珍しい語彙と書き換え語・言い換え語
5/1は語彙の日という単語の記念日で、近年5/18のことばの日も単語の記念日である意味合いが大きくなったことで、日本では単語の記念日が実質5月に2つ存在しています。
今回は20世紀に生まれたものを中心に、珍しい語彙と漢字の書き換え語について取り上げます。
昭和前期
昭和初期にカナモジカイなどでは難解な漢語を簡単な単語又は和語で置き換える提案が行われたり言い換え語が生み出され、昭和4年に刊行された『カナ・コトバジビキ』で漢字熟語に対応するにまとめられ、国立国会図書館デジタルライブラリで閲覧できます。
【アニブン】兄分 - 弟分に対する男性の先輩の意。
【エラモノ】英雄, 偉者 - 英雄に対応する和語で、漢字表記は〈偉者〉と思われる。
【タカヒク】高低 - 漢字表記は[コゥテイ]と読まれるものと一緒。
【トコロコトバ】所ことば - 方言に対応する和語。
【ヘメグリ】経巡り - 遊歴に対応する和語。
大阪毎日新聞社の『漢字制限に伴ふ新用語』による方式やカナモジカイによる漢字制限案で生まれた熟語書き換えも生まれました。
他にも当時の漢字制限で生まれた書き換え語もあります。
【処女➡所女】しょじょ - カナモジカイの置き換え案のひとつ。場所の意味の処と同義の《所》を当てたもの。
【繊維➡線維】せんい - 大阪毎日新聞社式。
【動悸➡動気】どうき - 日本医学会式。
当用漢字制定後の言い換え語
昭和21年に当用漢字が制定されたときに、表外字を含む熟語の置き換えが目立つようになりま、各出版社・メディアによって独自の書き換え語・言い換え語が生まれました。
【語彙➡語囲】ごい - 単語の範囲を示す書き換え語。
【杓子➡勺子】しゃくし - 但し、勺は平成22年に常用漢字から削除された。
【醤油➡正油】しょうゆ
【凋落➡彫落】ちょうらく - 平成後期の学研プラス『漢字源(改訂第六版)』に見られる同義語。
【廃墟➡廃虚】はいきょ
【煉獄➡練獄】れんごく - 昭和20年代後半の『読売新聞スタイルブック』の方式で、煉は《練》に置き換えられていた。
表外音訓を含む言い換え語
当用漢字とその後継である昭和56年10/1制定の常用漢字の表外音訓を含む当て字による書き換え語の例です。
【危惧➡危虞】きぐ - 虞の音読み[グ]は当用漢字の時代に制定されたJIS文字コード第1水準の配列順では、当用漢字の表外音訓にもとづき“ク”の部に分類されているが、現在も常用漢字で音読みが認められていない。
【齎す➡持たらす】もたらす - 語源からの当て字。
【輪廻➡輪回】りんね - 本来、廻は《回》と同義。
改定常用漢字制定後の推測漢字置き換え
平成22年に制定された改定常用漢字の範囲内による推測置き換え語です。
【埠頭➡阜頭】ふとう - 大正15年の大阪毎日新聞社『漢字制限に伴ふ新用語』の方式による書き換え語。阜は令和2年に小学校4年の教育漢字と認定されている。
【煉瓦➡練瓦】れんが - 当用漢字時代の読売新聞社の置き換えルールにもとづく表記。
改定常用漢字の表外音訓による当て字の例です。
【勾】かぎ - フック🪝の意の《鉤》の古字であり、中国では一時期、二簡字で簡体字の《钩》に代わる略字として使用されていた。
【味噌➡味曽】みそ - 平安時代に見られた表記。
言い換え語のような中国語圏の単語
中国語圏では日本語の借用語が数多いのですが、別の漢字に置き換えられるケースも見られます。日本語としての発音が当て字のように感じるものも稀に見られます。
【怪人➡壊人】かいじん - ユニコード絵文字"SUPER VILLAIN"《🦹》の広東語における訳語〈超級壞人〉からで、ヴィランと呼称される悪玉の意。日本語で読むと特撮における怪人の当て字のように見える。
【弁当➡便当】べんとう - 中国語では弁から日本語では同音となる《便》に置き換えられて借用された。ちなみに日本語の旧字体表記では〈辨當〉。