キリル文字と他文字との互換性について~ラテン文字編~
セルビア語やボスニア語などラテン文字とキリル文字の両正書法が共存している言語、ウズベク語やアゼルバイジャン語などラテン文字正書法が主流になってからも一部地域で従来のキリル文字正書法が用いられている言語における互換関係について取り上げます。
セルビア文字及びチュルク諸語キリル・ラテン両文字の正書法に共通の字母
㊧側はキリル文字、㊨側はラテン文字となっています。
セルビア語・ボスニア語・モンテネグロ語・アゼルバイジャン語などセルビア文字に存在せず、チュルク系キリル文字に見られる字母は対応字母の下段に示しています。
【А・а↔A・a】アー
【Б・б↔B・b】ベー
【Г・г↔G・g】ゲー - ウクライナ語やベラルーシ語では《H・h》。
【Д・д↔D・d】デー
【Е・е↔E・e】イェー - ベラルーシ語では連字《IE・ie》。
┗【Э・э↔E・e】エー - チュルク諸語では語頭及び英語《A・a》[æ ア]由来の借用語、ベラルーシ語では語中も常に用いる。
【З・з↔Z・z】ゼー
【И・и↔I・i《İ・i》】イー - アゼルバイジャン語やクリミア・タタール語のラテン文字では点付きの《İ》に対応。
【К・к↔K・k】カー
【Л・л↔L・l】エリ - ベラルーシ語の旧ラテン文字正書法では《Ł・ł》に対応し、連字《ЛЬ・ль》が《L・l》に対応していた。
【М・м↔M・m】エム
【Н・н↔N・n】エヌ
【О・о↔O・o】オー
【П・п↔P・p】ペー
【Р・р↔R・r】エル
【С・с↔S・s】エス - ウズベク語キリル文字ではラテン文字《C・c》にも対応し、地名などの固有名詞では《СУ・су》がス[su]だけではなくク[ku]とも読まれる。
【Т・т↔T・t】テー
【У・у↔U・u】ウー
【Ф・ф↔F・f】エフ
セルビア系キリル文字
セルビア語・ボスニア語・モンテネグロ語のキリル文字は、原則的にラテン文字と対になっています。マケドニア語のキリル文字もこの系統です。
近年は本来セルビア系キリル文字表記に存在しないクー【Ԛ・ԛ】やウェー【Ԝ・ԝ】などラテン文字由来のクルド語キリル文字が固有名詞を示す目的で使用されることが増加し、セルビア語版ウィキペディアでの文字体系切り替え機能では、同型のラテン字母である《Q・q》と《W・w》で表示されています (一部のページでは本来のラテン文字使用言語のままになっているなど置き換えが無効化されています)。
【В・в↔V・v】ヴェー
【Ж・ж↔Ž・ž】ジェー
【Х・х↔H・h / X・x】ハー - クロアチア・ラテン文字で固有名詞のみ用いるイクス《X》が原綴で表記される場合のみ、ラテン文字表記に合わせて《Х》がクス[ks]やグズ[ɡz]など例外的な読みとなる。例えばファクシミリ《📠》は〈Fax➡Фах〉(マケドニア語やモンテネグロ語で略語として使用)、ジンクスは〈jinx➡јинх〉となる。
【Ц・ц↔C・c】ツェー - マイクロソフトの英語本来の表記を置き換えた〈Microsoft➡Мицрософт〉が英語版ウィクショナリーで項目となっているほどで、西ヨーロッパのほとんどの言語でラテン文字《C》がカ行音[k]になることに合わせて、セルビア・キリル文字ではクロアチア・ラテン文字で固有名詞が原綴と同じ読みになる場合〈ЦА, ЦО, ЦУ〉が“カ[ka], コ[ko], ク[ku]”とそれぞれ発音が変化する。
【Ч・ч↔Č・č】チェー
【Ш・ш↔Š・š】シャー
【Ђ・ђ↔Đ・đ】ヂェー - マケドニア語ではギェー《Ѓ・ѓ》に対応。
【Ј・ј↔J・j】イェー
【Љ・љ↔LJ・lj】リェー
【Њ・њ↔NJ・nj】ニェー
【Ћ・ћ↔Ć・ć】チェー - マケドニア語ではキェー《Ќ・ќ》に対応。
【Џ・џ↔DŽ・dž】ヂェー
【Ѕ・ѕ↔DZ・dz】ヅェー - マケドニア語のみ。
【ʼ↔'】アポストロフ - ロシア語の硬音符《Ъ・ъ》に対応し、セルビア語では稀に硬音符が用いられることがある。マケドニア語では曖昧母音[ə アまたはウ]を示す母音字として使用される場合がある。
🔵ここからはクロアチア語ラテン文字に合わせて俗用で使用される拡張セルビア・キリル文字です。ユニコードではキリル文字ではなくラテン文字を使用するケースが多いです。
【Ԛ・ԛ↔Q・q】クー - クロアチア・ラテン文字で固有名詞が原綴で表記される場合のみ、翻字用に使用される。
【Ԝ・ԝ↔W・w】ウェー - クロアチア・ラテン文字で固有名詞が原綴で表記される場合のみ、翻字用に使用される。
【Ү・у↔Y・y】イプシロン - クロアチア・ラテン文字で固有名詞が原綴で表記される場合のみ、翻字用に使用される。キリル文字本来の小文字は《ү》だが、ラテン文字表記に合わせてウー《у》と同型になる。例えばユーチューブは〈YouTube➡ҮоуТубе〉となる。
ウズベク語キリル文字
ウズベク語キリル文字に対応するラテン文字は現行ロシア語ローマ字表記に忠実なものになっています。ウズベク語版ウィキペディアでは文字体系切り替え機能で表示変更が可能となっています。
【В・в↔V・v】ヴェー
【Е・е↔YE・ye/E・e】イェー - ラテン文字表記における語頭は語中・語末と異なる。
【ДЖ・дж↔DJ・dj】ヂェー - 1995年まで使用されていたウズベク語ラテン文字《Ɉ・ɉ》と対になるキリル文字として《Җ・җ》が設定され、並行して使用されていた。
【Ё・ё↔YO・yo】ヨー
【Ж・ж↔J・j】ジェー
【Й・й↔Y・y】短いイー - キリル文字の軟母音字《Я・Ё・Ю》の頭文字の場合、ラテン文字《И》に対応する《Й》に置き換えられる。
【НГ・нг↔NG・ng】ンゲー - 1993年式ラテン文字ではクリミア・タタール語と共通の《Ñ・ñ》が使用されていた。
【Х・х↔X・x】ハー
【Ц・ц↔TS・ts】ツェー - 2021年に改訂され、'23年1/1に施行予定の新ラテン文字正書法ではセルビア・クロアチア語と同じ《C・c》で表記される。
【Ч・ч↔CH・ch】チェー - 新ラテン文字正書法ではアゼルバイジャン語と共通の《Ç・ç》で表記される。
【Ш・ш↔SH・sh】シャー - 新ラテン文字正書法ではアゼルバイジャン語と共通の《Ş・ş》で表記される。
【Ъ・ъ↔ʼ】硬音符/アポストロフ
【Э・э↔E・e】エー - 語頭及び母音の後に使用。語中・語末ではイェー《Е・е》を用い、英語の連字EEは〈ЕЭ〉となる。
【Ю・ю↔YU・yu】ユー
【Я・я↔YA・ya】ヤー
【Ғ・ғ↔Gʻ・gʻ】ガー/ラー - '93年式では《Ğ・ğ》、'19年正書法改訂案では《Ǵ・ǵ》、'21年式では筆記体を活字体化した《Ḡ・ḡ》に対応。
【Қ・қ↔Q・q】クヮー
【Ҳ・ҳ↔H・h】ハー
【Ў・ў↔Oʻ・oʻ】オー - '93年式では《Ö・ö》、'21年式では筆記体を活字体化した《Ō・ō》に対応。新ラテン文字正書法の異体字では《Õ・õ/Ò・ò/Ó・ó》がある。
🔵ここからはウズベク語ラテン文字に合わせて俗用で使用される拡張ウズベク・キリル文字です。これもユニコードではキリル文字ではなくラテン文字を使用するケースが多いです。
【С・с↔C・c】エス - ラテン文字表記で固有名詞が原綴と同じ読みになる場合〈СА, СО, СУ〉が“カ[ka], コ[ko], ク[ku]”とそれぞれ発音が変化する。
【Ԝ・ԝ↔W・w】ウェー - 現行正書法で固有名詞が原綴で表記される場合のみ、翻字用に使用される。例えばアメリカの地名・ウイスキークリークは〈Whiskey Creek➡Ԝҳискей Среэк〉となる。
アゼルバイジャン語キリル文字
キリル文字正書法は軟母音字が存在しないなどセルビア系文字に近いシステムとなっていて、ラテン文字表記と対応しやすいものになっています。
アゼルバイジャン語ニュースサイト・Nur-Azではトルコ語もアゼルバイジャン語キリル文字表記でニュースが見られるサイトになっています。
【В・в↔V・v】ヴェー
【Г・г↔Q・q】ゲー
【Ж・ж↔J・j】ジェー
【Х・х↔X・x】ハー
【Ч・ч↔Ç・ç】チェー
【Ш・ш↔Ş・ş】シャー
【Ы・ы↔I・ı】ウィー
【Ғ・ғ↔Ğ・ğ】ガー
【Ә・ә↔Ə・ə】アェー - 1991年12/25にラテン文字正書法が作成された時の字母は《Ä・ä》で、現行字母は'92年5/16に変更されたもの。
【Ј・ј↔J・j】イェー
【Ҝ・ҝ↔G・g】ギェー - ラテン文字表記が原綴の場合の翻字の例で、グーグルは〈Google➡Ҝооҝле〉となる。
【Ө・ө↔Ö・ö】オェー
【Ү・ү↔Ü・ü】イュー
【Һ・һ↔H・h】ヘー
【Ҹ・ҹ↔C・c】ヂェー - ラテン文字表記で固有名詞が原綴と同じ読みになる場合〈ҸА, ҸО, ҸУ〉が“カ[ka], コ[ko], ク[ku]”、〈ҸЕ, ҸИ, ҸЈ〉が“セ[se], スィ[si], スィ[si]”とそれぞれ発音が変化する。
【ʼ↔'】アポストロフ
【Ԝ・ԝ↔W・w】ウェー - アゼルバイジャン語ラテン文字で固有名詞が原綴で表記される場合のみ、翻字用に使用される。