ΩとΟ~広いオと狭いオ~
1月23日はオメガ3の日です。
算用数字のスリー《3》は横に向きを変えるとギリシャ小文字オメガ《ω》に似た形状になるようで、オメガ3の日にマッチしているようです。
ギリシャ文字のオメガ《Ω・ω》は“大きなオ”の意味で本来は広いオー[ɔː]音だったのですが、現代ギリシャ語では“小さなオ”の意のオミクロン《Ο・ο》と同じ狭いオ[o]音となりました。
ラテン文字使用言語では逆にドイツ語やオランダ語などゲルマン諸語のオー《O》は、短母音が広いオ[ɔ]音で長母音が狭いオー[oː]となっている傾向で、現代イギリス英語の容認発音では短音オは非円唇後舌広母音オ[ɒ], 長音オーは曖昧な二重母音オウ[əʊ]と変化していて、日本の英語教育の発音である広いオ[ɔ]―アメリカ英語では後舌ア[ɑ]―と二重母音オウ[oʊ]と異なっています。
オメガとオミクロンに対応する各文字体系の字母
中世ヨーロッパで、イタリア語の拡張ラテン文字として16世紀にオメガが導入されたのが拡張ラテン文字オメガとしての最初で、1529年の印刷見本帳に記載されています。コロンビア大学図書館のサイトにそのアーカイブがあります。
【Ω・ω / Ο・ο】ギリシャ - 大文字の異体字はアンシャル体の《Ꞷ》の他に、下線を引いたオミクロンを大文字幅に合わせた手書き書体がある。
【Ⲱ・ⲱ / Ⲟ・ⲟ】コプト
【𐍉 / 𐌿】ゴート - 前者はオ[o]音で、後者はウ[u]音。
【Ō・ō / O・o】ラテン - 前者は長母音オー[o]で、後者は短母音オ[o]。俗ラテン語では前者は狭いオー[oː]で後者は広いオ[ɔ]に変化。辞書や教科書などのみマクロン記号で区別される。
【Ꞷ・ꞷ / O・o】アフリカ諸言語など:ラテン文字 - 16世紀にイタリア語の人工文字における拡張ラテン文字としてオメガが登場したときは、オメガが狭いオ[o]で、オーが広いオ[ɔ]に対応する字母として採用された。19世紀頃から拡張ラテン文字として使用されるようになった。
【W・w / O・o】ギリシャ:ラテン文字 - ネット上のラテン文字俗用表記で、オメガが筆記体で類似字形となる《W》に当てられる。
【Օ・օ / Ո・ո】アルメニア - 前者はオミクロンが字源だが、オメガに対応する字となっている。現在の発音は共にオ[o]だが、後者は語頭ではヴォ[vo]となる。
【Ⴥ・ⴥ / Ⴍ・ⴍ】ジョージア:フツリ
【Ჵ・ჵ / Ო・ო】ジョージア:ムヘドルリ
【𐕒 / 𐕈】アグバン
【Ⱉ・ⱉ / Ⱁ・ⱁ】古代教会スラブ:グラゴル文字
【Ѡ・ѡ, Ꙍ・ꙍ, Ѻ・ѻ / О・о・ᲂ】古代教会スラブ:キリル文字 - ユニコードでは異体字が登録されている。
【𐍪 / 𐍞】古ペルム
【ܐܳ・ܐܴ / ܐܘّ】シリア - オメガに似たアラビア文字の促音記号“シャッダ”が間投詞オー〈ܐܘّ〉[oː]の表記に用いられ、オミクロンに由来する母音記号“ズクヮーファー”がアー[ɑː]音を示すためにセルトー体で用いられる。
各文字体系における広いオ[ɔ]と狭いオ[o]の翻字
現代ギリシャ語ではオミクロンとオメガが同一音になった影響で、現代の各言語からの借用語で区別されることは稀です。
ラテン・ギリシャ・キリル各文字体系を使用する言語は、それぞれの原語綴りに影響を受けた表記となります。
英語やフランス語など広いOと狭いOの区別がなされる言語も目立っています。
英語由来やフランス語由来などで母音が異なるもののあります。
インド系文字・ウルドゥー文字・ハングル・エチオピア文字ではアメリカ英語の発音に近い綴りとなります。
※インド系文字の母音字に付加されていない形式の母音記号合成は便宜上、Aを基字とした仮想の合成表記で示しています。
【O・o, AU・au, AW・aw / O・o, OE・oe】英
【O・o / Ô・ô】ベトナム
【O・o / O͘・o͘】台湾
【Ŏ・ŏ, O・o / Ō・ō, O・o】ラテン
【Ọ・ọ / O・o】イグボ
【Ɔ・ɔ / O・o】アカン、バンバラ
【Å・å, O・o / O・o】スウェーデン、デンマーク、ノルウェー - 英語などの固有名詞は原則的に《O・o》で表記。
【Ā・ā / O・o】パーリ:ラテン文字 - 同じインド・アーリア諸語のフィジー・ヒンディー語ラテン文字では英語と同一の綴りとなる。
【Ω・ω, Ο・ο / Ο・ο】ギリシャ - 現代語では広いオの表記にオメガは稀に用いられる。
【Ⲟ・ⲟ / Ⲱ・ⲱ】コプト
【𐌰𐌿 / 𐍉】ゴート
【О・о / О・о】ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、ブルガリア、セルビア、マケドニア、カザフ
【А・а, О・о / О・о, А・а】ベラルーシ - アクセントの有無で字母が変化。
【О・о / У・у】モンゴル - 狭いオは、ロシア語からの借用語は《О・о》で表記されることが多い。
【Օ・օ, Ո・ո / Օ・օ, Ո・ո】アルメニア
【Ო・ო・Ⴍ・ⴍ / Ო・ო・Ⴍ・ⴍ】ジョージア
【Ꭰ・ꭰ / Ꭳ・ꭳ】チェロキー
【או / או】ヘブライ、ラディノ
【אָ / אָ】イディッシュ
【أو・و / أو・و】アラビア
【او・و / آ・ا】ペルシア、ウルドゥー、シンド
【او・و / اۆ・ۆ】カシミール
【ئو・و / ئو・و】ウイグル
【ئۆ・ۆ / ئۆ・ۆ】ソラニー
【ؤ・و / ؤ・و】モロッコ・アラビア
【އޯ / އޮ】ディベヒ
【ܐܘ / ܐܘ】アッシリア現代アラム
【अ / ओ】ネパール、マイティリー、ドテリ、ネワール - 広いO短音由来は子音字のみの表記。
【आ / ओ】サンスクリット、シンド
【ऑ, औ / ओ】ヒンディー - 広いOの表記におけるAU《औ》[アォー]の使用は稀。広いオ段《ऑ》はアー段《आ》で代用されるが、それに伴い発音も変化。
【ऑ / ओ】マラーティー、コンカニ、ビハール
【অ / ও・অো】ベンガル、ビシュヌプリヤ - 広いO短音由来は子音字のみの表記。
【অ / অʼ】アッサム - 広いO短音由来は子音字のみの表記。
【ਆ, ਔ / ਓ・ਅੋ】パンジャブ
【ཨོ་・ཨོ། / ཨོ་・ཨོ། ; ཨཽ་・ཨཽ།】チベット
【ཨཱོ་・ཨཱོ། / ཨོ་・ཨོ།】ゾンカ
【ꯑ / ꯑꯣ】マニプーリ
【ઑ, ઓ / ઓ】グジャラート
【ଅ / ଓ・ଅୋ】オリヤー - 広いO短音由来は子音字のみの表記。
【ᱚ / ᱳ】サンタル
【ஆ・ அா / ஓ・அோ】タミル
【𑌆・𑌅𑌾 / 𑌓・𑌅𑍋】サンスクリット:グランタ文字
【ఆ・ಅಾ / ఓ・అో】テルグ
【ಆ・ಅಾ / ಓ・ಅೋ】カンナダ、トゥールー
【ഒ・അൊ / ഓ・അോ】マラヤラム
【ඔ・අො / ඕ・අෝ】シンハラ
【အာ / ဩ・အော】パーリ
【ဩ・အော / အို】ビルマ - 母音字の使用は稀。オンは〈အွန်〉と表記。
【ဢေႃ / ဢူဝ်】シャン
【𑄃𑄧, 𑄃, 𑄃𑄧𑄅𑄪 / 𑄃𑄮】チャクマ - 広いオの発音は原語表記によって異なる。オンは〈𑄃𑄧𑄚𑄴〉と表記。
【អ, អូ / អូ】クメール
【ออ, อ็อ- / โอ】タイ
【ອໍ, ອອ, ອັອ-; ໂອ, ອົກ / ໂອ】ラオ
【ꦎ, ꦲꦺꦴ / ꦎ, ꦲꦺꦴ】ジャワ
【ᬑ, ᬳᭀ / ᬑ, ᬳᭀ】バリ
【奧・奥・Ào / 歐・欧・Ōu, 奧・奥・Ào】中国:訳音字 - 地名に限り狭いオの区別が見られます。子音を伴う音節文字としては漢字音で母音が著しく異なります。
【아・오 / 오・어우】韓国 - 20世紀中頃まで仮名文字由来の長音記号《ー》を使用した〈오ー〉[オー]が用いられ、1986年の外国語表記法改革まで〈오오〉[オー]や〈오우〉[オウ]が長音・二重母音表記として認められていたが、現在は長音表記が固有名詞以外では廃止された。アメリカ英語でア[ɑ]音となる広い短音Oは《아》で表記される。オンは《온》と表記。▽韓国語本来の広いオを示す字母EO《어》は[ɔ]音の翻字に用いられないが、中国語からの借用語に限り二重母音OUの表記として〈어우〉が用いられる。
【オ・オー / オ ; オウ・オー】日本 - ラテン文字表記で《O》となる単語は原則的にオ段の字母で示されるが、カンマなどア段になる例外もある。
【ኣ / ኦ】アムハラ、ティグリニャ - 広いO由来はア段, 狭いO由来はオ段。
【ⵓ / ⵓ】アマジグ
【ꖺ / ꕱ】ヴァイ - ラテン文字表記は前者の広いオ段が《Ɔ・ɔ》, 後者の狭いオ段が《O・o》となる。
【𞤌・𞤮 / 𞤌・𞤮】フラニ
【ᐊ / ᐆ】イヌイット