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拡張ギリシャ文字の字母名について

ギリシャ文字の字母名で現代ギリシャ語に含まれていないものを中心にまとめておきます。
字母名は英語とギリシャ語を併記しています。


かつてギリシャ文字に存在していた字母

  1. Ϝ・ϝ / Ͷ・ͷディガンマ, ワウ / Digamma, Wau / Δίγαμμα, Βαυ - ギリシャ数字の《6》で、古代ギリシャ語の諸方言でワ行音[w]を表す字母。パンフィリア文字では《Ͷ・ͷ》。19世紀前半の『Die sprache der Albanesen oder Schkipetaren』に記載されている《Ϝ・ϝ》のアルバニア語ギリシャ文字における字母名では〈ガイン / Gain / Γαϊν〉というアラビア文字ガイン《غ》に由来する呼び名で、現代アルバニア語で摩擦音から破裂音に変化したガ行音[ɡ]を示す。

  2. Ͱ・ͱヘータ / Heta / Χήτα, Αριστερό Ήτα - 古代ギリシャ語のハ行音[h]のエータ《Η・η》を示す特殊文字で、古典ギリシャ語表記では〈Ἥτα〉。拡張ラテン文字に同型の字母《Ⱶ・ⱶ》が存在。ヘータ小文字の異体字でラテン文字エイチ《h》に由来するものがあるが、ユニコード未登録。

  3. Ꟶ・ꟶダシテータス・エータ / Dasytetas Heta / Δασύτητας Ήτα - 古代ギリシャ語の無声音=ア行音を示す。ユニコードに採用されていないため、拡張ラテン文字の同型字《Ꟶ・ꟶ》で代用。

  4. Ϻ・ϻサン / San / Σαν - ギリシャ数字の《900》。

  5. Ϡ・ϡ / Ͳ・ͳサンピ / Sampi / Σαμπί - ギリシャ数字の《900》。パンフィリア文字では角張ったプシー《Ψ・ψ》がサンピを示し、Catrinityフォントやにしき的フォントで外字が採用されている。

  6. Ϙ・ϙ / Ϟ・ϟコッパ / Koppa / Κόππα - ギリシャ数字の《90》。本来の字形とギリシャ数字としての字形の2種。

  7. ᾿プシリ / Psili / Ψιλή - 古典ギリシャ語における無気音=ア行音を示す特殊記号。同型の記号にコロニス》というアポストロフィ《'》に該当する省略記号がある。

  8. ダシア / Dasia / Δασεία - 古典ギリシャ語におけるハ行音[h]を示す特殊記号。

ギリシャ文字の合字

  1. Ϛ・ϛスティグマ / Stigma / Στίγμα - ディガンマと同じくギリシャ数字の《6》で、シグマ《Σ・σ・ς》とタウ《Τ・τ》の合字に由来。形状が似たファイナルシグマς》で代用されることが多い。

  2. Ϗ・ϗケー / Kai / Και, Καί - 英語ラテン文字アンパサンド《&》と同義。コプト文字では《》で、ジョージア文字ムヘドルリ体のように大・小文字は一緒に用いられないことから小文字のみ存在。

  3. Ȣ・ᴕウー / Ou / Ου - オミクロン《Ο・ο》とユプシロン《Υ・ϒ・υ》の合字でウ[u]音を示す。アルバニア語ギリシャ文字で独立した字母として使用され、ユニコードに追加申請されたが却下された。ラテン文字ウーȢ・ȣ》やキリル文字ウクꙊ・ꙋ・ᲈ / Ѹ・ѹ》といった〈ΟΥ・ου〉合字由来の母音字がユニコードに採用されている。

  4. Ʊ・ου / ℧①ウプシロン; ②モー; ③ガメオ / Oupsilon; Mho; Gameo / Ούψιλον· Μω· Γαμέω - ①ウプシロンは現代ギリシャ語で[u]を示す連字〈ΟΥ・ου〉を1文字で表記できるようにしたもので、小文字は不明のため、連字〈ου〉が代わりに用いられる。ギリシャの製菓会社パパゾプル Παπαδόπουλουのロゴで『ΠΑΠΑΔΟΠƱΛƱ』が見られ、パパゾプル社公式サイトで確認可能。便宜上、字母名は拡張ラテン文字ウプシロンƱ・ʊ》からで、ラテン字母としては本来ユプシロンΥ・ϒ・υ》の小文字に由来する国際音声記号で英語やドイツ語などの短いウ音を示す。
    ②モーはオメガΩ・ω》と同型の単位記号オーム Ωμ》に由来する単位記号で、ジーメンスに該当。
    ③アニメ『マジンガーZ』に登場する〈ドラゴ℧1〉はオメガを逆にした“ガメオ”と読むネーミングとなっている。

ギリシャ語以外の拡張ギリシャ文字

  1. Ϳ・ϳヨット / Yot / Γιότ - アルバニア語ギリシャ文字でヤ行音[j]を表す字母。アルバニア語での字母名は“ヤ Jë”。

  2. Ϸ・ϸショー / Sho / Σο, Ϸο, Ϣο - バクトリア語ギリシャ文字でシャ行音[ʃ]を表す字母。現代・古典共にギリシャ語ではシャ行を表す字母が存在しないため、シグマ《Σ・σ・ς》で表記される。

コプト語由来の拡張ギリシャ字母名

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コプト文字を現代ギリシャ文字の形状に近づけたコプト語ギリシャ文字。ヘイ《Ϧ・ϧ》は本来の大・小文字と異なる形状です。

ユニコード4.1でコプト文字ブロックが採用される以前はコプト語の字母は拡張ギリシャ文字として扱われていました。
その名残りでギリシャ文字フォントにコプト文字の字母が含まれているものが多く見られ、ユニコード4.0までとの互換性が重視されています。

  1. Ⲋ・ⲋソウ / Sou / Σο - コプト数字の《6》で、スティグマに由来。

  2. Ϣ・ϣシェイ / Shei / Σέι, Ϣέι, Ϸέι - ギリシャ語では本来、シャ行音[ʃ]が存在しないため“セイ”と読まれることがある。

  3. Ϥ・ϥフェイ / Fei / Φέι - コプト数字で《90》として使用。

  4. Ϧ・ϧヘイ / Khei / Χέι - ユニコード4.0まで拡張ギリシャ文字として扱われていたときは小文字の形状がボハイラ方言ヘイ》の変形となっていた。

  5. Ϩ・ϩホリ / Hori / Χόρι - 古典ギリシャ語における字母名は〈Ὅρι〉。

  6. Ϫ・ϫジャンジャ / Gangia / Τζάντζα - 現代ギリシャ語でジャ行は連字TZΤΖ・τζ〉と表記される。

  7. Ϭ・ϭチーマ / Shima / Τσίμα - ヌビア文字では《Ⳝ・ⳝ》で、字母名は同じ。現代ギリシャ語でチャ行は連字TSΤΣ・Τσ・τσ・τς〉と表記される。

  8. Ϯ・ϯデイ, ティー / Dei / Τι - コプト語の音節文字ティ[ti]を示す。

ヌビア語由来の拡張ギリシャ字母名

ユニコード4.1に採用されたコプト文字では、ヌビア語で使用されるヌビア文字の字母も含まれています。
一部字母はユニコード4.0までのギリシャ文字とコプト文字の交ぜ書きを想定したものになっています。

  1. Ⳟ・ⳟンギー / Ngi / Γγι - 現代ギリシャ語で鼻濁音ガ行音[ŋ]は連字GGΓΓ・γγ〉と表記される。

  2. Ⳡ・ⳡニー / Nyi / Νυί

  3. Ⳣ・ⳣワウ / Wau / Ουάου - 現代ギリシャ語でワ行音[w]は連字OUΟΥ・ου〉又は連字GOUΓΟΥ・γου〉と表記される。古代ギリシャ語による字母名は〈Ϝάυ〉である。

  4. Ϊ・ϊヤー / Ya / Γιά - 現代ヌビア語の字母名。本来のコプト文字ではヨーダとダイエレシスの合成ⲓ̈》で示す。現代ギリシャ語で語頭のヤ行音[j]は連字GIΓΙ・γι〉と表記される。

ラテン文字又はキリル文字と共用

有声音を示す拡張ギリシャ文字は世界の文字サイト・Omniglotの【Arvanitic】及び【Griko】の項目で見られ、字母名の末尾が〈〉[-e エ]―アルバニア語では〈〉[-ə ア]―となっているものはギリシャ文字で表記されるアルバニア語であるアルバンティック語で、〈〉[-i イ]となっているものはイタリアで使用されるグリーコ語の字母名です。

  1. Ƃ・bベー, ビー / Be, Bi / Μπε, Μπι - アルバニア語ギリシャ文字でバ行音[b]を示し、現代ギリシャ語でバ行音は連字MP〈ΜΠ・μπ〉と表記される。大文字はチワン語旧正書法(小文字は《ƃ》)及びズールー語旧正書法(小文字は《ɓ》)の拡張ラテン文字《Ƃ》かキリル文字ベー《Б》のどちらを使用するかは不明瞭。ギリシャ文字としての本来の小文字は、下部が丸まった“”のような形状である。

  2. G・gギー / Ghi / Γκι - イタリアのグリーコ語ギリシャ文字でガ行音[ɡ]を示し、現代ギリシャ語でガ行音は連字GK〈ΓΚ・γκ〉と表記される。グリーコ語ギリシャ文字では《Ƃ・b》はビー,《D・d》はディーとイタリア語ラテン文字の字母名に合わせた名称となっている。

  3. Ǵ・ǵジー / Gi / Τζι - イタリアのグリーコ語ギリシャ文字でジャ行音[ʤ]を示し、現代ギリシャ語でジャ行音は連字TZ〈ΤΖ・τζ〉と表記される。

  4. D・dデー, ディー / De, Di / Ντε, Ντι - アルバニア語ギリシャ文字でダ行音[d]を示し、現代ギリシャ語でダ行音は連字NT〈ΝΤ・ντ〉と表記される。本来の小文字はアルファ小文字α》の右上の線を延ばした形状。

ジョーク用拡張ギリシャ文字

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Fairfax HDフォントに含まれるジョーク用拡張ギリシャ文字

ユニコードに採用されていない拡張ギリシャ文字で、英語圏におけるジョーク用や暗号用に用いられる特殊文字です。
コードポイントはFairfax HDフォントからで、日本語による字母名は類似のギリシャ文字の読みに近い表記です。

  1. U+F716・U+F816エイ / Ei / Έι=ΕΪ - 大文字はギリシャ文字クシーの異体字である《》の字に似た字母と同型―リュキア文字NN𐊑》はクシー由来と思われる―で、ユニフォン文字でイー[iː]と発音される字母と同型。小文字はルネイトシグマ小文字《ϲ》と同型。英語やドイツ語では連字〈EI〉はアイ[aɪ]と読むため、英語で“私”の意である《I》の当て字に用いられる。

  2. U+F717・U+F817フェルタ / Phelta / Φέλτα - 大文字は《Φ》の円状の箇所をデルタ《Δ》状に変化させたもの。小文字はビルマ文字NA》に似ている。

  3. U+F718・U+F818サイ / Thi / Θι - 大文字は《Ο》の中央部にスモールキャピタルのイオタ大文字ɪ》が入った形状。小文字は《θ》の横線を縦線に置き換えた字形。

  4. U+F719・U+F819マグヌム / Magnum / Μάγνουμ - 大文字は《Μ》の下部を横線で塞いだ形状。小文字は《μ》の上部を横線で塞いだ形状。

  5. U+F71A・U+F81Aメガ / Mega / Μέγα - 大文字は《Ω》の中央部がジョージア文字ON》のように変化した形状。小文字はビルマ文字PA》に似た形状。

  6. U+F71B・U+F81Bタボン / Tambon / Ταμπόν - 大文字はデーヴァナーガリー文字TTHA》に似た形状。小文字は《τ》の下部にタイ文字E》のような小丸を入れた形状で、そり舌音を表す形状となっている。