#4 原監督の「決断する力」
上記のタイトルをご覧になって、ここでいう「原監督」とは、
A・プロ野球読売ジャイアンツの辰徳
B・青山学院大学陸上部の晋
このどちらか、二択で悩んでいらっしゃる方。
正解はBの原晋でした。
1月28日放送の『クイズ! 倍買』(TBS)にて、青山学院大学陸上部が登場し、原監督と美穂夫人、そして今年の箱根駅伝を走った3選手が解答者として出演しました。
不定期で放送されるこの番組は、問題に正解するごとに所持金が倍増するのですが、一問正解するごとに選択肢が一つずつ増えていき、最終問題は10択まで増えていきます。それに正解すると獲得賞金へと変わるのです。ただし途中で間違えれば賞金は全額没収、チャレンジは即終了となります。もし解答に自信がないときは、アイテムを購入して選択肢を減らす、あるいは今回導入された、スタジオにいる現役の学校の先生十人にどれが正解だと思うかを聞ける、いわゆる『クイズ$ミリオネア』(フジテレビ)のライフラインのひとつである、オーディエンスと同じシステムを使いこなし、全問正解を目指します。
今回の番組のテーマは「義務教育で習うこと」を範囲として出題。チャレンジャーは教科を分担制にして各々参考書を読み込み、万全の対策をしてきました。
チーム青山学院大学は学生たちの頭脳とアイテムの効果的な使用によって、10択問題まで駒を進めます。迎えた最終問題は「次のうち、実在する星座はどれか」というものでした。その選択肢が
1.人魚座 2.イグアナ座 3.ねこ座 4.かみのけ座 5.リボン座
6.ネックレス座 7.振り子座 8.スプーン座 9.方位磁針座 10.虹座
というラインナップです。
お伝えし忘れていましたが、今回の放送では各問題に制限時間3分が設けられており、その間に五人で正解はどれか、アイテムを使用するのかしないのか、そして使うならどれにするか、話し合い、速やかに決断し解答しなければなりません。
チーム青学のファーストインプレッションは学生三人が3.ねこ座、原監督は8.スプーン座、そして美穂夫人が1.人魚座と予想。ですが誰も自信を持てずにいるため、正解する確立が非常に高くなること、そして最後は自分たちの力で正解したいという思いから、選択肢が二つに絞られるアイテムを購入。強力なアイテムにつき、所持している金額から60%差し引かれるという高額ぶり。チーム青学はここまで124万円を獲得していたため、74万円を支払い、残りは50万円。この問題に正解し、その倍の100万円を獲得する作戦に出ました。
アイテム使用の結果、残った選択肢は4.かみのけ座と6.ネックレス座。ここで残り時間が1分を切ります。
学生三人は6.ネックレス座に心が傾いていましたが、美穂夫人が4.かみのけ座について「女の人の髪みたいなことなのかな…」と何か引っ掛かっているかのように呟きます。
残り時間あと30秒。ここで原監督がおもむろに「かみのけにする?」と口を開きます。それまで多数決ならば6.ネックレス座に決まりかけていたところに監督の鶴の一声。突然の展開にチームのメンバーは混乱します。
残り10秒。もうあとがないなか、原監督は「かみのけですよ。ヨーロッパ文化なんですよ」と半ば自らの主張を強引に押し切る形で4.かみのけ座に決定。「私を信じなさい!」と強気の姿勢を見せる指揮官に対し、メンバーはあわてふためき、スタジオは騒然、そして解答者に助太刀アイテムを売り込んできたヒムラヤの店主、バナナマン・日村勇紀までもが呆気にとられます。
どよめきからの、
緊張と沈黙が続いた後、
まさかの正解!
見事100万円を獲得することができました。しばしの熱狂と興奮が続くなか、監督はすかさずカメラ目線で「リーダーとは決断する力だ!」とガッツポーズとドヤ顔の合わせ技を決めてみせました。
驚きを隠せないのはMCのバナナマン・設楽統も同様で、何故かみのけ座を選んだのか訊くと、「最後の最後に奥さんの意見を聞いて」と、あの時の美穂夫人の呟きにインスピレーションを受けたというのです。続けて「監督の監督は奥さんなんですよ」と声を絞り出しました。
その原監督の言葉を聞いて思い出されるのが、現役時代には戦後初の三冠王に輝き、監督としては自身の代名詞となったID野球を確立したプロ野球の名将、野村克也の言葉です。
1980年、45歳で現役を退いた後、独自の視点の解説とその理論が評価され、ヤクルトスワローズの監督に就任したのは1989年のシーズンオフ。その年のドラフトで入団し、後に平成を代表する名捕手、古田敦也をはじめとするスワローズの選手やコーチたちに、野村イズムを徹底的に叩き込みました。その後のチームの快進撃、そのすべての始まりはサッチーの存在なくして語れないのです。監督のオファーを受けることも、それまでの関西中心の生活から東京に行くことも、すべて妻・沙知代の「なんとかなるわよ」、「大丈夫よ!」という口癖が野村氏を動かしていたのです。
そんなエピソードをどこまで知っていたかは分かりかねますが、突然の監督就任要請を受け、当時は弱小だったチームを優勝させ、常勝軍団へと押し上げたという経緯は野村氏とほぼ同じである原監督。リーダーに必要な素質が何なのか熟知し、その手腕が、クイズ番組という意外な場所の、最高のシチュエーションで発揮されました。名将、畏るべし。
ちなみに、獲得した賞金の使い道は、この春卒業する部員とマネージャー19人の卒業旅行の費用に充てるとのことです。賞金獲得の瞬間、別室のモニターで見守っていた一部の部員と女子マネージャーが大喜びする様子を、番組のカメラはしっかり記録していました。卒業生の皆様、おめでとうございます。
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参考文献
『野村四録 戦略の書 組織を動かす極意』野村克也 セブン&アイ出版
『野村四録 不惑の書 生涯現役の理念』野村克也 セブン&アイ出版
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