墨色の海の底で 2
小鳥の鳴き声、柔らかい砂浜、そして波の上に重なる夕焼け。ここほど落ち着く空間が他にあるだろうか。
「月みたいだね、君」
「誰に話しかけたの?」
「えっちょ、何でいるの」
ー君は君のこと好きでしょ?
初対面でこんな意味のわからないことを言ってきた男が、また私の目の前にいる。
「僕もここ、たまに来るから」
どうしよう…岩に話しかけてたとは、言えない。
「まあここには岩しかないし、君がみてる方向も岩だ。にしてもどこが月?」
「これが月に似てるなんて別に…」
「別に僕は岩のことだと言った訳じゃないけど」
「…帰る」
「ちょーっと待って。少し話そうよ」
「嫌だ」
帰ろうとする私の手を、彼が掴んだ。
「君、その態度はひどいんじゃない?」
「じゃあ言わせてもらうけど、君って言われるのは好きじゃないし昨日初対面であんな失礼なこと「失礼?何が」」
「わかんないならいい、とにかくさようなら」