ ヅー]……ザ行音[ʣ]。
C【ㄘ】[ʦʰ ツ/ʦʰz̩˥ ツー]……ツァ行音[ʦ]。
S【ㄙ】[s ス/sz̩˥ スー]……サ行音[s]。
ビルマ文字のように字母を上下に重ねた二重子音字もあり、ユニコード未対応のため、外字として採用されているフォントが必須となっています。
ビルマ文字《တ္က》のようにトカ[-tk-]は〈ㄊㄎ➡⿱𠫓丂〉のように上下に並べて示します。
追加子音字
本来の注音符号に追加された字母で、ユニコードではGH《ㆸ》[z ズ]とZY《ㆺ》[θ ス]の2字が採用されていて、GHは21世紀に生まれた台湾華語の他に英語表記用の字母やダイアクリティカルマークを含む【臺灣雙語注音符號『台湾双語注音符号』】( 文字表👉 https://www.miparty.org/news.aspx?id=389 )に受け継がれています。
中国語版ウィキバーシティにおける代替表記すなわち拡張国語ローマ字は《З・з》[z ズ]/《Ʒ・ʒ》[ʒ ジュ]/《Θ・θ》[θ ス]/《Ð・ð》[ð ズ]の4字が見られます。
GH【ㆸ】[ʦ ヅ/ʦz̩˥ ヅー]……(語中の)ザ行音[z] - 台湾双語注音符号でも[z]音を示す。
S WITH APOSTROPHE【ㄙʼ】[ʦ ヅ/ʦz̩˥ ヅー]……(語中の)ザ行音[z] - 代替表記。なお、上海語注音符号では濁点《゛》で有声音を示し、この方式では《ㄙ゙》となる。
RZ【⿻ㆸ丶】[ʐ~ɻ リ➡z ズ ; l ル/ɻʐ̩˥ リー➡z̩ ズー]……(語中の)ジャ行音[ʒ] - 注音符号GH《ㆸ》に斜線を付加した字形。ラテン文字による字母名はポーランド語からの推測。
ZY【ㆺ】[s ス/sz̩˥ スー]……英語〈TH〉のサ行音[θ]
DH【⿴囗一】[ʦ ヅ/ʦz̩˥ ヅー]……英語〈TH〉のザ行音[ð] - 注音符号R《ㄖ》の中央部を横線に置き換えた字形。
半母音字
子音字と母音字の双方で使用される字です。
拗音・合拗音及び“半母音字を含む音節文字”はハングルの《므》のような上下に並べた構成でマー[mɚ]/マル[mər]は〈ㄇㄦ➡⿱冖儿〉, ミ[mi/mj-]は〈ㄇㄧ➡⿱冖一〉, ム[mu/mw-]は〈ㄇㄨ➡⿱冖㐅〉という風に漢字に似せた字形となります。
ER【ㄦ】[ɹ ル➡l ル ; 無音/əɹ˥ アル➡ə˥ アー]……ラ行音[r]、アー[ɚ]。
I【ㄧ】[j ィ/i˥ イー]……ヤ行音[j]、イ[i]、イ[ɪ]。
U【ㄨ】[w ゥ/u˥ ウー]……ワ行音[w]、ウ[u]、ウ[ʊ]。
IU【ㄩ】[ɥ ユワ/y˥ ユイ]……ユワ行音[ɥ]、ユ[y]。
イ段の一部字母は、JI《ㄐ》[ジ/ギ], QI《ㄑ》[チ/キ], GNI《ㄬ》[ニ](但し、北京語の発音変化に伴いNI〈ㄋㄧ〉表記も許容), XI《ㄒ》[シ/ヒ]という風に1文字で表すのがルールです。
(例: ㄐㄈㄨ[ギフ]『岐阜 Qífù[ㄑㄧˊㄈㄨˋ チーフー]』)
母音字
母音を示す字母です。注音符号の現行表記ではピンインの陰平ダイアクリティカルマーク《ˉ》と異なり第1声は表記しないことから、第1声《˥》[55]で発音されると思われます。
中舌母音シュワー[ə]の翻字はヒンディー語デーヴァナーガリー文字のように基本子音字に含んでいます。
英語翻字では長短の区別が存在しないため、長短を含めた複数の発音を含んでいます。
A【ㄚ】[a˥ アー]……ア[a]、ア[æ]、ア[ɑ]、ア[-ə] - 英語翻字では語末の《-A》[-ə ア]はこの字母で示す。
O【ㄛ】[ɔ˥ オー]……オ[o]、オ[ɔ]、ア[ʌ]、ア[ə] - 初期注音字母でE《ㄜ》が加わるまで、ピンインの《E》[ɤ ヲ]の音を示していたことを反映し、複数の発音を表す。
E【ㄜ】[ɤ˥ ヲー]……ア[ə] - 1923年式で追加された字母。曖昧母音[ə]の表記は原則的に省略されるが、子音字の連続を防ぐために表記される。
EH【ㄝ】[ɛ˥ エー]……エ[ɛ]、エ[e]。
MIDDLE DOT【・】[―]……入声符。長短の区別が必要な言語において用いられ、英語の短音E・I・Yの場合は《ㄧ·》[ɪ イ], 長音EE・Yの場合は《ㄧ》[-iː- イー, -i イィ]と表記。日本語のウ[ɯ]の場合は《ㄨ·》, ウー[ɯː]の場合は《ㄨ》という風に表記。現行注音符号の軽声符《˙◌》と異なり、右側に《◌·》のように配置される。
二重母音字
二重母音を示す字母です。
狭いエ段[e]の長短の区別は存在しないのですが、二重母音字EI《ㄟ》で表記するのがルールとなっています。
AI【ㄞ】[ai̯˥ アイ]
EI【ㄟ】[ei̯˥ エイ]……エ[e]。
AU【ㄠ】[ɑu̯˥ アオ]
OU【ㄡ】[ou̯˥ オウ]……ウまたはエ[œ]、エまたはウ[ø] - イギリス英語〈OE , O◌E〉[əʊ オウ]は例外的にO《ㄛ》で表記。
撥音
ア段撥音
撥音のうちア段の場合は音節文字で示します。
AN【ㄢ】[an˥ アン]
ANG【ㄤ】[ɑŋ˥ アン]
撥音
撥音のうち、末子音にも用いられる音節文字です。
EN【ㄣ】[-n˥ ン/ən˥ エン]
ENG【ㄥ】[-ŋ˥ ング/ɤŋ˥ ヲン]