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ゴート語ラテン文字とゴート文字

5月22日は世界ゴスの日で、ゴスの英語表記は〈Goth〉[ɡɑθ ガス/ɡɒθ ゴス]で、ドイツなどで用いられていたゲルマン語派のゴート語は英語でサンセリフ及びフラクトゥール体のゴシック体と同じく〈Gothic〉[ˈɡɑ.θɪk ガシック/ˈɡɒθ.ɪk ゴシック]と表記されます。

ゴスはゴシック・ロック及びゴシック芸術に由来するのですが、本来は古代ヨーロッパのゴート民族を指すギリシャ語〈Γοτθικός〉[ゴッティコス➡ゴッスィコス]及びラテン語〈Gothicus〉[ゴティクス]に由来しています。

英語では〈Gothic alphabet〉あるいは〈Gothic script〉はゴート文字とドイツ文字の両方を意味していて、トップ画像(Catrinityフォント使用)にある前者〈𝕲𝖚𝖙𝖎𝖘𝖐𝖆〉がドイツ文字表記、後者〈𐌲𐌿𐍄𐌹𐍃𐌺𐌰〉がゴート文字表記を示しています。

再建されたゴート語を各種現代言語に合わせた現代ゴート語によるゴート語版『ウィキペディア』が作成され、ゴート語の本格的な復活を目指す活動が行われています。
ゴート文字は大文字のみですが、21世紀になってからゴート文字の小文字も作成され、ゴート語版ウィキペディアのロゴに採用されています。

今回はゴート語ラテン文字について取り上げます。

母音字

ゴート語ラテン文字では、発音の区別のために連字にダイアクリティカルマークが付加されますが、本来のゴート文字では連字における長短の区別はなされないので注意が必要です。
ラテン文字《E》に対応する字母は短音の場合〈𐌰𐌹 / AI〉[e~ɛ エ], 長音の場合〈𐌴 / E〉[eː エー]となり、英語ラテン文字のオウO》に対応する字母は、短音[ɒ~ɔ オ/ɑ ア]の場合は〈𐌰𐌿 / AU〉[o~ɔ オ], 長音〈OE〉[əʊ オウ/oʊ オウ]の場合は〈𐍉 / O〉 [oː オー]となります。

  1. AHSA【A・a𐌰》|𝕬・𝖆】アハサ[a(ː) ア(ー)] - ゴート数字1

  2. AI・Ai・ai𐌰𐌹〉|𝕬𝕴・𝕬𝖎・𝖆𝖎】[e~ɛ エ]

  3. ÁI・Ái・ái𐌰𐌹〉】[ɛː エー]

  4. AÍ・Aí・aí𐌰𐌹〉】[ɛ エ] - AÍH𐌰𐌹𐌷〉[ɛh エヘ], AÍR𐌰𐌹𐍂〉[ɛr エル], AÍǶǶ𐌹𐍈〉[ɛʍ エホゥ]の場合。

  5. AU・Au・au𐌰𐌿〉|𝕬𝖀・𝕬𝖚・𝖆𝖚】[o~ɔ オ]

  6. ÁU・Áu・áu𐌰𐌿〉】[ɔː オー]

  7. AÚ・Aú・aú𐌰𐌿〉】[ɔ オ] - AÚH𐌰𐌿𐌷〉[ɔh オホ], AÚR𐌰𐌹𐍂〉[ɔr オル], AÚǶ𐌿𐍈〉[ɔʍ オホゥ]の場合。

  8. AIHVUS【E・e𐌴》|𝕰・𝖊】エホゥス[eː エー] -ゴート数字5

  9. EI・Ei・ei𐌴𐌹〉|𝕰𝕴・𝕰𝖎・𝖊𝖎】[iː イー]

  10. EIS【I・i𐌹》|𝕴・𝖎】イース[i イ] -ゴート数字10

  11. Ï・ï𐌹̈》】[i イ] - ゴート文字のものはユニコードに採用されていないため、ダイエレシスとの合成で示す。

  12. OTHAL【O・o𐍉》|𝕺・𝖔】オーザル[oː オー] -ゴート数字800

  13. URUS【U・u𐌿》|𝖀・𝖚】ウルス[u(ː) ウ(ー)] -ゴート数字70

重母音

原則的に母音字の後に半子音字を配置して示します。

  1. AIW・Aiw・aiw𐌰𐌹𐍅〉|𝕬𝕴𝖂・𝕬𝖎𝖜・𝖆𝖎𝖜】[ew~ɛw エウ]

  2. AÏ・Aï・aï𐌰𐌹̈〉|𝕬𝕴・𝕬𝖎・𝖆𝖎】[a.i アイ]

  3. AJ・Aj・aj𐌰𐌾〉|𝕬𝕵・𝕬𝖏・𝖆𝖏】[aj アイ]

  4. AW・Aw・aw𐌰𐍅〉|𝕬𝖂・𝕬𝖜・𝖆𝖜】[aw アウ]

  5. AUJ・Auj・auj𐌰𐌿𐌾〉|𝕬𝖀𝕵・𝕬𝖚𝖏・𝖆𝖚𝖏】[ɔj オイ]

  6. IA・Ia・ia𐌹𐌰〉|𝕴𝕬・𝕴𝖆・𝖎𝖆】[i.a イア]

  7. IU・Iu・iu𐌹𐌿〉|𝕴𝖀・𝕴𝖚・𝖎𝖚】[iw イウ]

  8. -JA・-ja𐌾𐌰〉|-𝕵𝕬・-𝖏𝖆】[i.ja イヤ] - 地名の末尾に用いる。

子音字

ラテン文字の字母順です。

英語圏ではゴシック文字とも呼ばれるドイツ文字はユニコード字母名に近い英語ラテン文字による翻字を示しますが、本来のゴート語ラテン文字ではC𝕮・𝖈》, V𝖁・𝖛》, Y𝖄・𝖞》と対になるゴート字母はありませんが、ゴート語ラテン文字HVǶ∙ƕ》の代替表記でリガチャの字源に基づく〈HV・Hv・hv / 𝕳𝖁・𝕳𝖛・𝖍𝖛〉という風に《V》が連字構成要素に用いられる場合があります。

  1. BAIRKAN【B・b𐌱》|𝕭・𝖇】ベルカン[b ブ/β ヴ] - ゴート数字2

  2. DAGS【D・d𐌳》|𝕯・𝖉】ダグス[d ド/ð ず] - ゴート数字4

  3. FAIHU【F・f𐍆》|𝕱・𝖋】フェフ[f ふ] - ゴート数字500

  4. GIBA【G・g𐌲》|𝕲・𝖌】ギバ[ɡ グ/ɣ グ/ŋ ング] - ゴート数字500

  5. HAGL【H・h𐌷》|𝕳・𝖍】ハグル[h ホ] - ゴート数字8

  6. HWAIR【Ƕ・ƕ𐍈》|𝕳𝖁・𝕳𝖛・𝖍𝖛】ホウェル[ʍ ホワ] - ゴート数字700

  7. JER【J・j𐌾》|𝕵・𝖏】イェル[j ィ] - ゴート数字60。ラテン文字ジーG・g》が字源のため、現代ゴート語では英語ラテン文字ヂーG・g》のヂャ行音[ʤ]の翻字に対応する。

  8. KUSMA【K・k𐌺》|𝕶・𝖐】クスマ[k ク] - ゴート数字20

  9. LAGUS【L・l𐌻》|𝕷・𝖑】ラグス[l る] - ゴート数字30

  10. MANNA【M・m𐌼》|𝕸・𝖒】マンナ[m ム] - ゴート数字40

  11. NAUTHS【N・n𐌽》|𝕹・𝖓】ナウズス[n ン・ヌ] - ゴート数字50

  12. PAIRTHRA【P・p𐍀》|𝕻・𝖕】ペルスラ[p プ] - ゴート数字80

  13. QAIRTHRA【Q・q𐌵》|𝕼・𝖖】クェルスラ[kʷ クヮ] - ゴート数字6

  14. RAIDA【R・r𐍂》|𝕽・𝖗】レーザ[r ル] - ゴート数字100

  15. SAUIL【S・s𐍃》|𝕾・𝖘】ソイル[s ス] - ゴート数字200。書写体はギリシャ文字シグマΣ》の派生である《Ɛ》に似た形状の字母も存在。

  16. TEIWS【T・t𐍄》|𝕿・𝖙】ティーウス[t ト] - ゴート数字300

  17. THIUTH【Þ・þ《𐌸》|𝕿𝕳・𝕿𝖍・𝖙𝖍】シウス[θ ス] - ゴート数字9。ラテン文字ブイV・v》の翻字にも用いられる場合がある。

  18. WINJA【W・w𐍅》|𝖂・𝖜】ウィニャ[w ゥ/y ユ] - ゴート数字400

  19. IGGWS【X・x𐍇》|𝖃・𝖝】イッグス[x~χ ハ] - ゴート数字600

  20. IUJA【Z・z𐌶》|𝖅・𝖟】イウヤ[z ズ] - ゴート数字7

本来数字にのみ用いるゴート字母

ゴート数字90𐍁》は、ゴート語版ウィキペディアでは現代ゴート語のチャ行音[ʧ]を示す字母として用いる案があったと思われ、一部にリダイレクトされる固有名詞が存在することから、対応ラテン字母は推測で《C・c》が当てられる可能性が高いと思われます。

  • ゴート語の数字は、ゴート文字あるいは算用数字の左右に〈•𐍈𐌸• / •ǶÞ• / •709•〉という風にビュレット》を挟んで示します。西暦は〈•𐌰̅𐍊𐍁𐌸ʹ• / •1999ʹ•〉という風に1ケタ台のゴート字母に千の位を示すオーバーライン》, ゴート字母の末尾にプライム記号ʹ》を付加して示します。

  1. NIUNTEHUND【90𐍁》|{𝕮・𝖈}】ニウンテーフンド[c チュ/k ク/s ス] - ゴート語版ウィキペディアでは“秦の始皇帝”のゴート語表記〈𐌵𐌹𐌽 𐍃𐌾𐌹 𐌷𐌿𐌰𐌲𐌲〉/qin sji huagg/[kʷin.ʃi.huaŋ クィン・シ・フアン]の項目にリダイレクトされる別表記として〈𐍁𐌹𐌽 𐍃𐌾𐌹 𐍈𐌰𐌲𐌲𐍃〉/tsjin sji ƕaggs/[cin.ʃi.ʍaŋs チン・シ・ホワンス]が存在するなど、キリル文字チェーЧ・ч》との類似からゴート語版ウィキペディアに用いられるゴート語では〈𐍄𐍃𐌾 / TSJ・Tsj・tsj〉と表記される綴りの代替表記に用いられたり、アメリカの首都・ワシントンD.C.のゴート語表記〈𐍅𐌰𐍃𐌾𐌹𐌲𐌲𐍄𐌰𐌿𐌽, 𐌳.𐍁.〉/wasjiggtaun, dei.sei./[wa.ʃiŋ.tɔn.diː.siː ワシントン・ディー・スィー]という風にラテン文字シーC》に対応する字母としてゴート数字90が当てられる例がウィキペディアに見られる。

  2. NIUN HUNDA【900《𐍊》】ニウンフンダ[—]

現代ゴート語における連字

ゴート語版ウィキペディアの方式では、現代の固有名詞を示すために連字が用いられます。
日本語の促音に対応する翻字は原則的に〈𐌺𐌺 / KK〉[kː ック]のように2つに並べる形式です。

  1. GG・Gg・gg𐌲𐌲〉|𝕲𝕲・𝕲𝖌・𝖌𝖌】[ŋ ン/-ŋɡ- ング]

  2. GK・Gk・gk𐌲𐌺〉|𝕲𝕶・𝕲𝖐・𝖌𝖐】[ŋk ンク]

  3. DJ・Dj・dj𐌳𐌾〉|𝕯𝕵・𝕯𝖏・𝖉𝖏】[ɟ ヂュ]

  4. SJ・Sj・sj𐍃𐌾〉|𝕾𝕵・𝕾𝖏・𝖘𝖏】[ʃ シュ]

  5. TSJ・Tsj・tsj𐍄𐍃𐌾〉|𝕿𝕾𝕵・𝕿𝖘𝖏・𝖙𝖘𝖏】[c チュ]

  6. ZJ・Zj・zj𐌶𐌾〉|𝖅𝕵・𝖅𝖏・𝖟𝖏】[ʒ ジュ]