
異体仮名について
11月1日は大正9年のこの日にカナモジカイの前身である“仮名文字協会”が設立されたことにちなむ【カタカナの日】であるように管理者は思うものです。
ちなみに11月5日は日本語の記念日である【にほんごの日 / 日本語の日】です。
明治33年8月21日に日本語の音節文字ひらがなが統一される以前に多用された文字体系である変体仮名とは別に、同じく日本語の音節文字カタカナにおける異体字である【異体仮名】があり、ネ[ne]音を示す《子》由来の字母とヰ[wi]音を示す《井》由来の字母が、ひらがな字母統一に合わせてカタカナ字母統一もなされる以前の明治時代の書籍に多く見られました。
今回は異体仮名について取り上げます。
異体仮名とは
異体仮名は本来は“ひらがなの異体字”も含む仮名文字の異体字全般を意味し、ひらがなの異体字が20世紀前半に“変体仮名”と呼称されるようになってから変体仮名との区別のためにカタカナの異体字を指す傾向となっていると思われます。
漢字の一部分あるいは同型の字母から生み出されたカタカナの異体字では、➊NE《子》[ネ]やWI《井》[ヰ/ウィ]のように漢字と同型の字母➋I《伊➡尹》[イ]やWA《和➡禾》[ワ]のように漢字の一部から取り入れられた字母➌SE《世➡ㄝ》[セ]やYU《由➡丄》[ユ]のように漢字を大幅に変化させた字母➍WA《王➡𛄌》[ワ]のように変体仮名とほぼ同形となっている字母―山下芳太郎・著, 仮名文字協会・刊『国字改良論』の44㌻(※国会図書館デジタルライブラリのアーカイブ内)では《候》[ソウロウ]の変体仮名に由来する異体仮名=カタカナ小文字あるいは漢字小文字が見られる―➎NG《ㄥ》[ŋ ング]のように由来不明の字母―に分類できます。
ユニコードに採用されていない異体仮名のコードポイントはXim Sans Handwrittenフォントのものを示しています。
ユニコードで代用可能な字母を記載しています。
1. 漢字と同型の字母
KI-SU【U+E578《寸》】[キ, ス] - ジ・とき《時》に由来する合略仮名〈TOKI〉[トキ]と同型。変体仮名も存在するがユニコード未登録。
TA【〓《太》】[タ] - 変体仮名も存在するがユニコード未登録。
NE【U+E5B2《子》】[ネ] - ユニコードでは変体仮名NE-KO《𛂘》が存在。
RO【〓《六》】[ロ]
WI【U+E5B3《井》】[ヰ] - ユニコードでは変体仮名WI-1《𛄍》が存在。
WU【𛄢《于 / 宇》】[ウゥ/ウ]
2. 漢字の一部分
I【〓《伊➡尹》】[イ]
E【〓《衞➡衛➡彳》】[エ] - 明治13年の明声学舎・刊『横文原由考声音正訛弁師範必読』(今井芳洲・著)に見られる梵字《𑖊》及びラテン文字《E》の音を示す拡張仮名文字。
TA【〓《太➡大》】[タ]
TE【U+E5B7《天➡⿻二丿》】[テ] - 天の左払いの形状。
NO【U+E5B8《乃➡𠄎➡ㄋ》】[ノ]
YI【𛄠《以➡〓》】[イィ/イ]
YE【〓《衣➡𧘇》】[イェ] - 同型の漢字フォントによっては下半分の字母となっている。
WA【U+E5B8《和➡禾》】[ワ]
WU【〓《卯➡𠂎》】[ウゥ/ウ]
3. 漢字の変形
A【〓《安➡𭑨{⿱丷女}》】[ア] - ユニコードに採用されている漢字U+2D468は本来の異体仮名の字形と異なる。
E【𛀀《衣➡𪜊》】[エ] - 本来のカタカナEで、現行字母のE《エ》は本来、YE[イェ]を示す字母だった。
E【〓《衣➡亠》】[エ]
E【〓《衣➡丄》】[エ] - 明治6年の『綴字篇』(※日本語版ウィキペディアの五十音の項目参照)に見られるア行エ段を示す字母。
E-YE【U+F0F6《衣➡〓》】[エ, イェ] - 日本語版ウィキペディアのや行えの項目に異体字が多数記載。
E-YE【〓《衣➡𬼂》】[エ, イェ] - 合略仮名〈NARI〉[ナリ]とほぼ同形。
KI【U+E5B4《幾➡〓》】[キ] - カタカナKI《キ》から横斜線2つを抜いた形状。
SA【U+E5B5《左➡㔫➡七》】[サ]
SU【U+E5B6《受➡爫➡爪➡⿱丿𫶧》】[ス]
SE【U+E5B0《世➡𠃒➡ㄝ》】[セ]
TU【〓《川➡𫶧》】[ツ]
TU【U+F0EA《州➡⿲丶丶丶》】[ツ]
NI-NE【〓《㋥爾➡尓➡尒 / ㋧祢➡尒》】[ニ, ネ] - ルーツによって発音が異なる。
HO【U+E5B2《保➡⿱口丨》】[ホ]
MA【U+E5B9《万➡丆》】[マ]
MA【U+E5BA《万➡⿱一丶》】[マ] - 中世に多用されていた字形。
YU【U+E5BB《由➡丄》】[ユ]
YE【𛄡《延➡⿱亻一》】[イェ] - 昭和20年代のアイヌ語機関誌『アイヌ・モシリ』のアイヌ語仮名の同形字はI《イ》とE《エ》の合字由来。
YO【U+E5BC《与➡⿱⺊𠃌》】[ヨ]
RU【〓《流➡儿➡ㄦ》】
4. 変体仮名と同型あるいは類似した字形
カタカナと字形を合わせている異体仮名の中には、ひらがなと字形を合わせている変体仮名とほぼほぼ同型の字形があります。
WA【〓《輪➡〇》】[ワ] - レイ・ゼロ《零》やセイ・ほし《星》の略字と同形の《輪》に由来する略字《⭕️》がルーツだが、変体仮名はユニコード未登録。
WA【〓《王➡𛄌》】[ワ]
5. 不明
U【〓《彡》】[ウ] - 明治13年の『横文原由考声音正訛弁師範必読』に見られる梵字《𑖄》及びラテン文字《U》の音を示す拡張仮名文字。
NG【U+E500《𠃋➡ㄥ》】[ング] - 喉音の《ン》[ŋ]を示す字母である古カタカナ。
NG【U+E597《⿵ウ丶》】[ング] - 訓点用字母。
参考HP
『假字の本末: 2巻附1巻 - Google ブックス』
・著: 伴信友 (1850年)