母体の目ざめ
はぁ、はぁ、——もしくは、ぜぇ、ぜぇ、と肩で息をするように、石油ストーブが音を立てて動いていた。エアコンには真似できない、人の体の、奥の、奥の、奥の方を温める風が、私の体温を上げていた。
まるで誰かに抱かれているようなぬくもりに、心地よく酔ってしまいそうになる。ふかふかの絨毯に横たわりながら温風に頬を撫でられていると、とても気持ちがよかった。私は気づくと、うつら、うつら、として、意識を、手、放して、い、った。
***
徐々に意識が浮上し、目が覚めた。
しかし、いつの間にこんな場所に来てしまったのか。そこには石油ストーブも、肌触りの良い絨毯もなかった。その代わり、私は薄い布団の上に寝そべり、胸の上、ちょうど心臓のあたりに何か生き物のようなものを乗せていた。小さい頃に住んでいた借家を思い出させる、粗末な天井が目に入った。
1月のはずなのに不思議と寒くなかったのは、その“何か”のぬくもりのせいだからだろうか。それはもぞもぞと私の胸の上で動き始めた。
「うふふ、おかあさん、おきた?」
3歳くらいの女の子が、こちらをいたずらっぽい顔で見つめていた。知らないはずなのに、私はその女の子のことを知っていた。すごく、よく知っていた。
「ももか、重いなあ」
寝ぼけた声で言うと、「ももか」はにやりと笑って、愛らしい顔を私の胸の谷間にぐりぐりと押し付けた。
なんて愛しいんだろう。味わったことのない、体の奥底から込み上げてくる感情が、全身を満たしていく。その感覚に「ももか」のぬくもりが重なると、あまりにも気持ちがよく、細胞が多幸感に浸されていった。
「ふふふ、おかあさん」
目を閉じると、「ももか」の声が遠くなっていった。私はまた、深いけれど浅い、浅いけれど深い眠りに落ちていった。
***
再び目覚めると、そこに「ももか」はいなかった。タイマーが切れた石油ストーブは、もう息をしていなかった。腹部に違和感があって、トイレに行くと、下着が赤く汚れていた。
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最近ものすごく頻繁に、妊娠したり、子どもを産む夢をみる。この前みた夢はすごくリアルで、子どもの名前まではっきり覚えていた。
(2018.1.16執筆)
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